波乱の一週間 前編5
優希の部屋で、4人と謎の外国人がダイニングに集結した。
「さて・・・問題は晩メシや。」
何の問題が?父の言葉に首をかしげる優希。
「何を食べるんでしょうねえ?あの方」
聡子も深刻になっている。
「まず、米は食べるのか、日本食はOKか?それとも洋食なのか・・・あと、好き嫌い、アレルギー、宗教上の問題などで
食べられへんものがあるか、そこんところを組長、聞いてみてください。」
伊吹に言われたままを、龍之介は謎の外国人に尋ねる。
落ち着いて、じっくりと見ると彼は若かった。20代中半くらいだろう、なのに、どこか落ち着いていて、どこの誰か判らない
日本人の家に連れ込まれたにもかかわらず、笑みを浮かべて龍之介と話しているではないか・・・
「軍隊で、サバイバル生活を数年体験したから、食物なら、ほぼ何でも食うそうや。アレルギーは無い。日本食は、婚約者が
日系人で、寿司、てんぷら、うどん、そば、納豆まで経験済み。らしい」
一同は沈黙した。
なにか、戦争でもあったらしい、それに参加した・・・それだけでも凄い経歴なのに、日系人の婚約者?しかも納豆を食べる?
納豆が全然ダメな関西人4人を前に、謎の外国人は納豆を食べるというのだ・・・・
「そしたら・・・とりあえず、寿司でも取りますか?外食は無理です。今夜はこの方の事で、色々せなあかん事あるから、
メシ作らんと店屋物でどうですか」
伊吹の言葉に頷いて、龍之介は、謎の外国人に今夜のメニューを告げる。
「寿司はOKや。優希、電話せい・・・」
ああ・・・優希は立ち上がって電話を取り、電話帳をめくる。
「さて、日本にいる知り合いに連絡してもらおうか?」
再び、龍之介は謎の外国人と対話を始めた。
そして、自分の携帯を差し出す。
その携帯で知り合いにかけるも、話中で一旦電話を切る。そして、長い討論の後、伊吹を見た。
「先方は話し中や。まあ、ちょくちょく電話するしか。で、事情があって、俺らに迷惑がかかるとかで、どこの誰かは明かせんらしい。」
「じゃあ、なんてお呼びしたら・・・」
ずっと、”謎の外国人”では不自由だ。
「それでとりあえず、まーさんと呼ぶ事にする」
はあ?伊吹と聡子は絶句した。
「なんとなく、つけてみた。」
堂々と、そう言われて、伊吹も聡子も何も言えないでいる。
「それで、先方は承知なんですか?」
うん。伊吹の問いに自信たっぷりに頷く龍之介。
そこへ・・・
「親父、寿司取ったぞ〜」
優希が戻って来る。
「優希・・・これから、この方は、まーさんと呼ぶようよ」
聡子の言葉に頷きつつ、何がなんだかわからない優希・・・・一応、頷く。
あちこちに電話して、達彦は得た情報をミサに伝える。
「着物の女性は、今回、同行した着付けの先生だったみたいです。鬼頭聡子さんという方で、現地解散したので、
現在の居所はわかりませんねえ。でも、携帯の番号を聞きましたから・・・・」
まだ、不安を隠せずにいるミサは、頷いて携帯を取り出す・・・・
あっ・・・
ノモトに携帯で指示をしていた間に、見知らぬ携帯の番号で、着信記録が残っていたのを見つけた。
「ヤガミ・・・この番号に心当たりは無いか?」
ミサの携帯を受け取り、先ほど聞いた鬼頭聡子の番号と照らし合わせてみる・・・
「鬼頭聡子さんではないですね・・・それに、私には見覚えの無い番号です」
そうか・・・・
「もしやマージャからでは・・・と思ったのだが」
「折り返しかけてみましょうか?私の携帯という事にして」
と、達彦は着信番号を押す。出たのは、40代の男の声だった。
「すみません、着信記録見てかけさせていただいたのですが・・・」
ーああ・・・やっと繋がったんですね・・・かわりますから、待ってくださいー
どこかで聞いた関西弁だった。
「あのう、どこかで聞いたような声ですけど・・・もしかして・・・」
ーそういえば・・・その声、土下座の警視さん?−
やはり・・・・電話の主は鬼頭龍之介。
(え?鬼頭・・・・)
今、探している婦人は鬼頭聡子。今、電話で話している相手は鬼頭龍之介・・・あまり、多い苗字では無い。
達彦は思い切って訊いてみる事にした。
「もしかして・・・鬼頭聡子さんという方、お知り合いですか?」
ー俺の嫁やけど?何か?−
「という事は、鬼頭組の姐さん・・・ですか?」
やくざの姐が着付け師で、映画撮影の一行にいた・・・考えてもみなかった。そんな事・・・・。
「奥様は、着付け師とかされてますか?昨日まで映画の撮影で、アメリカに行っておられたりしてませんか?」
・・・・・龍之介はあっけにとられた。
ーなんで、聡子の事、そんなに詳しいんですか?また、なんか変な容疑かけてますか?−
「いいえ・・・唐突ですが、謎の外国人見ませんでしたか?聡子さんと一緒にいたはずなんですが・・・」
ー今、優希のとこにおるけど・・・もしかしてその人、凶悪犯とか言わんといてくださいよ?ー
警察が関わっているとなると、気品のある”まーさん”の容姿さえ疑わしく思える。
達彦は、そんな思いになっている龍之介に突っ込みたくなった。
(自分はやくざの癖に・・・・凶悪犯を恐れてどうするんですか・・・むしろ、マジナトール皇太子の方が、鬼頭さんの正体知ったら
びびるんじゃないだろうか?)
「凶悪犯じゃないです、高貴な方なので、怖がらせたりしないでくださいね?丁重におもてなしお願いしますよ。
外交問題がかかっていますから」
え・・・・龍之介は違う意味でびびる・・・・
「とにかく、人目につかないように、かくまってください。後で、そちらに向かいます」
そう言って電話を切ると、達彦はミサに説明した。
「マージャはキトウに監禁されているのか!!」
鬼頭組=やくざという発想から、ミサは青くなる。
「監禁はしてません、ちゃんと夕食にお寿司出して、私のラバーのところに御泊めしております。第一、マジナトール皇太子が
鬼頭さんを信用してついて行ったそうじゃないですか・・・・」
ふむ・・・ミサは頷く。
「マージャは、人を見る目は確かだからな」
しかし・・・自分といい、マジナトール皇太子といい、どうしてこう、八神一族と鬼頭組に関わってしまうのか・・・・
「かえって、やくざに保護されたのは幸いですよ。ある程度の戦闘力は持っていますからね。一般人より武器持ってますし」
ミサは、しかし笑えない・・・・・
「マジナトール皇太子は日本語ができるんですか?」
いや・・・・ミサは首を振る。
「じゃあ、どうやって意思の疎通、してるんでしょうねえ」
まさか、ジェスチャー?達彦は、そんな光景を想像して噴出す。
「英語は、もちろんできる。流暢なロイヤル・イングリッシュだ。」
ふうん・・・・それなら何とかなっているだろう。優希のマンションにいるのなら、優希も一緒のはずだ。
達彦は、優希が大学時代、英文科に席を置いていた事を思い出す。
「準備して行きましょう。マジナトール皇太子も、貴方の顔を見れば安心されるはず・・・」
達彦は立ち上がる。
ミサも頷いて達彦に続いた・・・・・
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