決断と決意 2

 

 

慌しく年末年始は過ぎてゆく・・・・

歳が明けて4日目にやっと、皆、解放された。

「7日まで休め、お疲れさん・・・」

宴会の後片付けの中、伊吹が叫ぶ

 

「優希もお疲れさん、もう上がって休みなさい」

母、聡子は、横で食器を洗う優希に微笑む。

「お疲れはお袋やろう?毎年ようこんなことしてるなぁ」

「本当に・・・大変ですよねえ」

洗った食器を布巾で拭きつつ、桃香がうなづく。

もうすっかり、南原の妻が板についてきた、親組である淀川組の次女は、一男一女の母である。

「登美子さんや、桃香さん達がいてくれるから 助かるわ・・・」

他の幹部夫人もいつの間にか増えてゆき、人手は充分にある。

「ずいぶん楽になりましたね・・・」

家政婦の登美子が残飯処理をしつつうなづく。

「皆、もう、親父なんやなあ・・・」

優希の知らないうちに皆、結婚して、親になってゆく・・・

「そうねえ・・・あとは、優希だけかしら?」

深い意味は無いのだが、聡子のその言葉が痛い。

 いきなり深刻な顔になった優希に、聡子と桃香は顔を見合わせる。

「あ、すまん、他の用事思い出した・・・」

手を拭いて、立ち去る優希を見つめつつ、聡子はため息をつく。

「変なこと言っちゃったかしら・・・」

「ぼんも年頃ですから、色々あるんでしょう・・・」

そう・・・色々・・・桃香は南原とのいきさつを思い浮かべる。決して平坦な道ではなかった。

「でも、きっと大丈夫です。鬼頭のぼんは、ちゃんと乗り越えて行かはります」

 そのときそのときは、大事件でも過ぎてみれば皆、笑い話になるではないか・・・・

「でも、何か、大変そうね・・・あの子。」

人生は、ままならない。とかく、ありえない相手に恋してしまうことは多い。

ましてや、優希は鬼頭の後継者・・一般人相手では反対されないほうが難しい。

「ぽんには、姐さんも、藤島さんもいてはるやないですか・・・」

優希が、どちらかに相談した内容は必ず、伝わる事になっている。

だから、心配は無いが・・・

「あの子は、小さい頃から頑張りすぎたのよねえ・・・」

 

達彦の事は、その2,3日後に伊吹から聞かされた・・

 

いつも落ち合っている、いつものカフェで伊吹と、聡子は紅茶とケーキセットをはさんで向かい合う。

「伊吹さんからデートに誘われるなんて久しぶりねえ・・・」

時々行われる、本妻と情夫(いろ)の会議であった。

「お伝えすることがありまして。組長より先に、です。」

「優希の事ね」

あれから気になってはいた。

「つきおうてる人がいはります。それが・・・警察官なんです」

やはり・・・聡子はうなづく。見るからに難しい恋をしているようだった。

「ただの警察ちゃいます。本人は警視の空き待ちしてるキャリアで、お父さんは警視総監、お兄さんは警視監、お母さんは少年課の課長」

とんだポリスファミリーに、聡子は声も出ない。

「名前は八神達彦。以前、鬼頭にわび入れに来た、例の土下座の警部です。」

聡子のカップを持つ手が震えた。

「ぼんも相手も、覚悟はかなりしてますが、覚悟だけでどうにかなるもんとちゃいますさかい。」

 それは、伊吹も聡子も、判りすぎるくらい判っている。

自分の選んだ道を悔いたことは無かった。切なく、悲しくても、それでも幸せだった。

反対する権利は誰にも無い。

しかし・・・・優希にも自分達と同じ、いや、それ以上の苦痛が訪れる事を思うと、肯定するのは辛かった。

「伊吹さんの考えは?」

「実は、二人でおるところを、踏み込んでしまいました。その時のぼんは、あの時の組長とおんなじ目をしてました・・・・」

先代組長である、義父から、聡子は聞かされたことがある。

伊吹が龍之介の情夫(いろ)になった朝、哲三は何も知らずにやってきて、この事実を知った。

そして、龍之介の覚悟を知り、そのまま許す事となる。

あの時、反対して引き離していたら、今の龍之介は無かったと・・・・

(では・・・・優希は・・・)

聡子は顔を上げる

「伊吹さんから見てどうですか、八神さんは優希の運命なんでしょうか・・・」

「はい」

伊吹の確信した態度に、聡子も心を決める。

「判りました。今は、見守りましょう。」

聡子はうなづいた。

 「組長には、ぼんから話さはったほうがええと思うので・・・それに、今の時点では、結論も出てませんし、報告するにも・・」

「結論・・・」

 「中学生並みの付き合いみたいなんです」

それでなのか・・と聡子は笑う。どこか、まだ優希にはうきうきした雰囲気があった。

深入りすればだんだん苦しくなってくるだろうが・・・

「伊吹さんには話しているのね。あの子は」

「恋愛の事は、相談されても判りませんと言いましたが・・・」

それぞれが、たどる道のりは同じではないだろう。それでも見守りたい、そう思う。

「もう、帰らなくちゃね・・」

時計を見て、聡子と伊吹は立ち上がる。

いつの間にか、二人の定期会議は龍之介公認になっていて、行きも帰りも一緒である。

店を出ると、聡子は伊吹の腕にそっとつかまる。

「優希の事だから、きっと上手く行くわ。そんな感じがする」

聡子が、自分に言い聞かせようとして出た言葉を、伊吹も信じたかった。

周りからは理解されないような聡子との関係も、伊吹には心地よいものだった。

恋愛とは別の愛情で繋がっている。そう思える関係・・・

試練は避けられなくても、そこに幸せはあるのだと知っているから・・・

 

「おい!いつまで俺を、はみごにする気や?」

家の前で待っている龍之介に、二人は顔を見合わせて笑う。

「はみごは・・・おあいこですから・・・」

伊吹の言葉に苦笑する龍之介。笑いをこらえる聡子・・・

 

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