永久の契り 1
「龍さん、今日は立派でした」
都内のホテルの一室、伊吹はバスローブで寝室に現れる。
ベッドに横になっていた龍之介は、彼を見上げる
「髪、乾かしたか?」
「龍さんこそ、まだ湿ってますよ?」
ベッドに腰掛けて、伊吹は龍之介の髪を掻き揚げる。
「いや、そう見えるだけで・・・俺は・・・ほら、ぺしゃ髪やから・・・」
感情的にならずに、話を進めた龍之介が頼もしい。
「なあ・・・あいつら、まだやな。」
「はい。腕枕だけの仲やそうです」
鬼頭君・・・八神さん・・・まだそう呼び合う仲・・・
それでも充分、幸せそうだった。
「お前、だいぶ前から知ってたな・・・」
「はい、二人でおるところを踏み込んでしまいまして・・・」
ああ・・・
なんとなく見当はついていた・・・
「なんとなく、あの警視さん、お前に似てる・・・」
「そうですか・・・」
伊吹は微笑む。
「俺の子と言うより、お前が育てた子や。大丈夫やと信じてる」
見守るしかない。自分の人生を歩き出した優希を・・・
「はい、大丈夫ですよ」
伊吹もベッドに横たわり、腕を差し出す。
「7歳のときからの習慣なんですよね・・・」
頭を腕に乗せてくる龍之介に笑ってそう言う。
ああ・・・
「ぼんから聞きましたが、あの警視さんと初めて会うた時も、あの人は女装してたそうですよ」
え・・・龍之介は眉をしかめる
「何しとるんや?あの人は・・・」
「学園祭で、メイドの格好してたそうです。ぼんはてっきり女と思い込んで一目ぼれ・・・キスまでしたとか・・・」
「それは劇的な出会いやな」
龍之介は呆れる。
「でも、ぼんは女と思ってたとして、あの警視さんは誤解を解こうともせずそのまま・・・・」
「あちらも、一目ぼれか・・・」
人の縁はさまざまである・・・・・
ありえない偶然が重なり、運命の出会いが起こる・・・
「もう、心配したところでどうにもならんな」
諦めたように、龍之介は伊吹の胸に顔を埋める。
確かにそうかもしれない。これからの事は不安ではあるが、今色々案じても仕方ない事である。
龍之介は改めて、父、哲三の隠れた苦悩を知る。
龍之介と伊吹の関係を知ったときの哲三の気持ち・・・・
組に姐が必要と、龍之介に見合いをさせなければならなかったときの気持ち・・・
「親の心、子知らずか。俺もそうやったんやな・・・」
愚痴の一つも言うことなく、哲三は見守っていてくれた。
「さっきの龍さん見てたら、あの時の先代を思い出しました」
初めて一夜を共にした朝、やってきた哲三に、二人の関係を知られた時の思い出がよみがえる。
かなり動揺していただろうにもかかわらず、冷静だった哲三・・・
「親は、苦労が多いなあ・・・」
親になって初めて親の苦労を知る・・・
龍之介は苦笑した。
伊吹だけを見つめて、つっ走った大学生時代。
いろ(情夫)と妻の狭間で苦しんだ新婚時代・・・
そして、伊吹の行方不明、記憶喪失事件でのダメージ・・・
自分の事で精一杯だった龍之介を案じて、心を砕いていたのが父、哲三であった。
「ああ・・・バカ親父にだけは、なりとうないなあ・・・・」
そんな龍之介の言葉に大笑いしながら、伊吹は優希の存在に感謝する。
心配する対象が存在するだけでも、幸せだと思った。
「私は親には なれんかったけど、ぼんがいてくれてよかったと思います」
「お前は、俺より、優希の親らしいもんなあ・・・」
優希は 龍之介と、聡子と、伊吹、3人の大事な息子なのだから・・・・
「それでも、龍さんは ぼんにとっては親父さんなんですよ」
父という立場を与えてくれた聡子にも感謝している。
そして・・・・負い目は果てしなくあるのだ・・・
「晴れて公認の仲になったんや、今夜あたりは腕枕から少しは進展するかなあ・・・」
さあ・・・
伊吹は答えに困る。
「まだ熟してないかもしれませんね・・・ぼんも、警視さんも、龍さんみたいに押し切るタイプやないみたいですから」
ましてや、障害はわんさか・・・・
そう簡単なものでもないらしい。
「押し切って悪かったな・・・」
「おぼこいとか、遅手とか発育不良とか、さんざん言われながら、龍さんは19歳で愛人囲ってましたから・・・眠り猫、鳩を得るってアレですか?」
そういわれると返す言葉もないが・・・
「お前がそれ言うのは、間違うてるぞ。共犯者やし〜」
はははは・・・・・
そう言われては、認めざるを得ない。
「まあ、龍さんと一緒に住んでて、何年もそのままでいられる訳ないでしょう・・・」
「俺が15の時からお前、狙ってたやろ?」
「狙ってたなんて・・・魅力を感じていたと言うてください」
お?認めたな・・・・龍之介は顔を上げる。
観念したような伊吹の顔があった。
「もう、そろそろ・・・時効ですよね・・・」
ふっ・・・・勝ち誇ったような笑いを浮かべて、龍之介は伊吹にのしかかる。
「ロリコン・・・・」
「それを言うなら、ショタコンですよ」
何・・・その余裕は?・・・呆れる龍之介を引き寄せて抱きしめる伊吹。
「でも、違いますよ。私が好きなんは、龍さん。15歳やろうが、19歳やろうが、三十路やろうが四十路やろうが関係ないんです」
「おっさんになっても?」
「今の龍さんが今までで一番美しいです」
刻まれた年輪は、外見の美しさに奥深さを加えてゆく・・・
「もう、よれよれやぞ・・・俺は」
「そんな事言うたら、私こそ。いつまで龍さんについていけるか・・・」
「いや、お前は長持ちする」
苦笑する伊吹に、龍之介はそっとくちづけた。
「それでも、腕枕はしてくれるよな・・・」
はい・・・
ハンパ無い腕枕へのこだわりに、圧倒されつつ、伊吹はうなづく。
「腕枕は、お安い御用ですよ。なんぼでもします」
初めて出逢った日から、少しも変わらない想いで二人はそこにいる・・・
どうか、優希も後悔なく、歩んで欲しい
龍之介も、伊吹もそう願わずにはいられなかった。
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