永久の契り 4
「鬼頭君・・・重いから駄目ですよ・・」
達彦を抱えて寝室に向かう優希・・・・
「いつも、ソファーで寝てる八神さんを、こうして運んでるんですよ。つーか、新婚初夜は新婦を抱えて寝室に入るんでしょ?普通は」
「ええ?いつもお姫様抱っこで運ばれてたんですか?」
いつも、泥のように眠っているところを運ばれているので、記憶が無い達彦は苦笑する。
「おぶって運んでるとでも思ってはったんですか?」
それは・・・言葉に詰まる。しかし、恥かしさこの上ない。
「こういうのスキでしょ?八神さんて」
「そうなんですけど・・あ、いえ・・」
つい本音が出てしまい、達彦はうつむく。ビジュアル的にどうなのだろう・・・それが気になる。
そう言っているうちにベッドに下ろされ、灯りが消される。
「ルームライトは点けときますよ」
薄明かりの中でそう言いつつ、優希は寝室のドアに鍵をかける。
「まさかとは思うけど、朝、親父が踏み込んでくるとマズイんで」
そして達彦に歩み寄ると、達彦の眼鏡をはずす。
「顔、赤いですね・・・酔いましたか?」
眼鏡をはずして、ようやくわかるほどに、達彦は目元をうっすらと紅く染めていた。
「なんか・・・いい気分ですね。ぼーっとしてきました・・」
年上なのに、こういうところが可愛くてたまらない。
優希自身、しらふでは踏み切れない気がして、少し飲んだのだが、達彦が思ったより下戸のようで、不安になる。
「眠気、来るほうですか?」
寝落ちだけは避けたい。
「やだなあ・・・ワイン1杯で寝たりしませんよ〜」
そっと、かがんでくちづける。何度目のキスだろうか・・・しかし、それは今までとは、明らかに違う意味を持つものだった。
「明日の朝、記憶に無いとか言わんといてくださいよ?」
酔った勢いで・・・的なオチは避けたい。
「鬼頭君との事は、どんな小さな事も忘れません。」
最初に逢ったあの日から、一瞬たりとも忘れた事は無かった。もう逢えなくても、心に刻んで生きようとしていた。
「まだ、鬼頭君、なんですか?」
達彦のパジャマのボタンを一つ一つはずしながら、優希は苦笑する。
「もう呼び名も換えましょう?」
近い存在なら、他の誰かと同等な呼び方ではない何かが欲しい。
「じゃ、優希君・・・」
「あんまり変わりませんね・・・もう一息、優ちゃんとか?」
達彦は苦笑する。いくら年下でも優希は鬼頭の跡取り息子である。そのうち鬼頭の組長になる身。そんな優希を優ちゃん扱いは出来ない。
「じゃ、優君」
「まあ、そんなとこですか・・・」
あまり人からそんな風に呼ばれたことが無いので、少し照れた。
友達は皆、鬼頭、または優希と呼び捨て。組内では ぼん。小さいときは君、ちゃんで呼ばれた事もないことはないが、
大柄な体躯と、男らしい雰囲気から、中学生以降は君、ちゃんが似合わなくなっていた。
「ちゃん付けって、似合わんとか思いますか?」
真面目に訊かれて、達彦も困ってしまう。
「ちゃん付けがいいですか?なんだか、かなり目下って感じで恋人を呼ぶのにはどうかと思いますが・・・」
ああ・・・優希は頷く。優希も、達彦を達ちゃんと呼ぼうものなら、萎えてしまう気がした。
「そうか・・・恋人、ですか・・」
ボタンを外し終えた優希は、一気に達彦のパジャマをはだける
瘠せた白い肩が目の前に広がる。武道をしているとは思えない華奢な体躯がいとしさを感じさせた。
「達彦さん・・・」
達彦は自らの肩口に落とされた唇にめまいを感じる。酒に酔っていてそうなのか、優希に酔ってそうなのか知るすべは無い。
そっと、脇から腕をまわして優希を抱き寄せて達彦はささやく。
「君に逢えて幸せです」
そんな風に言ってくれる人がいる事に幸せを感じつつ、優希は達彦の頭を支えながらゆっくり達彦を寝かせる。
「もう、離しませんよ?」
静かに頷く達彦を抱きしめて、優希は達彦の首筋に顔を埋める。
この人を一人にしたくない そんな想いが沸いてくるだから、一つになろうとするのだろう。繋がりを求めるのだろう。
「何があっても、離さないでください」
初めて見る達彦の儚げな表情に、優希は微笑む。
一人で頑張ってきた、肩肘張って、ただひたすらに・・・そんな彼の素顔だった。
誰にも見せない弱い部分を、晒せる事の出来る場所を持つものは幸せだ。
そんな唯一無二の最愛を得ることが出来た・・・・それは優希も同じ事だった。
優希には伊吹がいた。伊吹には、父の龍之介に話せない事でも話せた。
しかし・・・伊吹は父のものだった。その葛藤に苦しんだ事もある。父に嫉妬した事もある。
そして、求めた・・・・魂の伴侶を・・・父にとっての伊吹のような存在を・・・・
もう、離せないと思った。だから誰よりも近くなりたいと、一つになってしまいたいと願う。
触れて、抱きしめて、再度実感する。どんなに自分が達彦を愛していたか。
ふと顔を上げると、達彦のいつもの潔い瞳があった。
「優君・・・」
達彦に引き寄せられて、再び唇を重ねる。
ー戻れない、いや戻らない。覚悟は出来ているー まとわりつく唇がそう告げる
そんな愛しい人を、優希は強く抱きしめた。
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