発覚 2

 

 「優希の奴・・・どこ出歩いてるんや」

夕食を終えて、ホテルの部屋に帰ってきた龍之介は、ソファーに腰掛ける。

「ぼんも、顔ききますから友達も多いでしょうし・・・」

伊吹は苦笑しつつ紅茶を入れる。

「女でも出来たんとちゃうか?」

それは・・当たらずとも遠からず。

「ぼんも年頃ですから・・・」

「まだ早いぞ?」

え・・・・

伊吹は思わず振り向く

「なんや?」

「いえ・・・組長は、ぼんの歳で結婚してましたよ」

ああ・・伊吹に言われて龍之介は顔をしかめる。親にとって、子供はいつまでも子供なのだろう。

「組長、ぼんにあんまり、色々言える立場と違いますよ・・・」

紅茶を差し出しつつ伊吹は微笑む。

「それは・・・19歳ですでに情夫(いろ)持ちになった事を指してるんか?」

「まあ、そうです」

自分のカップを手に、伊吹も腰掛ける

「お前が言うな・・・この共犯者。」

確かに、おぼこいと噂だった割には、そういう部分は早かったかも知れない。

しかし、龍之介自身、早いという感覚は無い。ずっと想い続けて、やっと成就したのだから。

「そういう言われ方は心外ですねえ・・・私がとって食ったみたいな・・・」

「すまん。俺がお前の事、とって食うたんや。満足か?」

ははははは・・・・

伊吹は笑う。いくつになっても子供っぽい龍之介が可愛くて仕方が無い。

「で・・・なんか隠してるな?お前。さっきからずっと、組長て言うてるぞ?」

「組長を組長て言わんで、何て言うんですか?」

そういいつつ、伊吹は内心焦る。やはり龍之介は鋭い。

隠し事があると自然にバリケードモードに入る、するといつもの”龍さん”が出てこないのだ・・・

「龍ちゃん」

「40過ぎたオヤジが、何言うんですか?」

ふう・・・

伊吹の突っ込みをスルーして、龍之介はため息をつく。

「俺ら、しんどかったよな。優希には、しんどい目にあわせとうないんや」

それは・・無理です・・・伊吹はうつむく。

すでに、優希は過酷な運命を受け入れてしまった。

「龍さん?それでも私らは幸せですよね? 大事なもの手に入れるためには、それなりの覚悟とか、気合いとかいるんですよ」

ああ・・・

龍之介はうなづく。伊吹の事は後悔した事など一度もない。

「お前には話すんか?優希は?」

「今度、話聞くことになってますから、まだヤイヤイ言わんといてください」

ふうん・・・

「大丈夫ですよ、龍さんの息子ですよ、間違いありませんから」

父親の顔をちらつかせる龍之介に、伊吹は愛しさを感じる。少年の頃には無かった魅力を感じて・・・

「明日、優希の顔見てから大阪に帰るぞ」

「はい」

笑って伊吹は龍之介からカップを受け取り、テーブルのトレイの上に置いた。

「お前みたいな女おらんかな?おったら優希の嫁にするのにな・・・」

え?

伊吹は首をかしげる

「違うでしょう?姐さんみたいな人 の間違いでしょう?」

そうか・・・

龍之介は苦笑する。よく考えればそうだ。

「第一・・・こんなコワモテの中身オカンな女、おったら怖いですよ」

そうやけど・・・・

龍之介はそれでも、自分にとっての伊吹のような存在が、優希にも現れる事を望んでしまう。

「俺は・・・やはり聡子より、お前のほうが必要やから・・・」

複雑な思いを抱きつつ、伊吹は龍之介の前に立つ。

「そうですね・・・ぼんにも、そういう存在は必要かも知れませんね」

優希の部屋で見た達彦の姿を思い出す。

ー逃げも隠れもいたしませんー

そんな態度に圧倒された。そして・・・昔の自分を思い出す

心はもう決まっているのだろう。揺らぐ事もないのだろう・・・・

鬼頭に現れた、あのまっすぐな魂は今、まっすぐに優希を受け入れたのだろう。

「何考えてるんや・・・」

龍之介の声で伊吹は我に返る。

「いえ・・・」

「寝室で考え事したら、承知せんぞ」

そういって立ち上がると龍之介は浴室に向かう

それを見送り、伊吹は窓際に立つ。

 

都心という事もあり、華やかな夜景がひろがっている。

いつもいつも、雑事に追われてきた。龍之介の事だけに構っていられなかった・・・

組の事、弟分の事、優希の事・・・

しかし、そんな忙しい頭の中でも、一番は やはり龍之介だった。

とどのつまり、龍之介だけでいいのかもしれない。

そう思いつつも、優希の恋の行方は悩みの種だったが・・・・

(先代もあの時、思いっきり動揺してはったんやろうなあ)

二人の仲が発覚した時、哲三は冷静だったが、心中はかなり大変だったのだろうと今になって思う。

あの時は、龍之介も、自分も、哲三もそれぞれが緊迫していた。

まだかなり同様している自分を感じつつ、伊吹は苦笑する。

(先代にも悪い事したなあ・・・・)

苦笑しつつも、過ぎし日々は懐しく、愛しいものだと感じる。

いつかは、龍之介にも達彦の事を話さなくてはならない時が来る・・・・

 優希たちは心を決めたようではあるが、一波乱あるだろう事は否めない。

いや、後々、試練だらけだろう。

(まるでロミオとジュリエットやな・・・)

龍之介に話すのも、勇気が要りそうだ。

 

 

「伊吹・・・」

浴室から出てきた龍之介が寝室に入る。

長い長い考え事を一旦終えて、伊吹は浴室に向かう。

すんなりいかないのは世の常だ、今は優希を信じるしかない。

龍之介が越えてこれたのだから、優希も越えられると信じたかった。

 

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