波乱の一週間 前編 3
次の日、空港について、霧のためマジナトール皇太子が出航するはずの某国からのフライトは中止されたという報告に、
今居、達彦、ミサ、ノモトの4人は途方にくれる。
陸ルートでN国を脱出し、他国から偽名のパスポートで出航することになっていた。
「マジナトール皇太子と連絡を取る術はありますか・・・」
達彦の問いに、ミサは首を振る
「連絡係の者が反乱軍に捕らえられて、音信不通だ。」
「マジナトール皇太子に、こちらから連絡をとることは・・・」
達彦の言葉にミサはため息をつく。
「盗聴、現在位置の探索のため、マージャは携帯電話は持ってはいない。」
「まさか、王族とはいえ、反乱軍が、かつての指導者と同志にこのような仕打ちをするとは思いませんでした」
ノモトも青ざめていた。
「警視庁の権限で空港事務所には、ミサさんから聞いたパスポートの人物が入国の際には、内密に知らせるように
言っておきましたが・・・」
無事かどうかもわからないまま、マジナトール皇太子は霧の向こうに隠された・・・・
「どうしますか・・・一旦、引き上げますか?」
今居署長の言葉に、ミサは首を振る。
「あの・・・ミサさんの事情を思えば、ここで待機して、空港の事務所にでも泊り込んだほうがいいのですが、
署の方も放置するわけにはいきません。署長とノモトさんは署に戻ってください。私とミサさんはここに残ります」
「八神警視・・・」
今居は不安な表情を見せた
「大丈夫ですか?少佐・・」
ノモトはミサの意向を聞く
「すまないが、そうさせてもらってもいいか?」
しかし・・・ノモトはミサと達彦を二人だけで置いておく事に不安を感じる。
ただでさえ、表と裏の権力を後ろ盾にしているらしい男・・・・
「ノモト、案ずるな。ヤガミの事は信じている。彼は我らを悪いようにはしない。だから、署の方を。
人質に不自由させないように気を配って欲しい」
はい・・頷いてノモトは今居を見る。
「八神警視・・・本当に大丈夫ですか・・・」
「署長、彼らのしている事は必要悪です。根は愛国者でいい人達だと思うので、もめたりしないで、
仲良くしてください。マジナトール皇太子さえ見つかれば終わるんですから。」
「判りました」
今居は頷いて、ノモトと去っていった。
「じゃ、空港事務所と話つけに行きますね」
歩き出す達彦の後をミサは追った・・・・・
ー達彦さん・・・−
携帯を握り締めて優希はため息をつく。
「ぼん?彼女と喧嘩でもしたんですか?連絡取れへんとか?」
井上は、そんな優希を覗き込む。
「ああ・・・そんなとこかな・・・」
仕事中、気もそぞろで、はかどらない。
美和子からの情報は時々来る。しかし、それはかえって心配を煽る・・・
ー鬼頭・・・あまり心配するな。達彦はあれでなかなか機転が利いて、図太いから何とかなる。信じて待てー
昨夜、三浦慎吾から電話で励まされた。
美和子から優希の電話番号を聞いたらしい。
(そういう三浦先輩も心配そうな声してたけど・・・)
もう一つため息・・・・
「ぼん・・・・」
深刻な優希に井上もなす術が無い。
(あれから3日。敵の要求は何なんや・・・お母さんも知らんらしいけど・・)
「ぼん、明日組長来はりますよ?」
「え?ああ・・・なんの用で?・・・」
「姐さんのお迎えです」
そういえば、聡子は一週間映画の海外ロケに、着付けで付き添ってアメリカに行っていたことを思い出す。
「明日帰ってくるんか・・・・」
結婚前に仕事でしていた着物の着付け。
グラビア撮影から時代劇の撮影・・・親しい監督に頼まれるとたまに引き受けていたが・・・・
今回、海外とは・・・
「お袋ってけっこう有名人やな・・・つーか、タレントにじかで会うとるやんか。海外まで行くとはなあ・・・」
「有名なデザイナーとかからもお呼び来るそうですよ?」
「やくざの嫁やのにか?」
ははははは・・・・・井上は苦笑する
「それ言うたらお終いですわ・・・」
(最近の芸能界は怖いもん知らずか?まあ、芸能界もやくざがらみとかいうけどなあ・・・)
色々考えて忙しい優希に、井上はスケジュールを見ながら言う
「明日は、ぼんも空港に行ってください。お昼であがってええですから・・・久しぶりでしょう?姐さんに会うのは・・・」
ああ・・・
正月以来だった。
「親父にはしょっちゅう会うけどな・・・」
今回は聡子と3人で移動する事になる龍之介を思うと、優希はなんとなく、顔がほころぶ。
さぞかし、いつも以上に組長の余所行きの顔をしていることだろう・・・
「東京見物して帰ってもらってください」
井上の言葉に優希は頷く。
結婚前は大阪、東京をまたにかけて活動していたとはいえ、鬼頭の姐になってからは、大阪から出ていない。
「親父とうろつくのも新婚旅行以来かな・・・・」
「ぼんもはよう嫁もろて、姐さんに楽させてあげてくださいよ?」
嫁・・・優希は一瞬表情を固くする。
鬼頭を継ぐなら、姐を迎えなければならない・・・・
(あかん、考えんとこう・・・)
それでなくても、今、達彦の事で心穏やかでないのに。
相変わらず、携帯にメールは送り続けている。
しかし、没収されている可能性もある。見つからないよう隠し持っている可能性もあるが・・・
もし、持っていても、もともと非公開携帯なのだから、人目を盗んでメールを確認するのは難しいだろう。
返信は・・・もちろん無い。
無くても、優希は送り続けていた・・・・
「ぼん?なに深刻になってますの?」
「いや、なんでもない」
つくり笑いをして優希は、机の上の書類を手に取る。
「女の事で悩んでるんですか?こういうことは組長も、藤島の兄さんも相談にのれませんからねえ・・・・」
龍之介も、伊吹も、出会ったときからお互いだけを見つめて今まで来た。
確かに、女性問題の相談にはのれないだろう・・・
「あ、いっそ姐さんに相談したら?女のことは女が詳しいから・・・」
問題の根本を大きく取り違えている井上は、そういいながらポンと手を打つ。
(女ちゃうし・・・・)
優希は苦笑する。
それに、これだけは相談したところでどうにもならない。
3日・・・まだ、何とか持ちこたえられるだろうが、長期戦は苦しい・・・
(メシ、ちゃんと食べてるかな・・・人質なんて、ろくに食わしてもらわれへんのとちゃうか・・・)
美和子からの電話には、警視庁から定期的に食料の配給はされているらしいが、人質にまで行き渡るのかは謎だ。
はあ・・・
優希の心労は尽きなかった・・・
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