決断と決意 1

 

 年末年始は、忙しい鬼頭を手伝うために優希は大阪の自宅にいた。

「さすが、ぼんはコンピューターできはりますね」

高坂が横で感心している。

「いまどき、極道とか会社員とか関係無しに、情報処理は基本できへんと困るでしょう?」

ずっと伊吹に任せっきりだったので、皆、なかなか覚えない。

こんな堅気な事が出来るくらいなら、やくざになどなりはしない。そう見栄を張っている。

「親組にお歳暮送るんも、インターネットの時代やからなあ・・・」

南原が、プリントアウトしたお歳暮リストを手にやってくる。

以前は伊吹がほとんどしていたが、いつまでも頼れないので、今では南原が事務処理をしている。

「いつもの事ながら、うんざりですわ・・・」

岩崎が、若い衆に住所を張らせた年賀状の束を持って、事務所に入ってくる。

「そう言うな・・・」

優希とバトンタッチして、南原はコンピューターの前に座る。

「そやかて・・・兄さん、いまどき葉書で年賀状は古いでしょう?インターネットでメール送ったり、携帯メールしたらアカンのですか?」

「はじきがあっても、ドス持ってるんが俺らとちゃうんか?」

ああ・・・

岩崎はうなづく。

「ドス無いと、マフィアになりますねえ・・・」

「俺らほど、古いモンに固執して、すがってる奴らはおらんやろう」

少しづつは変わってゆく・・・しかし、芯は変わらない・・・そう言うことなのだろうか。

 しかし・・・

優希は考える、祖父も、父も 組長になりたかったわけではない。

やくざの家に生まれて、なんとなく気づけば襲名していた。

さらに二人とも、周りから不安がられながらも、最後は立派な組長になっている。

(俺は・・・どうなんやろう?)

周りは確かに期待している。がっちりした体躯に、男らしいさっぱりした性格、誰もが父以上の素質を見ている・・・

しかし・・・判らない。

自分に勤まるのかどうか・・・・

ただ、鬼頭が好きで、居心地がよくて、ずっとこの中にいたいと思えた・・・

「ぼん、すみません。これ藤島の兄さんに渡してください」

どこからか来たファックスを、南原は優希に差し出す。

「ああ・・」

受け取り、立ち上がると部屋を出て、二階に上がる。龍之介は聡子と吉原組に行って、留守。

伊吹は自室で仕事中であった。

 

「伊吹・・・これ・・」

ドアを開けてファックスを差し出す。

「ああ、ぼん・・・すみません。」

ノートブックに向かっていた伊吹が振り向く。

「いつの間に、マイPC手に入れたんや?」

「これくらい買えますよ・・・失礼な。」

そう言って、ファックスを受け取り目を通す。

「あいさつ回りの日程と、来る人数・・・か?」

「こういう細かい事、聞くのは何なんですが・・・いくつもの組に、いきなり押しかけられても、対応できませんから・・・」

「調節してるんか・・・」

確かに元旦から、挨拶客で、もう何がなんだかわからない、という毎年の恒例行事だ。

一番大変なのは、もてなす姐、聡子だ。伊吹は聡子の負担を軽くしようとしているのだ。

「で・・ぼん。その後、どうなんですか?」

龍之介のいないうちに、聞いておきたいらしい。伊吹は椅子を勧める。

「今は同じマンションにいて、俺んとこの向かいで、行ったりきたり。最近、お母さんに会うたなあ・・・」

「同居はしてはらへんのですか・・・」

「無理やろ?いくらなんでも・・・あ、勘違いするな!まだなんでもないぞ」

相変わらず、表情を変えない伊吹と向かい合うと、なぜか警察に尋問されているような気がした・・・

「なんでもない・・・というと・・」

「腕枕して寝てるだけ」

 ふうん・・・・

沈黙が流れる

「おい!何とか言え」

沈黙に耐えかねて優希が叫ぶ。

「なんて言うてええのか、判りません」

え・・・今度は優希が沈黙する。

「なんか、アドバイスは?」

「すみません、そういうことは、よう判りません」

人生の総てを龍之介に懸けて、龍之介しか知らない彼は、恋愛の相談には乗ることが出来ないのだ。

「悪かった、伊吹は何でも出来るからつい・・・」

気まずい空気が流れる・・・・

「どうするつもりですか・・・」

責めているのでは無い事はわかる。ただ、優希の意思を確かめようとしているのだ。

「別れられへん。たとえミスキャストでも。」

「警視総監の息子やとか?」

「ああ、兄貴は警視監で、お母さんは少年課の課長や。当の八神さんは今、警視の空き待ちや」

表情をまったく変えずに、伊吹は途方に暮れる。

「組長は、ぼんの為なら組たたむ覚悟も、しておいでです」

それもいいかもしれない。ただの会社員にでもなって、達彦と時々会えるなら・・・しかし・・・

「それでも、俺は鬼頭が好きなんや」

ふっー伊吹は破顔う

「ぼんは、やはり、ぼんですねえ・・・」

まっすぐで、一途で、情に厚い・・・

「八神さんは、どれだけ苦しんでも後悔せえへんて言うてる」

判るような気がした。柔らかな外見に反して、彼は猪突猛進に見えた。

「まあ、覚悟はしてるんですね二人とも・・・」

だからと言って、何の解決にもならないが。

「まあ、男相手やから、子供が出来たの、責任取るの云々かんぬんは関係ないとして・・どう考えても、

警察をやくざの情夫(いろ)にするのは無理です」

「当たり前や。あの人をそんなモンにしとうない」

龍之介にしても、伊吹を情夫(いろ)と呼ばれる立場にする事にどれほど悩んだか知れなかった。

「表向きは、何の関係も無い間柄になります。つまり、お互い結婚する事も可能・・・」

「親父みたいにか?」

「それで もめるようやったら、ここで終わってください。」

当時、伊吹も、それを受け入れたのだ。

優希の場合は、達彦もカモフラージュの、偽装結婚をすることもありえると言う事・・・

「俺は・・・襲名したら、嫁貰わなあかんのか・・・・」

「来てくれる娘さんがいてたら、ですけどね・・・なかなかウチの姐さんみたいな人はいてませんから」

 その点、龍之介は果報者だった。

「ガキのてんごとちゃいますさかい、そこんとこ、色々考えてください。」

ああ・・・・

表情を暗くする優希の肩を、伊吹は叩く。

「極道ちゅうもんは、基本的にこういう事はややこしくなってるんです。

先代の時も、大姐さんはカトリックの大学を出た、お嬢様やったとか。周りの反対は半端やなかったそうです。

ぼんだけが大変なんと違いますから・・・」

「そうか・・・祖父さんも色々あったんやなあ・・・」

伊吹は優しく笑った

「それでも、極道の家に生まれた事、後悔せんと鬼頭が好きやと言うてくれて、嬉しいです」

「お前がいてくれたから・・・」

笑って優希は立ち上がる。

父も母も、いつも傍にいてくれた・・・そして、伊吹も・・・

いつも差し伸べられる手に導かれてきた。

だから、迷わずに自分の道を行ける・・・・

 

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