発覚 5

 

 昼食後、デスクで同僚と雑談していた達彦のところに、辞令を手にした慎吾が駆け込んできた。

「達彦・・・」

「三浦警部、警視に昇進おめでとうございます」

笑顔の達彦が慎吾には憎らしく思える。

「お前・・・」

「警視総監殿のお決めになった事です」

二人同時の昇進などはありえない。同時に昇進したとて、部署は別のところに配属になるだろう

判っていた・・・・

が・・・・

(どうしてそんなに、にこやかなんだ・・・)

人の気も知らずに・・・と言いたい。

(この部署も今日が最後か・・・)

都内ではあるが署が別となれば、しょっちゅう会う事はままならない。

「達彦・・・」

思いつめた慎吾の言葉は、課長の慎吾の昇進祝いと送別会の飲み会の呼びかけに消えていった。

 

 就業後、近くの店で慎吾の昇進祝いと送別会が開かれた

宴会の主役として上座に据えられた慎吾は達彦と話すことも出来ないまま、いつものように抜けてゆく達彦を目で追った。

 

 

そっと宴会を抜け出した達彦は、近くのカフェで優希の迎えを待つ

宴会のために車は署に置いてきたため、優希が達彦を家まで送る事にしたのだ。

「八神さん」

自分のマンションから優希は、すぐに飛んできた

「鬼頭君、すみません、わざわざ来ていただいて・・・」

「その代わり泊まっていってええですか?朝送っていってあげますから」

ふっー

こういう口実の逢瀬がうれしい

「そうですね」

そういって達彦は立ち上がる。

 

「今日は慎吾君の昇進祝いでした」

助手席に座ると達彦はそう言う

「三浦さん、警視にならはるんですか・・・」

ハンドルをつかんで優希は振り向く

「とりあえず私はこのまま優希君と逢い続けられますね」

ああ・・・・

しかし、優希は慎吾に同情する

いままで達彦のそばにいられたのに、離れ離れとは・・・その心中いかほどか・・・

(まあ、ええか・・・恋敵がドロップアウトするんやから・・・)

ぼんやりそんな事を考えつつ、優希は達彦のマンションに向かう。

 達彦のマンションに着くと、とりあえずお茶を飲んでたわいも無い話をして、就寝準備に入る

 

「鬼頭君、お先でした、どうぞ〜」

達彦は浴室から濡れた髪をタオルで拭きながら現れた

「バスローブ、脱衣室においておきましたから」

お泊り用アイテムとして達彦が準備したものである

「じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」

浴室に消える優希を、ドライヤーで髪を乾かしながら達彦は見送る。

しばらくして、チャイムが鳴り、ドアを開けると慎吾が入ってきた。

「どうしたんですか・・・こんな時間に。」

優希が来ていることを、あまり知られたくなかった。

「抜けてきたんだ・・・お前に話すことがあって・・・」

いつもとは違う、かなり酔っている慎吾に達彦は身構えた。

「酔ってますね・・・慎吾君・・・」

そう言いつつ、達彦はキッチンでコーヒーを入れつつ、こっそりと、メモ用紙に慎吾が来ていることを書き付けて

浴室のドアの隙間から差し入れた

そして、ファーに座っている慎吾を盗み見ながら、早く返す口実を考えていた・・・

「いつかは、離れ離れになると思ってた、しょうがないよな・・・」

「慎吾君、今日は酔ってるみたいだから、話は後日にしませんか?」

そういいつつコーヒーを差し出す

「お前は平気なんだ・・・」

「私は、慎吾君が昇進したこと、自分のことのように嬉しいですよ」

「そんな事じゃないだろう!」

いきなり立ち上がると慎吾は達彦の持っているトレイを奪ってテーブルに置く。

「俺と離れて、お前は平気なのか?」

肩をつかまれて達彦はあっけにとられる

「離れて・・・って・・でも、同じ都内の署ですから、会う事もあるし、慎吾君とは家族ぐるみのお付き合いですから

プライベートでも、いくらでも・・・・・」

「お前のその余裕、無茶無茶腹立つんだ」

そんな事言われても・・・・達彦は途方にくれる

「達彦、俺はずっとお前のこと・・・」

雲行きが怪しくなってきた事を達彦は悟る

「お前は俺の事どう思ってるんだ」

「幼馴染で・・・その・・」

じりじりと近づいてくる慎吾に後ずさる達彦・・・・とうとう壁に行き止まった。

「愛してる・・・」

ヤバイ!そう思った瞬間に達彦は身を翻して慎吾の腕をねじ上げていた。

「達彦・・・」

「なにを・・・するんですか?慎吾君は私が今までこんな事されてきて、うんざりしている事、知ってるでしょう?」

少しおさえる力が緩んだ隙に、慎吾は腕を振りほどき、達彦をソファーに押し倒した

「そんな奴らと一緒にするな。俺は・・・」

「こんなことしても、何にもならないじゃないですか・・・」

達彦と慎吾の力は、ほぼ同等だった

こんなとき、本気を出した慎吾の方が少しの差で勝ってしまう・・・

まさか、身内から牙をむかれるとは思わなかった達彦は絶望していた。

「鬼頭優希か・・・あいつに惚れてるのか?」

「何でそうなるんですか」

パジャマの襟元から強い力で引き剥がされる。

ぽろぽろとボタンが落ちる・・・

「お前は俺のものだ。あんなやくざには渡さない」

「慎吾君!」

怒りに満ちた達彦の叫びと同時に、慎吾は浴室に潜んでいた優希によって殴りつけられた。

「警察官が何してるんですか?今日はこのままお引取りください」

「鬼頭!お前、なんでここに?・・・・お前達・・・」

「慎吾君には関係の無い事ですが、お察しのとおり、私は鬼頭君を愛しています。口外しようがしまいが慎吾君の勝手です。

こんな事で脅されたりしませんから。」

静かな、落ち着いた声で、落ち着いた態度で達彦はそう告げる

「達彦・・・」

「今の事は無かった事にします。忘れますから・・・出て行ってください」

昇進の辞令が出たその日に、同僚に暴行未遂・・・

酔いがさめた頭で考えると、愚かな事をしたものだ・・・

慎吾はため息をついて立ち上がる

「達彦・・・すまない。俺は口外しない。今日の事は起訴したければ、しろ」

出てゆく後姿に達彦はつぶやく

「慎吾君、私は本当に君が、立派な警察官になる事を願っているんです。特別な存在には、なれなかったけど。

ずっと、兄弟みたいに思っていました。これからもそうです。」

「ありがとう・・・」

慎吾の頬を涙が伝う

傷つけてしまった。大事な人を・・・その後悔は果てしない。

判っていた、鬼頭優希という男が自分の前に現れたあの時、すでに気づいていた。

彼は達彦の最愛になると・・・・

でも信じられなくて、信じたくなくて、見ぬフリをして悪あがきを続けた。

もう終わった・・・もとには戻れない。

「達彦、添い遂げろ・・」

そういい残して慎吾はドアの向こうに消えた。

 

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