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 「先輩、今日は僕、これからデートなんで、先に帰っていてください」

ある日、俊介がいきなり聞き捨てならない事を言い出した。

「そうか・・・」

顔色を変えずにそう言ったものの、非常に気になる慎吾である。

「父の友人で、小さいときは色々良くして頂いたおじ様なんですよ」

ますます怪しい・・・・

「なに?それ、パトロンか?」

警察署の玄関を出て二人、並んで歩きつつ駐車所に向かう。

「ああ・・・学費とか援助してくださっていたから・・・違う意味でパトロンかな。僕のあしながおじさんです」

俊介がものすごく嬉しそうな顔をしているのが、なんとも腹立たしい。

「東京にいるのか・・・」

「はい、東京から、ざわざ田舎まで来てくださって遊んでくださったり、上京したときは、あちこち案内してくださったんです」

「大丈夫か?そいつ?」

「優しい、いい方です。」

本当か・・・・慎吾は何故か我知らず嫉妬していた。

「俺もついて行ったら駄目か?職場の先輩としてだな・・・」

「警察の関係者は連れて来てはいけないといわれたので・・・」

え?!

(何者だ?警察連れてくるなだと?)

「やくざか?そいつ?」

はははは・・・・俊介は笑う

「やだなあ・・・・父の友人だって言ったじゃないですか?」

警察とやくざが友達はありえない・・・しかし、慎吾は安心できずにいた。

(現に達彦は鬼頭組の跡取りと付き合っているじゃないか・・・・)

「駐車場で待つように言われたんで・・・」

「そいつ来るまで一緒にいる」

「駄目ですよ。誰にも見つかるなって・・・」

妖しさ100倍ではないか。誰にも見つかるな・・・犯罪の香りがする。

そこへ黒い自家用車が1台ゆっくりやって来た。

見覚えのある車だ。

(どこで見たんだろう・・・・)

そう考えていると、車窓から顔を出す中年の男・・・・

「俊ちゃん、待った?早く乗りなさい」

(俊ちゃんだと?気安く呼びやがって・・・どこに連れ込む気だ?このオヤジ・・・・)

慎吾は、かなりむかつく頭の中で、どこかで聞いた声だと感じていた。

「はい、」

乗り込もうとする俊介を、慎吾は取り押さえる

「待て、稲葉!」

「慎吾・・・お前は早く帰りなさい」

(このオヤジ!何を気安く人の名前を呼び捨てに・・・)

顔を拝もうと屈んで車窓を覗き込んだ。

「オヤジ?」

「先輩!副総監殿にオヤジ呼ばわりはいけませんよ!」

「いや、マジ、オヤジだし。俺の親父」

「え?」

三浦進副総監・・・・三浦慎吾・・・親子だった・・・

 

 

「もう、俊ちゃんは・・・警察の関係者連れて来ちゃ駄目だって言ったでしょう?」

ホテルのルームサービスでディナーをとる副総監、慎吾、俊介・・・・

(誰?これ?本当に俺の親父?)

言葉使いがまるで違う。

ハードボイルドの渋い副総監はどこにいったのだ・・・

「すみません・・・先輩が心配しちゃって・・・ヘンな人のところに行くんじゃないかって・・・」

「慎吾だからよかったけど・・・他の警察に見つかったら、俊ちゃん何言われるか判らないから、危なかったよ」

「親父・・・なんで幼稚園の先生みたいになってるんだ?」

「お前には関係ない」

(何で俺にはハードボイルドなわけ?)

未知の父と出会い、混乱する慎吾。

「俊ちゃんが町田に配属になったって聞いて、そのうち食事に誘おうと思ってたんだけど、忙しくて今になっちゃったよ」

「いいえ、お忙しいのにすみません・・・」

「慎吾がそっちに行ったから、課長に世話させるように言ったんだけど・・・いじめられてないか?」

「先輩は手取り足取り色々教えてくださいますから・・・感謝です」

そうか・・・満足げに笑う副総監。

「何かあったらすぐ言いなさい。俊ちゃんをいじめる奴は左遷させてやるから」

慎吾はこんな強烈な父を、未だかつて見たことが無かった。

一体何が起こったのか・・・・・・

「慎吾・・・邪魔だな・・・」

え?

(もしかして・・・稲葉って・・・親父の隠し子?)

「ヘンな詮索はするな。今、隠し子かもとか思っただろ?」

「違うのか・・・・」

「俊ちゃんは、俺の親友、稲葉俊一の忘れ形見なんだ。大学までずっと一緒だった・・・」

そんな事は初めて聞いた。

「にしては、階級に差がありすぎ・・・」

「俊一はノンキャリアを選んだんだ。地方の巡査になって、町の人の役に立ちたいと。あいつなら、俺より出来がいいから

今頃は俺の上司になっていただろうに・・・だから、俊ちゃんにはキャリアを選ばせたんだ。

洋子さんにも、そうさせるように言った。俺が責任持って引き上げてやる」

まるで人格の変わってしまった我父に、慎吾は困惑する。

「洋子さんはご主人があんな亡くなり方をしたから、息子の俊ちゃんには警察官になって欲しくないと訴えてきたんだけど

俺が説得したんだ、管理職なら殉職の確立は少ないし、俺が何とかして守ってやれるし・・・」

(もしかして・・・親父、稲葉のおふくろさんの事?!洋子さんなんて、馴れ馴れしいし・・・・)

「慎吾、ヘンな詮索はするなと言っただろう!」

「なんで・・・判るんだ?」

「お前の考える事は、たかが知れている」

この親子の会話には俊介はついていけない・・・

「とにかく、食事しよう」

3人は食事を始める。

慎吾は初めて知る父の親友の話に戸惑う。こんな事は一度も聞いた事は無かった。

稲葉俊一・・・始めて聞く名前だった。

そういえば・・・父の大学時代のアルバムに八神警視総監と父、そして、もう一人・・・3人で写っている写真が何枚かある。

あまり気にもとめなかったが、彼が俊介の父親なのだろう。

「俊ちゃん、お正月はどうする?」

「母が待っているので、田舎に帰ります。事件が起こらなければ・・・の話ですが。」

うん・・・・

そういえば、もう11月、あっという間に年末・・・

「ウチは・・・慎吾と二人で正月か・・俊ちゃんも来れば、楽しいのに・・・」

(楽しいかよ?!男3人で?)

実の父は、実の息子の慎吾より、俊介が可愛いらしい・・・・

(親父、ショタか?稲葉狙ってる?)

「慎吾、勘違いするな、お前と一緒にするな」

「おじ様?」

「ああ、なんでもないんだよ。とんだ邪魔が入ったもんだ。今のマンション、いつまで?探してあげるよ。

なんならマンション買ってあげるよ」

(愛人囲うんじゃねえんだぞ・・・・)

本当にパトロンな父に慎吾は呆れる。

「そんな・・・いいですよ。来年の春には出ないといけないから・・・色々探してます」

「困った事があったら何でもいいなさい」

 

 

「それで、なんで俊ちゃん、慎吾の車で帰るんだ?送ってあげるのに・・・」

来るとき、父の車の後ろを自分の車に乗ってついてきた慎吾が、俊介を乗せて帰ることにした。

「先輩の隣に住んでいるんです、偶然に。」

「だから、親父は消えろ」

「仕方ないな・・・気をつけて帰るんだよ」

ホテルの玄関で二人は副総監と別れた。

「おい・・・お前といるときは、親父はいつもあんな話し方なのか?」

ハンドルを握りつつ、慎吾はため息をつく。

「そうですよ・・・」

無口で、いつも眉間に皺を寄せている泣く子も黙るオニの副総監が・・・・・・・

「超、台無しだけど?」

「は?」

「いや・・・」

「でも、東京のおじ様が先輩のお父さんだったなんて・・・ますます運命を感じます」

だから、何の運命・・・・・それに、最初に田山課長が副総監の一人息子だと紹介しなかったか? 慎吾は心でブツブツ言う。

「つーか、なんで、あんなにお前に甘いわけ・・・正直に言え、あいつお前に何かしただろう?」

「小さいときは・・・抱っことか・・・肩車とか・・」

「セクハラみたいな事は?」

「しませんよ。先輩は自分のお父さんを何だと思っているんですか?」

いや・・・・

俊介にそう言われては何もいえないが・・・

 「でも、どうして気付かなかったのかな・・・先輩のお父さんだって」

「いや、課長が最初にそういったはずだ。お前何を聞いてたんだ?」

 ああ・・・・

あの時は お隣さんが目の前に現れて動揺していたのだ。

「要するに、お前と親父の間には、俺は入れないって事か・・・」

慎吾は少し寂しい気がして、ため息をついた。

  

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