45

 

 

「で、おじさまの夕食のお誘いを断ったんですか?」

やっと落ち着いて、夕食を終え、沐浴後のコーヒーを飲みながら慎吾は父、進に快気祝いの誘いを受けた事を俊介に告げた。

「すまない、かなり切羽詰っていたみたいで、今夜は邪魔するな、気ぃきかせろとまで言ってしまった」

今思えば、あんまりな事をしたような気もする慎吾。後悔先にたたずだ。

「実のお父さん、しかも職場の大上司によくもそんな事・・・」

まあ、実の父だから言える事なのかも知れないが。

しかし、先ほどの慎吾を思うとやはり、それほど我慢がぎりぎりだったのだろうとも思える。

「うん、煩悩から離脱した今では、ちゃんとした判断が出来るんだがなあ、あの時はちょっとな」

「大変だったのは判りましたけど。新しい慎吾さんを見たというか、驚きました」

ああ・・・慎吾は頭を抱える。そして心配になる。

「性急にしたから?もしかして気分害した?」

「いいえ。こんな時でも慎吾さんって紳士なんだなあと感心しました。もっと強引でも平気ですよ?僕、男だから」

冗談とも、本気ともつかない俊介の言葉に、慎吾は苦笑しながらコーヒーを飲み干した。

「さっきのはもう忘れろ。終わって気がついてみれば、強姦事件みたいな情景が目の前にあって焦ったんだからな」

ははは・・・俊介は二人のカラのカップを回収して、シンクで洗いつつ大笑いする。

「大丈夫、和姦ですから」

「俊ちゃん!そういうお下品な言葉をどこで習ったの!」

照れ隠しに慎吾は立ち上がり、俊介の背後に立ちおどけてみたりした。

「いつかしてみます?強姦プレイ」

手を布巾で拭きながら笑顔で振り向く俊介を、慎吾は抱き上げる。

「しない。いや出来ないから、お前には」

え?首を傾げて俊介は、落ちないように慎吾の首に腕をまわして掴まると、そのまま寝室に運ばれた。

「こんなに可愛い俊ちゃんに、酷い事出来ないでしょ?」

ベッドに降ろされ、頭を撫でられて、俊介は膨れる。弱者の扱いを受けているのだろうかという思いに少しプライドが傷つく。

「それ、子供扱いですか?それとも弱い者いじめ出来ないとかそういう意味ですか?」

う〜んしばらく考えて、ベッドに仰向けに寝転がった慎吾は天井を見つめる。何故、自分は俊介に対して弱気なのかを

分析してみる。

「嫌われたくない、傷つけるのが怖い、そんなとこかな。今までそんなこと考えた事も無かった。俺は自分が嫌われるはず無い

ってくらい自惚れてたからなあ。それに嫌われても、どうせ一夜限りだ、チョイMっ気のある奴なら乱暴に扱ったって何の問題も

無かったし」

ふうーため息と共に、俊介は慎吾の腕に頭を乗せて横たわった。

「嫌うわけ無いじゃないですか?押しかけ女房したのは僕なんだし。むしろ、それまだ引きずってて、もしかしたら慎吾さんは

嫌々僕とつきあってるんじゃないかって思うくらいなんですから」

ええ・・・がっかりした顔で慎吾は振り向く。

「こんなに愛してるのに、伝わってないのか?クールな俺を色ボケにしたのはお前だぞ」

苦笑しながら俊介は慎吾に抱きつく。確かに慎吾は変わってしまった。それは頷ける。

「それを言うなら、純情な僕を淫乱に変えたのは慎吾さんでしょ」

「お互い様か?とりあえず、今夜は朝までつきあえ」

「煩悩から離脱したんじゃなかったんですか?」

「煩悩なんて1,2時間で回復するのさ。俊ちゃんとなら30分で回復する〜」

「僕は特別なんですね」

そう・・・と慎吾はいきなりのしかかる。

慎吾を見上げて、着ているパジャマのボタンに手をかけた時、不意に先ほどのワイシャツを肌蹴た慎吾の姿が思い出されて

俊介は頬を赤らめる。

「どうした?」

「いえ、先ほどの半脱ぎの慎吾さん、色っぽかったな・・・って。こう、解いたネクタイを首にかけて」

俊介の言葉に、慎吾も頬を赤らめて目をそむける。恋愛に慣れていて、何事もジョークで軽くかわしていけると思っていた慎吾が

これしきの事で羞恥心を露にするとは俊介には意外だっだ。

「そういうこと言うと、俺も照れるから」

そんな慎吾が今までで一番可愛く思えて、俊介は慎吾の耳たぶを甘噛みした。

「おいっ!」

驚きつつも、そんな小動物のような俊介にメロメロになっている自分を、慎吾は自覚する。

そんな、いつもの自分らしくない自分に出会うと、少し戸惑いを隠せない。

「半脱ぎが全裸より恥ずかしいって、初めて知りました」

「強姦っぽいからかな」

「いえ、どちらかというとチラリズム?」

はははは・・・慎吾は大爆笑をした。

「言い方が古いな〜お前。若いくせに」

「慎吾さんこそ、遊び人の振りしてシャイですよね」

 慎吾はいつも、ありえない自分を俊介に見られる。しかし、そのありえない自分が実は本当の自分であった事に気付いた。

そして、そのありえない自分が一番心地いいのだという事も。

 「お前といると楽なんだ。鬼頭優希のために脇道それた達彦の気持ちが、今なら判るなあ。もうお前だけでいいって気がする」

「大阪に赴任されるんでしたっけ?八神警視。よかったですね」

「俺とお前に未来の警視総監と副総監を任せて、自分は出世街道を外れる気だ。まあ、もともとそんなものに興味なかったんだけど

な。あいつは」

頷いて、俊介は慎吾の背に腕をまわす。

「でも、慎吾さんは手に入れてください。僕と警視総監の地位、両方を。そして傍には僕がいる。それが今の僕の夢なんですから」

皮肉なもので、出世やキャリアに興味が無かった俊介が、慎吾に出会って、副総監を目指し始めた。

ただ、慎吾の後ろに就くことだけを願って・・・

「ずっと、俺の傍にいろよ」

首筋に落とされた慎吾の唇に、俊介は微笑みつつ答える。

「もう、離れませんから。ああ〜腕が治って、こうして慎吾さんを抱きしめられる事が幸せなんだって実感しますよ」

自分の背に俊介の腕がまわされている事に、慎吾自身も幸せを感じている。

「ずっとくっついていよう。朝まで」

「それは、今までだって・・・」

そうだったと言いたい俊介。

「いや、繋がってようって事。俊ちゃんもここ、寂しかっただろうし」

いきなり腰を引き寄せられ、尻を撫でられて俊介は固まる。

「療養中は前ばっかり攻めちゃったから、後ろはご無沙汰だねえ」

いきなり、浴室や、リビングでの痴態を思い出し、俊介は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

「あ、今何か思い出した?」

顔を覗きこんでくる慎吾から逃れようと俊介はもがく。

「なんでもありません」

「大丈夫、心配するなよ。前だってちゃんと可愛がってやるから〜」

さらにじたばたする俊介を、面白がって押さえつけている慎吾に俊介は困り果てる。

「さっきは色っぽかったのに、もうおちゃらけですか?」

「こうして俊ちゃんの緊張をといてあげてるんだよ〜」

だんだん口調が父の進に似てきて、保母さんのようだと苦笑する俊介だった。

 

 

     TOP        NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト
inserted by FC2 system