永久の契り 2
「と言う事で、公認の仲になりました」
優希が達彦に呼び出されて行ったレストランには、達彦が母の美和子と奥の席にいた。
そして、優希と交際中であると言う事、優希の父、龍之介にその旨を伝え認めてもらった事を報告して、そう締めくくった。
「そう、おめでとう。よく反対されなかったわね・・・・」
「ウチの親父は物分りがええんで・・・」
そうとしか言えない優希は、苦笑してステーキをナイフで切る。
「でも、ヤクザさんが警察と交際なんて、普通は嫌よね〜あ、達ちゃんは土下座して、ポイント高いんだ?」
「それもありますけど・・・・今時、こんな律儀な警察は見たことないと、組でも有名ですから・・・」
ふふふふふ・・・・俯いて笑いをこらえる美和子。
「判るわ〜それ。」
「母さん」
達彦に諌められて、自粛する美和子。
「こんな言いにくい事をわざわざ話したのは、隠れてこそこそしたくないからなんです。」
「達ちゃんらしいわね。お母さんも安心だわ。」
優希はこの母、美和子の器の大きさに驚いていた。
息子が男と交際していて、しかも相手はヤクザの跡取り息子・・・しかも警察ファミリーなのに・・・・
こんな異常な事をあっさりと受け止めて、笑っていられるなど尋常な神経ではない。
「交際を認めるか否かはね、本人がどう変わったかを見れば判るわ。相手にのめりこんで潰れるようではNG。
活気が出たり前向きになったり、自分を大切に出来るようなら、OK。達ちゃんに囮捜査から
完全に手を退かせることが出来たんなら、優希君はたいしたものなのよ。この子、親が何度言っても辞めなかったもの・・・・・・」
「結構・・・怖いもの知らずなんですね・・・」
優希は呆れて達彦を見る。
「と言うか、これ以上被害を広げたくないから、早く犯人捕まえたい一心で・・・・」
ニコニコ顔で言う言葉でもないだろうに・・・と優希はため息をつく。
「貴方が被害を受けるほうが怖いです・・・・あの時は寿命縮まりましたよ」
「結構、自分を大事にしないのよ〜この子。すぐ犠牲になろうとする・・・まあ、そうじゃなきゃ、警察官なんて務まらないんだけどね。」
なんとなく、彼女が少年課の課長だと言う事を、優希は納得した。
常に、受け入れると言う姿勢を守り、否定はしない。しかし、甘やかしでも、過保護でもない。最善に導こうと全身全霊を捧げている・・・
そんな姿勢が見える。もともと、そういう、母性の持ち主だったのだろう。
「優希君の事も信頼しているわ。なんていうか・・・素直でまっすぐだし。ヤクザにするの惜しいわね。警察官にならない?」
いやあ・・・それは・・・・優希は言葉をなくす。
「今からじゃあ無理ですよ・・・というか、母さん、それはいくらなんでも組長が反対します」
そう言う問題ではない・・・と優希は呆れる。達彦も、どこか美和子と似たところがある。
「つーか・・・・実家がヤクザじゃあ無理でしょう?」
優希の言葉に笑う、美和子と達彦・・・・似たもの親子だ。
食事を終えて、優希の部屋に帰ると、優希は緊張が解けて放心状態になった。
「お疲れ様、コーヒー入れましたよ」
今日は達彦が、お茶を自ら入れて持ってきた。
「八神さんて、爆弾みたいな人ですねえ・・・」
「人をテロみたいに言わないでください」
自分のカップを持って、達彦もダイニングの椅子に着く。
「立て続けにカミングアウトしますか?」
「正々堂々が私のモットーですから」
確かに・・・迂闊だった。ヤクザに誤認捜査の謝罪をわざわざ、しかも土下座までするような警察官だ、これくらい”へ”でもないだろう。
(やはり、どこかぶっ飛んでる・・・・・この人・・・)
職場で敬遠されるのは、七光りの理由だけではないだろう。この性格に問題がある・・・
その証拠に、兄の達也は、周りが七光り、の”な”の字も口にはしないほどのコワモテらしいではないか・・・
「驚かせてすみません。鬼頭君が土壇場でひるむといけないから、サプライズしました。」
やはり、この人は警察官だ・・・優希は頭を掻く。自白のお膳立てまでしている・・・
「判りますか?これは、私が腹をすえたと言う証拠なんですよ」
え・・・コーヒーを飲んでいた優希が、顔を上げて達彦を見る。
「いつでもなれますよ〜深い仲に」
え!
石膏のように固まってしまった優希に、達彦は微笑む。
いつの間に?少し前は警戒してなかったか?何が起こった?
頭の中は大混乱。言葉も出ない。
「すみません・・・プレッシャー与えるつもりじゃなかったんですが・・・やはり抵抗ありますよね〜鬼頭君はもともとストレートだから」
「八神さんは・・・抵抗ないんですか・・・」
「あります〜だって、私の場合、彼女すらいなかったし・・・鬼頭君より抵抗あるでしょ?」
じゃあ・・・どうしろと・・・
「無理しなくてよくなった。って事ですよ〜禁止も無ければ、義務もない。自然体です」
判ったような判らないような・・・あいまいに頷く優希。
「男だから、責任取るみたいな事ないし、妊娠もしないから、気軽に。重く考えなくていいですよ」
美和子が言う、達彦の、自分を大事にしていない一面は、こういうところらしい・・・
「俺はそう思いません。男でも、女でも、愛したら責任は付いてきます。お互いにですよ?」
ふっー達彦は笑う
「そういう鬼頭君だから、好きなんです。」
「ほんまに・・・知れば知るほど、危なっかしい人ですね・・・」
そう言うと、ゆっくり立ち上がって、優希はテーブル越しに達彦にキスをする。
「がっかりしましたか?」
「いいえ、俺がしっかり捕まえとかんとあかんなぁと思いました。」
「頼もしいですね。末永くよろしくお願いいたします」
冗談とも、本気ともつかない様子で達彦は頭を下げる。
「でも、お母さんが猛反対しはったら、どうする気でした?」
「反対でも、賛成でも結果は変わりません。賛成して欲しかったわけじゃありませんから。ただの事後報告ですよ。」
決意が固いのか、強引なのか・・・
「龍之介さんの時も同じです。反対されても諦めなかったですよ?」
「もともと、そういう、言う事きかん子供なんですか?」
いいえ・・・クビを振りつつ笑う達彦。
「何のこだわりもない、聞き分けのいい子でしたよ」
それはどうでもいい生き方をしていた・・・ということ・・・
「いままで、絶対これでなきゃ駄目なんてモノ、1つも無かったんですから・・・でも今は、鬼頭君でなきゃ駄目なんです」
それは、優希も同じ事だった・・・しかし、達彦のような過激な行為は優希には出来ない。
「もう、二度と失いたくないんです」
一度は無理だと諦めた優希に、偶然再会した奇跡を無駄にはしたくない。その一心だった。
それは優希も同じ事で、引き離されるかもしれない不安のため、言い出せないでいたのだ・・・
「だから、家族に宣言して引き返せなくしてしまおうかと・・・」
優希は家族を捨てられない、組を捨てられない。そして、達彦のために身を引くこともするだろうと思われた。
「俺は、ハメられたんですか・・・」
はははは・・・・・達彦は大爆笑する
「人聞きの悪い・・・・。でも、もう逃げられませんよ」
「警察だけに、人捕まえるのはお手のものですか?」
優希も呆れて笑いが込み上げてくる。
そこへまた達彦の携帯のベル・・・・・
「すみませんね・・・また事件です・・・今夜の、鬼頭君完全捕獲計画は失敗に終わりましたね。」
携帯をしまいつつ、達彦は立ち上がる。
「気をつけて・・・」
苦笑しつつ、優希は玄関まで達彦を見送る
「続きはまた今度」
と、ドア向こうに消えてゆく達彦を見つめつつ、優希はため息をつく。
いつも邪魔される呼び出しに辟易する。
しかし・・・
(俺の完全捕獲計画ってなんや?)
一人残された優希は首をかしげた。
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