発覚 3

 

次の日、鬼頭商事に現れた龍之介と伊吹を、優希は応接室に通した。

「親父、昨日はすまんかったな。大学時代の友達と会うててな・・・」

茶を自ら運びながら、優希はそう言ってソファーに座る

「電話してから伺うべきでした」

昨日とはうってかわった落ち着きを見せて、伊吹は微笑む。

「変わった事は無いな?なんかあったら連絡せいよ」

龍之介は煙草に火をつけながらそう言う。

「お前には、俺も、伊吹も聡子もおるんやから、言いやすい誰かに相談したらええ」

あまり、優希のことに口出ししてこなかった龍之介である。しかし放置していたのではない。見守っていたのだ。

その事は優希が一番よく知っている。

「親父、いつもありがとう。そして・・・すまん」

「何をあやまってるんや・・・」

そう言う龍之介の笑顔は、本当に父親らしい優しさに満ち溢れていた。

「うん。色々と・・・」

 

井上がノックして入ってきた

「組長、銀行の頭取さんがお越しですけど・・・」

「ああ、お通ししてくれ」

「そしたら、俺は・・・」

優希が立ち上がる

「あ、もしかして伊吹に相談する事でもあるんやったら、貸すぞ?」

何か昨夜、勘づいているようだった。

「ほな、借りてええか?」

と伊吹を見る

「組長、すみませんが席はずします」

伊吹が立ち上がると、龍之介は彼を一瞥した。

(頼んだぞ)

瞳がそう語っていた

 

 

「一応、いきさつをお聞かせ願えますか?」

近くのカフェに移動した伊吹と優希は、一番奥の席に座るとコーヒーをオーダーした。

「話したら長いんやけど・・・」

と優希は、大学の文化祭のエピソードを語った。

「そんな事があったんですか」

伊吹は少し呆れていた。が、八神達彦なら、そんな事もありそうな、なさそうな・・・・

「それから、いろんな女の子とつきあったけど、八神さんのこと忘れられんと・・」

「鬼頭で再会したんですね」

鬼頭での様子だと、達彦のほうも優希が忘れられずにいたような雰囲気だった。

「どう思う?八神さんのこと・・・」

うん・・・・

伊吹は腕組みをする

「なかなか肝のすわった若者ですね。まっすぐで品行方正で・・・・包容力があります」

「反対するか?」

こわごわ訊いてくる優希が可愛い

「反対も何も・・・デキてしもうたもんは・・・」

「あ、まだそういう仲ちゃうから」

はい・・・伊吹はうなづく

「でも、それも時間の問題でしょ?」

とはいえ、龍之介の息子だ、ウダウダするのは目に見えている。

「なんか、そういう踏ん切りつかんし。何回か添い寝してるんやけど・・・」

そうですか・・・・苦笑する伊吹。

「めちゃめちゃ惚れてたらそういうこともあります」

「そうか?」

コーヒーが運ばれてきた

二人、しばし沈黙してコーヒーを飲む・・・・・

 

「で、八神警部の父上は、警視総監と伺いましたが・・・」

「うん」

(うんじゃないでしょう?ぼん・・・・・)

伊吹は眉をしかめる

「ヘタしたら勘当されますよ?八神警部は・・・」

「うん」

(いや、うんじゃないでしょ・・・)

ため息が出る

「八神さんは、警察官を辞職する覚悟もしてる。俺のために・・・そやのに、俺はあの人のために出来る事、何もないし・・・」

達彦の覚悟と、それに対する優希の思いは理解した。

「何の考えもなく、つきあってるわけや無いと言う事だけはわかりました。」

伊吹は、優希の為なら鬼頭をたたんでも・・・・と言っていた龍之介の言葉を思い出していた。

「ぼん、もし彼が運命なら、最愛なら、離したらあきません。組長もそれは望んでないはずです。

でも、相手に負担をかけるのと、相手を犠牲にする事だけは、したらあきません。まあ、そういうことです」

そうか・・・

少し笑った優希の笑顔は自信に満ちていた。

(本当にぼんは覚悟を決めてるんや・・・)

伊吹は確信する。

「まあ・・・・ぼんは組長の息子やさかい、間違いないと思いますけど。」

伊吹は立ちあがる

「伊吹・・・」

優希も続いて立ちあがる

「なんかあったら連絡くださいね。組長も私も、姐さんも、皆ぼんの味方ですから」

レジで支払いをする伊吹の背を見ながら、優希はそこに父親の背中を同時に見る。

「ありがとう、伊吹。いつもありがとう・・・」

優希にとって、伊吹は龍之介より近い存在だった。

龍之介が伊吹に甘え、依存しているように、優希も伊吹に甘え、依存していた。

「お前がいてくれてよかった」

店を出ると初夏の日差しが降り注いできた

「ぼん、私らは何よりもぼんの幸せだけを願ってますから」

 うん・・・・・

龍之介によく似た笑顔を伊吹に向けて、優希はうなづく。

この愛しい人の一人息子は、自分の人生を歩き出した。

試練の多い道を力強く歩き出した・・・・・

自分も、龍之介も、心配は尽きないだろう。苦労はさせたくない、辛い思いはさせたくないと・・・

しかし、乗り越えるしかないのだ。自分の力で。

龍之介と伊吹がそうしてきたように・・・・

 

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