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退院してから俊介は、自宅療養していた。

なす術もなく、ただ引きこもる日々・・・慎吾に面倒をかけていると落ち込んでいた。

 「すみません・・・夕飯作れないだけじゃなくて、僕の飯の世話までさせてしまって・・・」

電子ジャーでご飯は炊き、おかずは慎吾が帰りに買ってくるお惣菜。食べる時は補助が必要・・・

「なんか、めんどくさい奴になっちゃいましたね」

苦笑しつつ片手で茶を注ぐ。

「役に立つから一緒にいるんじゃないし。これくらい当たり前だろ?つーか、俺が怪我したら、お前はめんどくさいとか思うわけ?」

いいえ・・・苦笑しつつも、それでも役立たずな自分が辛い。

「お前の入院中に、一人でメシ食うのがどれほど辛かったか。こうして目の前にいてくれるだけで幸せだと気づかされたよ」

そう言いつつ、慎吾は俊介の口に肉じゃがを運ぶ。

「でも、怪我なんかするなよ。そんなに焦らなくても、お前は優秀だから」

ははは・・・俊介は笑う。なんとなく、八神達彦に負けたくないと変に張り合っていた自分がいた。しかし今は違う。

達彦は達彦。自分は自分なのだ。慎吾が必要としているのも誰でもない自分。

 「なんかさ、はい、あ〜ん みたいなこういうのさ、俺らしくなくてレアだろ?」

おそらく、今まで誰にもした事が無いだろうと思われた。そして、これからも・・・

「それを慎吾さんにさせてる僕は、自信持っていいんですね」

「うん。結構楽しいのがもう〜イカレてる感じで。そのうち、許可が下りたら風呂も入れてやるから」

風呂・・・そういえば限界が来てはいるが・・・俊介は困り果てる。

「いいですよ。自分でなんとか・・・」

「介添えがいない場合は、病院で看護婦が入れてくれるとか言ってたな」

看護婦に風呂に入れてもらうのも、出来れば避けたい。

「看護婦さんのほうがいいか?」

よくないでしょ・・・

「襲わないからさぁ〜」

「そういう問題じゃなくて、この状態だと僕の方がヤバいんで・・・」

ああ〜頷きつつ、慎吾は食器を流し台に運ぶ。

「大丈夫、処理してやるから」

何をですか!!!半泣きな視線を俊介は、食器を洗う慎吾の後姿に投げかけた。

「でも、フルコースは無理。腕に何かあったら怖いし、そういうこと気遣ってると出来ないし」

後ろ向きのまま、慎吾は頷きつつそう言う。

「すみません・・・そういうところでも、今の僕は役立たずなんですね・・・」

とぼとぼと寝室に去ってゆく俊介の背中を、困り顔で慎吾は見送った。

 

 

 「情緒不安定になってるか?」

シャワーした後、首にタオルをかけて、慎吾は寝室に入ってきた。

「そうかも知れませんね。昼間、一人で部屋にいるから色々考えちゃうし・・・」

 することが無く暇で、俊介はずっと読書をしている。小説、エッセイ、挙句は犯罪心理学まで。

今も、ひたすら読書中だった。

「俺もさ、同じ状況だときっと落ち込んだり、イライラしてると思う。人の世話になるのが人一倍下手だからな」

長年、想い続けていた達彦にでさえ、本音を明かせなかった慎吾である。

「でも、お前にだったら、甘えられると思うぞ」

慎吾の言葉に、俊介はうっかり涙を零した。それほど嬉しかった。

「それは、最高の愛の言葉ですよ」

「もし、俺の言葉に、お前が喜びを感じたなら、それがまんま、今の俺の気持ちだって理解できるか?」

机に向かって本を読んでいた俊介の肩に、慎吾はそっと手を置く。

「それにお前、俺のこと誤解してないか?よっぽど奉仕とか、無償の愛とかに程遠い人間と思ってるだろ?

利害で動く性欲魔人とか思ってる?」

いえ・・・そんなことは・・・無いと言いたくて、俊介は慎吾に向きなおる。

「親父ですら、そうだしな。お前を俺が無理矢理、襲ったみたいな言い方するだろ?」

 「ああ、そうですね。おじ様もそれについては、あんまりですよね。第一、そんな鬼畜みたいな人、僕が好きになるはずが無いじゃ

無いですか」

にっこり笑って慎吾は、俊介の頭をポンポンと軽く叩く。

「判ったんなら、いい。焦ったり、葛藤したりするのは向上心があるからだし、悪くは無いけど、無駄に空回りするんなら

時間の無駄だから、やめたほうがいい」

「慎吾さんって、焦りと葛藤なんてないでしょう?いつも勝ち組だし」

俊介は立ち上がって、ベッドに移動すると腰掛ける。

「でもない。大きく敗北したからな〜やくざの一人息子に」

いわゆる勝ち組だった慎吾は、達彦の件で、鬼頭優希に敗北した。

「八神警視の事ですか・・・それは敗北じゃなくて、ただの勘違いです。慎吾さんは僕と出逢う運命だったんですから」

「じゃ、俺は無敵か〜」

笑いながら、ベッドに横たわる慎吾に、俊介はシーツをかける。

「あ、でも、敵わない奴が一人いる」

え?慎吾の言葉に首を傾げつつ、俊介も横になった。

「俊介には多分、敵わないな」

「どうして・・・」

「惚れた弱みって奴。昔から、惚れた奴が負けだと思ってた。のめり込むまいと思ってた。でも今は・・・」

「それは、引き分けですね。おあいこって奴ですか・・・だから、敗北じゃないですよ」

なんとなく、こうして修学旅行気分で、添い寝も悪くないと慎吾は思う。

達彦の言っていた腕枕時代は、こんな感じだったのだろうか・・・

気づかなかった感情に気づかされる。

無我夢中で爆走していたのが、ふと立ち止まり、周りの景色に癒されるような・・・

「そうか、そう言う意味では、俺の初恋は俊介なんだな・・・」

はははは・・・大うけして大爆笑の俊介を、慎吾は睨みつける。

「なにか、不満でも?」

「超スレた初恋ですね」

全然ピュアさが無い。初恋までに色々あり過ぎなところが、なんともいえない。

「でも、それが本当なら、嬉しいです」

そっと慎吾の手を握ると、俊介は静かに眠りについた。

 

 

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