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長い勤務時間が終わった、特に今日はいつもより長く感じた慎吾の携帯から着信音が聞こえてくる。

相手は三浦副総監。慎吾の実父・・・

「ああ、親父?珍しいな何か用か?」

廊下を歩きつつ電話を受けると、すれ違う婦警達が振り返り、会釈をして去ってゆく。

ー今日俊ちゃんのギブス取れるんだろ?快気祝いにメシ奢るぞ?−

ああ?一瞬にして慎吾の表情が崩れた。

(何考えてるんだ?!このおっさんは・・・)

怒りが沸々と湧いて来る。やっと解禁になったというのに、今夜は何の心配も無く、二人であれこれ色々と予定していたのに・・・

「今日は辞めてくれ。メシは来週末くらいでもいいだろ?」

ー?何かあるのか?今日?−

「あるよ、大有りだから」

ー取り込んでるのか?−

「これから取り込むんだよ。つーか何考えてんだよ、今日の夜は邪魔すんじゃねぇよ。電話も訪問もするなよ。気ぃきかせろまったく」

−・・・・−

電話の向こうで沈黙が流れた。

「親父?」

ーわかった・・・・ほどほどにしろよ。明日から週末で非番とは幸いだったな。俊ちゃんによろしくなー

電話を切った後、若干の罪悪感を感じつつ、慎吾は駐車場に向う。

(親父の好意を踏みにじったかな?でも、限界だし。つーか、いつから俺、こんな色ボケになったんだろ)

自分でも呆れる。今、自家用車で家に帰ろうとしているこの瞬間にも、頭の中は俊介でいっぱいなのだ。

勤務中はまだ仕事に集中できたのだが、終わったとたんにどうしょうも無くなる。

昼休みの時間に警察病院から、無事にギブスが取れたという俊介の電話に、気があせるのをかろうじて押さえた。

ー夕飯は何がいいですか?−

そう聞いてくる俊介に、病み上がりだから気を使うなと言った、確かに外食という手もあるが、外で食事をして帰ってきて

いちゃいちゃのお預けを食らっている時間がもったいない。早く二人きりになりたかった。出来れば夕食前に一回は・・・

運転中にもあれこれ思いつめ、マンションのエレベーターの中でも一人あれこれと思い悩み、とうとうドアの前にいた。

 

ドアを開けると、俊介が玄関先で出迎えた。その笑顔に癒され、メロメロになる。

「慎吾さん、お帰りなさい。夕食の準備できてますよ〜」

 並んでリビングに向いつつ、慎吾は俊介の右腕を掴んで頬擦りをする。

「完治してよかった、俊介の腕だ〜」

クールでスタイリストな慎吾らしくない、デレな反応に俊介は一瞬固まった。まあ、一緒に住んでから今まで、休むことなく

俊介の中の慎吾像は崩れ続けているので、今更ではあるが。

「もう怪我なんかするなよ〜」

絶対、署内では見る事が出来ない慎吾がここにいる。おそらく俊介以外の他の誰にも、こんな姿は見せないだろうと思われた。

それほど心配をかけたのだろう事は俊介にも察しがつく。これからは慎吾のために、自分の命と体を大切にしなければと思う。

誰かの大事な人になれたという喜びに浸れる一瞬だった。

「気をつけます。慎吾さんも気をつけてくださいね」

笑顔で俊介は、慎吾の上着を受け取り、クローゲットのハンガーにかけに寝室に向う。

両手が使えるようになってやっと、こんなお世話も出来るというものだ。

後から寝室に入ってきた慎吾の前に立ち、ネクタイを解きにかかる俊介、こんな新妻のような仕草が慎吾には

たまらなくそそられる。

俊介自身も、ギブスが取れて嬉しそうだ。ようやく自由を獲得した喜びに満ち溢れている。

「もう限界だから、今ここで・・・ダメか?」

抱き寄せられ、ベッドまで追い詰められた俊介はベッドに腰を落とし、つぶらな瞳で慎吾を見つめる。

「夕食は?」

「今はお前が食いたい」

照れたように笑って、俊介は自分の前に屈んだ慎吾の首に腕をまわして引き寄せた。

「本当は、慎吾さんが帰ってきたら真っ先に、こうして抱きしめようって思って待っていたのに、いきなりの頬擦りにびっくりして

やりそこないました。腕折ると、慎吾さんを抱きしめる事も出来ないんだなって、いつも当たり前のようにしていた事が出来なくて

もどかしくて・・・慎吾さんは僕よりもっと、我慢してたんでしょう?」

ああ、頷きつつ苦笑して、慎吾は俊介をベッドにそっと横たわらせる。

「今までお前の痛々しいギブス姿に遠慮してたけど、今実感したよ、限界を」

慎吾が夕食よりも何よりも、一番に自分を欲してくれた事に俊介は幸せを感じた、そして、もっともっと強く求められたい衝動に

駆られて、少し頭を上げて慎吾にくちづける。骨折してからキスの一つも満足にしていない事に気付きながら。

「とりあえず、慎吾さんの空腹を満たしましょう」

微笑みつつ、慎吾のワイシャツのボタンを外し始める。先ほど外したネクタイが首にひも状にひっかかったままで・・・

しかし、慎吾はまともに衣服を脱ぐ気さえないように、俊介のズボンに手をかけている。

「慎吾さん?」

あっという間にズボンを剥ぎ取られて、トレーナーは捲くり上げられた。

胸から下が露出された状態の俊介に、シャツの前を肌蹴た慎吾が覆いかぶさってくる。

 行為自体は荒っぽいわけではないが、今までにない反脱ぎな状態に、慎吾の余裕の無さを感じた。

着衣状態で、しかし肌と肌は密着しているという不思議な感覚に、全裸状態以上に羞恥心を煽られた俊介が腰を蠢かせると

ずり下ろされたスラックスから現れた慎吾の下腹部に、自らの下腹部が触れ、思わず声をあげのけぞってしまう。

意図せず、起き上がったお互いのものが擦り合わせられたのだ。

「何、俊ちゃん、おねだり?擦ってほしいの?」

慎吾に耳元で囁かれて、俊介は首を振る。

「これは事故です」

「事故で、思わず感じたの?」

半泣きになる俊介。間違いではないが、今ここでそんな分析をして欲しくは無かった。

「嫌なら、しないけど」

余裕が無いといいながらも、慎吾は俊介をじらす余裕はあるらしい。

「して、ください」

慎吾の脇からワイシャツの中に腕を忍び込ませて、背中に手をまわすと俊介はぎゅっと抱きしめ、自らの腰を慎吾の腰に押し付けた。

節目がちに優しく笑いながら、慎吾はそんな俊介にそっとくちづけた。

 

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