発覚 1

 

昼過ぎに達彦は、深い眠りから目覚めて、遅い昼食をとる。

「すみません」

ミートソースのスパゲティを食しつつ笑う

「ほんまに・・・眠り姫ですねえ・・・爆睡状態でしたよ」

「徹夜が続いてたもので。にしても、鬼頭君、料理うまいですね」

忙しくて、あまり食事に構っていない達彦は驚く。

「伊吹の訓練受けまして・・・一人暮らししても、不自由はありませんよ」

「いいですね・・・」

泥のように疲れて帰ってきて、出迎えてくれる人がいる事、食事が黙っていても出てくる事・・・・

達彦には夢のような事だった。

「もしかして八神さん、いままでちゃんと食事してきはらへんかったんですか?」

「疲れて動けないし・・・非常食にレトルトとか、乾パンとか買い置きして・・・」

はああ〜〜〜〜

ため息の優希。

「家政婦で住み込みたいですね・・・・」

そうしてもらえるなら、嬉しい限りだった。

「男らしい鬼頭君が、こんなに家庭的とは思いませんでした」

伊吹のおかげで、すっかり優希はオカンになっていた。

「八神さんも、殺人的に忙しいんですね。」

今なら、同僚達がデートする時間もないと嘆いていた気持ちがわかる。

「もう一眠りしますか?」

「ソファーでぼーとしていて、いいですか?」

眠るのはもったいない気がした。

「一緒にぼーとしててええですか?」

優希は笑ってそう言った

 

 

しかし・・・・

ボーとしている間にも、慎吾からの電話がかかってくる。

「大丈夫ですか?」

優希はコーヒーを差し出す。

「ええ、慎吾君がちゃんと飯食ってるかどうか聞いてきただけです。いつものことで・・・」

しかし、家にいない事がばれてしまった

「俺の事・・ばれたらマズいですよね」

慎吾が逆上したらどうなるか・・・・想像するのも怖い。

「何か言うかも知れませんが、別に慎吾君にとやかく言われる筋合いはありませんから」

笑顔でさらりという達彦。強いのか、現状把握していないのか・・・

「でも、男の嫉妬は、タチ悪いですよ、三浦先輩は負け知らずで来てはるから余計に」

確かに、慎吾は昔から世渡りが上手く、思い通りにならなかった事はひとつも無い。

しかし、達彦はそんな慎吾の姑息なところが嫌いだった。

そこには真実や真心が見られなかった。

「なんか・・・妨害されたり、仲引き裂かれるんやないかと心配です」

そういって優希は達彦の横に座る

「まさか・・・私のために慎吾君が嫉妬なんて・・・ありえないですよ〜」

あ〜あ・・・・・

やはり・・・・

達彦は自覚していないのだ

「八神さん、天然ですね・・・状況把握とかできへんまま、どうやって犯人捕まえてるんですか?」

囮捜査など、危ない橋を渡っているのが心配だ。

「ああ〜母にも言われます。自分の事に関しては、全然見えてないって〜」

それは、他の事に関しては把握できるという事なのか・・・・優希はあいまいにうなづく

「特に恋愛に関しては、さっぱりダメね〜〜って・・・・」

そんな感じは否めない。

「もっと早く自分の気持ちに気づいていたら、こんな遠回りはしなかったのに・・・ほんと、馬鹿ですよね」

それは優希も同じ事・・・

しかし、自分の本心に気づくためには、その遠回りは必要だった。そう思っている。

ためらいながらも、魅かれあう そして・・・やはり、愛さずにはいられない。

「後悔しませんか?」

優希は、達彦を見つめる

「鬼頭君を手放したら、後悔すると思います」

何度も気持ちを確かめあっても、ためらいは消えない。

相手を気遣うあまりに・・・・

自然に近づいてゆく顔・・・そっと閉じられた瞳、重なる唇・・・・・

これで何度目か・・・頭の隅で優希は考える

いつも時間が止まったような不思議な感覚がよぎる

部分的な接触だけでは我慢できずに、優希は達彦を引き寄せ抱きしめる

そっと・・・そっと・・優希の背に達彦の腕がまわされ、達彦の身体が優希に傾く

 

 

「・・・・ぼん・・・」

突然の、まさかの伊吹の声に優希は我に返り、かなり内心動揺する

「伊吹・・・」

玄関には龍之介の持つ合鍵でドアを開けて入ってきた伊吹が固まっていた。

優希はソファーからおもむろに立ち上がり、玄関にいる伊吹を出迎える

見つかったからと見苦しい姿は晒したくない。自分は鬼頭の9代目になる男なのだ・・・

「きたんか?親父は?」

龍之介の姿が見えなかった。伊吹のほうが動揺を隠せないまま、優希の部屋の合鍵を手に困惑していた。

東京に来たついでに夕食を一緒にとろうと、龍之介をレストランに待たせて、伊吹は優希を迎えにきたのだ。

「レストランでお待ちです、私はぼんをお迎えに来ました」

達彦もソファーから立ち上がり、伊吹に会釈した

「藤島さん、その節はご迷惑をおかけしまして・・・」

すでに刑事の顔になっている

「ええんですよ、今はプライベートでここにいはるみたいやから。堅苦しい事は抜きで」

藤島印の鉄のポーカーフェィスは健在だった

とりあえず、龍之介に見つからなかっただけでもよしとしよう。

パニック中の頭の中で、優希はそう考える。

いくらドアに鍵をかけても、父龍之介は合鍵を持っている。うかつだった・・・・

現場に踏み込まれるのは、親子そろっての宿命か・・・・

気まずい空気が流れる。

 

「あの・・・組長には、ぼんは留守やったという事にしときますさかい・・・」

伊吹はきびすを返してノブに手をかける

「伊吹・・・あの・・・」

「改めてお話聞かせていただきます。組長には内緒ですよ。」

動揺を抑えているせいで、伊吹の声は事務的で冷たい。

優希は突き放された気になって、伊吹にすがる

「伊吹・・・」

「ぼん、立派な態度でした。さすが組長の血ぃひいてはりますね」

そして伊吹は振り返る

「すみません、いくら年とってても濡れ場に踏み込むと、私も動揺しますから。心配せんでええです。私はぼんの味方ですから」

いつもの優しい微笑が見れて、優希はほっとする。

「お前に軽蔑されたかと思うた・・・」

「いいえ、堂々としてはって、惚れ直しました。さすが鬼頭の後継者ですね」

そう言って出て行く伊吹を見つめつつ、優希は深呼吸をする

「いきなりバレたな・・・」

龍之介が居合わせたら、どうなっていただろうか・・・

しかし、龍之介も過去に、似たような修羅場をくぐってきたのだ。

「八神さん・・・・」

そして、達彦を案じて振り返る

「大丈夫ですよ。私は。鬼頭君を愛した事を恥じることも、隠す事もしません。」

穏やかに微笑む達彦に救われる。

このたおやかな美人は芯が強いのだ。

「ただ・・・人に見せるようなものでないものを、見せてしまった事は・・かなりまずかったですが」

苦笑する達彦に優希は歩み寄り、抱きしめる

「何があっても八神さんを守ります。そやから・・・」

こんな試練は序の口だ。

かえって、伊吹にばれたのは好都合かも知れない。

 

しかし・・・・・・

やはり、冷や汗が後から後から出てきた・・・

 

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