新たな日常 2
就寝準備を済ませた達彦が寝室に入ると、優希はベッドで本を読んでいた。
「読書ですか?」
「昔、学生時代読んだ本なんですが・・・けっこう忘れてるんですよね・・内容。」
そう言って本を置くと、優希は達彦を振り返る。
「達彦さん、研修で何日か逢われへんかったけど、どうでした?」
新婚なのに数日引き離されて、寂しい思いをしていたりした
「逢いたくて大変でしたよ〜警察官の恋路は、ままなりませんねえ・・・」
本当に大変だったのか・・・・笑って軽〜く言われてしまっている。
「昨日、慎吾君に久しぶりに会いました。可愛い後輩を連れて研修に来ていましたよ」
笑いながら達彦は眼鏡を外す。
警視庁の幹部研修、キャリアが呼ばれていた・・・
「女の人ですか?」
「いいえ。男の人です。でも、可愛かったですよ。慎吾君が変ったのは、彼のお陰なんでしょうか・・・」
変った?・・・優希は達彦を見る。
「こう・・・ピリピリしたところが無くなって、自然体になったというか。なんにせよ、よかったなあと」
そうですか・・・
優希は頷く。慎吾には、幸せになってもらいたかった。
「なんだか、スッキリしました。少し、慎吾君に負い目があったんですけど、あの子に出会うために私にフラれたんだと判ったから
フッて悪かったなんて思う必要もないんだなあ・・・と」
そう言いつつ、達彦はベッドに入る。
「慎吾君とはいろいろあったけど、やっと元通りになれた感じがしました。いえ、むしろ以前より腹をわって話せる雰囲気というか・・・」
どこか、慎吾を囲っていた壁がとり去られた気がした。
「俺なんか、昨日、親父にけちょんけちょんにやられました。」
え?
それだけでは、何があったのかわからない。
「やはり、あの日、親父と伊吹は東京に来てました」
それは・・・優希の心配が根拠の無いものでなかった事を、達彦は知る。
「伊吹にあらかじめ言うてたから、引きとめてくれたんですよ」
「藤島さん、大変でしたね」
「いえ、色仕掛けで、親父はコロッといきますから・・・久しぶりに二人でまったりしましょうとか言われたら、もう俺の事なんか忘れて・・・」
はははは・・・達彦は苦笑する。
「とにかく、アノ日は守られたということで・・・」
「で、その、けちょんけちょんとは?」
「でも、実は勘付かれてましてねえ・・・・」
まあ、それは仕方ない事かもしれない・・・と達彦はうなづく。
「照れ隠しに、不倫旅行も程ほどにせいと言うたら最後・・・土下座の警視さん元気か・・・と・・」
不倫旅行・・・天下の鬼頭の組長に、そんな事を言えるのも優希くらいだろう・・・
「まあ、ええんですけどね。どうせ、親父は伊吹と2日、まったり出来たんやから。何やかんや言いながら、ご機嫌なんですよ」
「はあ・・よかったですねぇ・・・」
腕枕しながらの世間話が一段落する。
ふとした沈黙・・・・
「ぎこちないですよねえ・・・」
達彦の言葉に優希も頷く
「慣れませんねえ・・・まだ」
照れが入ってしまって、イチャつけないでいる。
「なんか・・・初々しいところが新婚ですかねえ・・・・」
自慢にもならない。
本当は一瞬一秒も無駄にしたくは無いのに・・・
しかし、むさぼるのではなく、ゆっくり時を刻み付けたい。
「とりあえず、くっつきましよう」
と、身を寄せてくる達彦を優希は受け止める。
初めて結ばれてから2週間経つ
その間、出張と研修でほとんど逢えない日々だった・・・
逢えばすぐ抱きしめたい。そう思っていたのに、いざ逢うと言葉だけが洪水のように出てくるもどかしさに、二人とも辟易していた。
本当は、言葉など必要ないのかも知れない。
しかし、あえて達彦は優希に想いを告げる
「優君、愛しています」
ゆっくりと静かに重ねられる唇・・・絡まる二人の腕
どんな想いでここまでたどり着いたか・・・
そしてこれからどこに行くのか・・・
熱い想いを抱きつつ、それを語りつくせないもどかしさに身悶えしながら、ただ、互いの体温を感じる。
「達彦さん・・・」
首筋に唇を這わせる優希の背に、達彦は腕をまわす
薄闇のベールは月光の音色を奏でる。
緩やかに流れる時の音を聴きながら、たゆたうように想いを重ねる。
何も変わりはしない。今までと同じ、愛しい人が傍にいるだけ。
そして・・・誰より近い存在の人・・・・
もう一人の自分。自分の一部。繋がりあう時がすべてなのだと、思えた。
未来の不安が無いと言えば嘘になる。
それでも、地に足をつけて歩いてゆこうと決めた。泣いても、笑っても。
そして・・・二度と離さないと決めた。
重ねるのは身体ではなく、魂である。
繋がりは、身体ではなく、心・・・
散るために咲く花ではなく、実を結ぶ花になりたいと達彦は願う。
子孫という実は結べなくても、生きた証になる何かを・・・・
愛しい人の息吹をその身に取り込み、何かを開花させたいと達彦は思う。
闇に優しく包まれながら・・・・
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