分岐点4



「お見合いですか・・」

2週間ぶりに優希は、鬼頭商事東京支店の視察に上京し、達彦との再会を果たした。

久しぶりの優希の手料理の後の、食後のコーヒーを、ダイニングのテーブルを挟んで飲みつつ

今までの出来事を話す。

「なんだかモヤモヤしますが、やはり鬼頭には姐さんは必須でしょうし、仕方ない事ですよね」

「なんか、結婚の話が出てきて改めて、親父は凄いんやなあと思いました」

聡子の内助の功もさることながら、伊吹と家庭の両方を守って来たのは並大抵の努力では無いだろう。

「俺は無理かもしれへん。達彦さんの事、想いながら、片方で嫁貰うて、子供産んで・・・そんな事・・・」

「でも、それでなきゃ、意味が無いでしょう?」

達彦自身、優希の足手纏いになりたくは無かった・・・

「お袋みたいに、物分りのええ女はおらへんと思うし」

そうですねえ・・・達彦も頷く。

「それより何より、マジで俺、子作りとかでけへんと思うんです」

あ・・・自分が優希の立場に立って考えてみて、達彦は大きく頷く。

同性愛者、異性愛者という観念を超えて、跡継ぎが必要という理由で、何の感情も無い相手の子供を得る事は

容易では無いと思える。

複数の情婦(いろ)がいて当たり前な極道界でも、いろが男とあっては捉え方も変わってくるだろう・・・

「親父なんかよくも・・とか思うんですよ。5つの時から伊吹以外、目もくれんと一筋やったし、まあまあ

あれで色男とか言われてるけど、実はセックスアピール皆無やないですか?伊吹とおっても、母子状態や無いですか?

よくも、お袋と夫婦やってるなあと思うんですよ」

達彦は苦笑しつつ、考える・・・龍之介は聡子を大事に思っている・・・もし、優希が結婚したら、やはり、円満な家庭を築いて欲しい

しかし、それを遠くで見つめる自分は、かなり辛いだろう。

「藤島さんは、鬼頭さんと奥さんのすぐ隣にいて、辛くは無かったんでしょうか・・・」

伊吹と龍之介は、決して実る事の無い愛である・・・

「親父も間に挟まれて、かなりしんどい目にあったと聞いてます」

なるほど・・・達彦は頷く。知れば知るほど険しい道ではないか。

「そやから、当分は見合い断ろうかと思うんです」

「大丈夫ですよ。多分・・・上手くいくでしょう。そのうち・・・優君の事、信じていますから」

そう言われると逆に苦しかったりするが、優希は頷いた。

「すみません、せっかく逢えたのに、こんな話して」

と、優希は立ちあがる。

「いいえ、優君の事は色々気になりますから」

とテーブルのカップを片付けつつ、達彦はキッチンに向かう。

「後悔してませんか?」

「しましたよ大学生の頃。文化祭の後、それっきりにしてしまったその時・・・」

笑いながらカップを洗い片付ける達彦を、後ろから優希は抱きしめた。

「あの時に比べたら、今は天国です。優君は私のものになったし・・・」

と振り向いた達彦を、優希は抱き上げた。

「すみません。でも大事にしますから。一生・・・」

そう言って寝室に向かう。

ベッドに達彦を降ろすと、優希は明かりを消し、ルームライトをつけた。

「ほんまは、会うなり押し倒したかったのを、今まで耐えたんですよ」

「想いが溢れすぎて、かえって戸惑ってしまいますね」

達彦は苦笑すると、優希の手を取り、両手に挟みこんだ。

「逢いたかった・・・」

「すみません・・・」

自分のわがままで、遠距離恋愛になった事は、まだ優希の中で負い目になっていた。

「謝らなくていいですよ。優君は優君の道を行ってください」

鬼頭優希という男の生き様を見届けようと決意したのだ。

そして、自分も負けまいと思っている・・・

不意に達彦に手を引かれ、倒れこんだ優希はそのまま達彦に抱きかかえられた。

「たった一つの願いが痛みを伴うとしても、血を流しながらでも、私は貴方を放しません。それでいいですか」

そう言って引き寄せられ重ねられる唇に、優希は胸が詰まる。

時間が問題でも、距離が問題でも無いと、達彦は教えてくれる。

これからの事など、まったく見えないし、想像もつかない。でも、達彦が傍にいてくれるなら、恐れも無い。

「甘えてええんですか・・・」

「わがままでいいんですよ。受け止めてあげますから」

優希の首に腕を回し、達彦は微笑む。

今は、今だけは、まだ達彦だけを心に置きたい。色んな心配は後回しにして・・・

こうして、逢える事だけが幸せだった。

溢れてくる涙を隠すように、優希は達彦の首筋に顔を埋める。

東京にいる数日間は、二人の時間を無駄にしないように、達彦だけを想い続けていたいと感じつつ。

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