波乱の一週間 前編   4

 

 

次の日の夕刻、空港の事務所で待機中の達彦とミサに、連絡が入り、出入国審査の事務室に急いだ。

「八神警視、パスポートのナンバーは違うんですが、出国国と便は合っていまして・・・・」

職員につれられて、事務室に入ったミサは唇をかんだ。

部屋にいた上品そうな20代の青年が、ミサを見て椅子から立ち上がる。

そして、自国語で会話がしばらくなされた・・・・

「ミサさん、どういうことなんですか?」

何か問題がありそうな予感に、達彦がこっそり聞いた。

「ヤガミ・・・彼はダミーだ。」

「ダミー?」

「マージャと、年恰好の似たものを替え玉としてつけたのだが・・・・」

ダミーがひっかかったらしい。

「彼はどう言っているのですか?」

「飛行機を降りて、入国審査で二手に分かれた、マージャは側近と一緒だったらしい、そちらのほうは外国人の団体が前方にいて、

自分のほうが先に審査に入り、ここに連れてこられた・・・・と言っている」

達彦はすぐ職員に駆け寄り、同じ便の同行人を探すように指示した。

1時間後、同行人が一人事務室に来た。

が・・・・・

同行人と話した後、ミサは青ざめた顔で達彦に救いを求めた。

「マージャは・・・・着物を着たマダムに連れ去られた・・・・」

え・・・まさかの拉致?達彦はフリーズした。

「彼はマージャの側近で、ボディガードだ。彼の話では、前にいた外国人の団体にマージャはまぎれて審査を通過してしまい、

その一行の同行人と思われる日本人のマダムが”こっちよ、早く・・・”といいつつ連れ去ったというのだ」

「それは・・・拉致ではなさそうですね・・・」

訳が判らないが、着物を着た婦人が、マジナトール皇太子を狙う独立軍とは思えないし、暗殺者でもなさそうだ。

考えられるのは・・・外国人の団体にまぎれてしまった・・・・婦人は自分の連れと勘違いした・・

「すみません、同時刻に入国している外国人の団体って、何の団体なんでしょうか?」

再び達彦は事務員に駆け寄る

「ああ・・・映画の撮影でアメリカにいって帰ってきた人たちでしょう?疋田敏志監督の。最近クランクインした映画なんですが、

外国人のエキストラ使ってましてね・・・・その団体ですよ。」

ああ・・・・達彦は頷く

疋田敏志は、時代劇を主に撮る映画監督で今回、戦国時代の映画を撮るとかでテレビで対談していた事を思い出した

合戦のシーンはアメリカの広い荒野で撮るのだとか言っていた。エキストラは現地で募集したが、その中でスタントマンも募集しており、

数人抜擢して帰国後の撮影にも起用するとのことだったが・・・・・・

「ミサさん、どうやら、映画の撮影団の一行にまぎれたらしいです。着物の婦人は映画俳優じゃないでしょうか・・・」

「アクトレスが何故、マージャを・・・」

「外国人のエキストラと勘違いされたんです」

そんな・・・・

ミサは途方にくれる。

「疋田敏志監督に連絡つけて、その婦人が誰か調べましょう。その人の背格好、顔立ちなどを詳しく側近さんに聞いてください。」

そういうと達彦は電話で、今居署長に疋田敏志監督の連絡先を調べてもらうように頼む。

 

 

「聡子」

空港の入り口で龍之介は聡子を見つけて、スーツケースを持つ。

「お帰りなさい、姐さん。お疲れ様でした」

伊吹は微笑んで、龍之介からスーツケースを受け取る

「で・・・お袋?その人誰や?」

伊吹の隣にいた優希が聡子の隣の外国人を指す・・・・・

「それがねえ・・・・」

困り顔で聡子が口を開いた。

 

 

「だから、エキストラと間違えて、どこの誰かわからん外国人を連れてきてしもうたんか?」

伊吹の運転する鬼頭商事の車で、ホテルに向かいつつ、龍之介は隣の謎の外国人を見る。

「どうしょう・・・行くとこないみたいで・・・」

助手席から、聡子は後部座席を振り返る。

「そんな事ないやろ?行くとこも用も無いのに海外に来る外人おらんやろ?」

優希は、隣の謎の外国人を見る。

後部座席で、龍之介と優希に挟まれて、困り果てた彼は、いたたまれずにうなだれた。

「見たところ、西洋人や無いようですけど・・・・」

運転しながら、伊吹は冷静な分析を始める。

背は高からず低からず、黒髪で肌は心持ち褐色だろうか・・・・瞳は黒く大きい

たたずまいからして、どこかの御曹司っぽい。カジュアルな服装はしているが、どこか気品がある。

「あの、組長?西洋人とちごても、ブルジョア階級やったら英語が通じるかも知れませんよ?」

ふうん・・・伊吹の言葉に龍之介が頷く。

「英語で聞いてみるか・・・・」

そう言うと龍之介は、流暢な英語で話しかけた。

すると、謎の外国人は、これまた流暢なロイヤル・イングリッシュで答えてきたのだ・・・・・

しばらく話した後、龍之介は内容を他の3人に告げる

「訳あって、日本経由で他国に亡命する予定らしい。それで命狙われてて、かくまって欲しいということや」

「それって、私ら信用されてるんですか?」

どこで暗殺されるかわからないのに、あっさりついて来る彼が伊吹には不思議だった。

「それは、俺も聞いてみたんやけどな、見た目、悪人やなさそうやと確信したらしい。」

え・・・・一同は沈黙する。

やくざの組長と、姐、その息子、そして側近・・・このやくざファミリーを捕まえて悪人ではないとは・・・

「親父?実はやくざです。とか言うたか?」

「いや」

言えるはずが無い・・・・そんなに信用されているのに、不安にさせる事など出来ない。

「あ、組長?ホテルとか、まずいんとちゃいますか?ロビーとか人の目あるし、外国人は目立つし。」

「そしたら、俺んとこ行こう」

伊吹の言葉に、優希はとっさに、そう提案する

「え・・・ぼんのマンションは・・・・・」

達彦がいるのでは・・・・と心配する伊吹に、優希は苦笑しつつ言った。

「達彦さんは、三田署に泊り込んでる」

あ・・・・伊吹は昨日、井上が電話で話していた事を思い出した。

N国の独立軍が警察署に押し入り立て篭もっていると・・・・・

「もしかして、警視さん、監禁中ですか?例の独立軍・・・」

「残念ながら、そうや。3日になるなあ・・・もう」

先ほどの空港に達彦がいた事も知らないまま、優希は達彦に想いを馳せる。

「とにかく、優希のマンションに行こう。そこで この人の知り合いにでも連絡とって何とかしよう」

かなり面倒見のいいやくざだと苦笑しながら、龍之介は謎の外国人に行き先の説明をした。

「伊吹?親父なんで英語ぺらぺらなんや?」

優希はこっそりと伊吹に訊く。

「組長は、F大の英文科を主席で卒業してはるでしょう?」

ああ・・・悪かったな・・・・

優希はすねる。自分も同じ大学の英文科を出ている・・・文法、読み書きは得意だが、ヒアリングが苦手だった・・・

英訳は得意だが、英会話は苦手だった・・・・・

負けた・・・と父を見れば、謎の外国人と冗談を言い合って笑っているではないか・・・

 「大学出て、20年くらいたってるやないか・・・・それでぺらぺら?」

 「ぼん、組長は性格はへタレでしたが、頭脳は明晰ですよ?学生時代から全然衰えてませんし・・・」

あ〜あ・・・・優希はため息をつく。伊吹の組長自慢が始まった・・・・

「ついでに体力も衰えてないやろ?」

前に乗り出して、小声でそうささやいた優希は、伊吹に睨まれる。

「体力やで。性欲とか言うてへんし・・・・」

ばきっ。

謎の外国人越しに、龍之介のこぶしが優希をこずいた。

「親父?」

「いらん話するな。あほ」

え・・・・聞こえてるの?優希は唖然とした。

(親父って・・・聖徳太子か?)

 

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