叶う想い、叶わない想い 5

 

 

 

「しかし・・・親父も不自由やなあ・・・」

南原を連れて外回りの龍之介の代わりに、伊吹の昼食の介助をしている優希がつぶやく。

「すみません・・・はよ治して、現場復帰します」

腕のギブスが取れるまで、あと少しかかるらしい・・・・

パジャマ姿で、髪を下ろしている伊吹は、完全にやくざをオフしている・・・・

「いや、やくざの連れくらい何ぼでもおるし、南原に任せたらええけどな・・・・」

食べやすいように、聡子は出来るだけ、どんぶり物を用意している・・・

カツ丼、親子丼、他人丼、天丼・・・それが優希には笑える

「明日は寿司にせえへんか?」

優希のつぶやきに、伊吹は苦笑する・・・・

「で、さっきの話な・・・今の伊吹は、絵に描いた餅やと言う事・・・」

はあ・・・・伊吹が目を点にしている・・・・

「まあ、お前は今怪我人やから、そんな気も起こらんやろうけど、親父は傍にいて手も出せんとは、発狂もんやろ?」

「ぼん!」

そんな風に育てた覚えはないのに、いつの間にそんなネタをかますようになったのか・・・

(それとも・・・やはり、龍さんの血筋かな・・・)

思い悩む伊吹の横で、怪訝な顔をする優希・・・

「おい、何考えてる?」

「DNAについて・・・」

はあ・・・・長い沈黙が流れる・・・

「それって・・・親父も、二人っきりの時は・・・・そういうことか?」

再び長い沈黙・・・

「・・・・ぼんも、不自由ですか?八神警視に逢えなくて・・・」

ぐわぁっ・・・・返り討ち・・・やられたと優希は降参した。

やはり、伊吹は龍之介の保護者、教育係・・・・その事を思い知らされた。

「しかし・・・親父はあんな感じとしても・・・・お前まで・・・想像つかへんな・・・」

年をとって組長の風格が出たとしても、龍之介は、ところどころで、伊吹に対して”好き〜好き〜”感をかもし出している。

一方・・・・優希には、今だに伊吹のポーカーフェイスが読めない。

龍之介を、慕い守っている事は理解できるのだが・・・・・

「親父と色々してる・・・つーイメージ湧かへんな・・・」

なんで、そちらの方向に話が・・・相変わらず表情は変えずに、伊吹は大いに困り果てる。

「色々・・・て・・」

「だっこにちゅーとかは想像可能やけど・・・それ以上のな・・・自分が達彦さんとそうなってからは、もっとリアルに

想像つかんというか・・・」

「・・・想像するのは辞めてください。セクハラで訴えますよ」

食後のコーヒーを無傷の左手で飲みつつ、伊吹は冷や汗を浮かべる。

「伊吹って・・・エロモードに入る事あるんか?」

放送事故のような長い沈黙が流れた・・・

「八神警視は、淡白そうに見えますけど・・・週3とか可能なんですか?」

「週3なんて・・・毎日やけど・・・でも、事件で泊り込んだら2週くらいはご無沙汰・・・っておい!」

うっかり白状させられて、優希はタジタジになる。

「ぼん・・・実父の性生活に興味を持つのは感心しませんねえ・・・」

だって・・・優希は拗ねる。優希でなくても、皆、この事は興味深々なのだ・・・・優希の前で見せる、龍之介の伊吹への甘えを、

組員達は知らない分、余計だ。

クールでハードボイルドな二人がいちゃついてる姿など、想像もつかない。

「でも・・・それは色気が無いちゅう事ですか?」

実は伊吹は、何気なく気にしていたりした。

「いや・・・お前は男女関係無くモテるから、魅力が無い訳やないけど・・・なんちゅうか・・・エロさが無い。しかし、親父をあんなに

手懐けてるんやから、親父の扱いは最高なんやろうけどな・・・まあ、それでええんか・・・よそに色目使う必要ないしな」

伊吹に片思いした南原に対する龍之介の仕打ちを見るにつけ、優希は伊吹に同情する。

それ以上に南原が可哀想といえば可哀想だ。

伊吹に密かに想いを寄せている者は男女問わずいるだろうに、本人の無関心と龍之介の睨みで、傍にも寄れない。

龍之介に関しては言うまでも無く、憧れる女性達は後を絶たないが、氷のバリアーで寄せ付けもしない。

M体質な者だけが、叶わぬ恋に身を焦がしていた。

やくざの姐さん達の”龍ちゃんファンクラブ”も今となっては伝説でしかない。今では姐達に畏敬の念を抱かれる身である。

 それだけ龍之介も年をとったという事なのだが・・・・

 「なんにしても、ぼんは今回を機会に、これからの事色々腹据えなあかんと思いますけど」

ああ・・優希は頷く。この前、龍之介からも、これからの事を訊かれたばかりだ。

 「覚悟はしてるけど、いざとなると・・・・なあ?」

ええ・・・伊吹も頷く。

「組長の場合はメリットがあったから襲名したんであって・・・ぼんの場合はメリットありませんからね・・・」

無いどころかデメリットばかりだ・・・・優希は苦笑する。

「確かに、側近兼情夫(いろ)て無駄がまったくないよな・・・お前。昼も夜も親父に尽くすてありえんわ・・・」

かなり羨ましかった・・・・

「しゃあないな。惚れる相手、選べるモンなら苦労は無いわ・・・・ちゅう事で、俺はゆくゆくは鬼頭継ぐで」

「ええんですか・・・それで?」

ああ・・・・

鬼頭も達彦も、優希の望み・・・どちらも外せない。

「願いちゅうもんは100%叶うもんと違う、何かを得たら何かは諦めなあかん・・・そうやろ?でも俺は鬼頭も達彦さんも諦めへん」

そのためには、遠距離恋愛を甘受する覚悟だ・・・・

「ぼんは、やはり鬼頭龍之介の息子ですね・・・・出来ますよ、ぼんにも。大事なものを守りきる力がぼんにもあるから・・・」

先の事は判らない・・・・でも、その時その時に最善を尽くしたい。後悔はしたくない。

優希はそう思う。

 

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