動き出す運命 6

 

かなり、久しぶりに達彦と会う事になった優希は、自分のマンションに彼を招待した。

「今まで忙しくて・・・すみません。音信不通にして・・・」

やっと担当していた事件が解決したようだ。かなり疲れているのに無理して来ているのがわかる。

「でも、鬼頭君のメールは、こっそり合間を見て確認していましたよ。」

「すみません。ご迷惑でしたか」

コーヒーを差し出しつつ、優希はダイニングの向かいの席に座る。

「いいえ、元気の元でしたよ」

時々音信不通になり、長い間会えなくなり、怪我していないか心配になり・・・

そんな寿命の縮まる恋人・・・

刑事って、結婚相手には難しいのではないかと思ったりする。

事件解決の打ち上げ宴会の最中を、いつものように抜け出してきたらしい。

「遅くにすみません・・・」

夜の11時前だったりしたが、優希にはそんな事は関係ない。

「ここに泊まっていかはってもええですよ」

開き部屋はある、同居人はもういない・・・

「鬼頭君、明日仕事は?」

「ウチは土曜隔週で、明日は休みです」

ああ・・・明日は土曜か・・・達彦は曜日の間隔さえ麻痺している事に気づく。

「よかった、私も非番なんで・・・」

「泊まりますか?」

「いいですか?」

「ただし、俺のベッドで一緒ですよ〜」

「え?!」

言葉に詰まった達彦の表情が可愛くて、優希は大笑いする。

「てんごですよ。疲れてはるみたいやから、別室でゆっくり休んでください。」

「かえって迷惑かけたかな・・・」

「いいえ、無理して来てくれたのが、めちゃめちゃ嬉しいんです。」

つきあい始めの中学生のような、新鮮な気持ちになる

「ゆっくり風呂に浸かってください。沸いてますから」

と自分のパジャマを渡す

「はい、着替え」

 

 

湯上りの達彦の髪をドライヤーで乾かしてやりながら、優希は笑いをこらえる

「?」

「いえ・・パジャマが・・・」

「ぶかぶかですね」

そう言いつつ、優希に包まれている錯覚に達彦は照れる

「カレシのパジャマ借りて着てる女の子みたいで、ドキドキしますよ」

はははは・・・・

肩を震わせて笑う達彦・・・・

 「さてと、そっちの部屋、布団敷いてきますね」

ドアイヤーをしまって優希は立ち上がる

「あ、鬼頭君・・・」

達彦に腕をつかまれ立ち止まる。

「同じ部屋で休んでいいですか?眠るまで、鬼頭君の顔、見ていたいんです」

そんな可愛い事を言われてしまい優希は軟化する

「じゃあ、腕枕してあげますよ」

「鬼頭君・・・またそんな事〜」

「いえマジで」

ひょいと達彦を抱えて寝室に向かう

ベッドにおろされた達彦は、他人の寝室に入り込んだ不思議な気持ちと、さっきの優希の腕枕の話を思い出して、いたたまれない。

部屋の明かりを消してルームライトを点ける

「あ、襲いませんから・・安心してください。」

そういって達彦の隣に横たわる

笑いつつ、達彦は優希の腕に頭をのせる

「じゃ、安心して休みます」

 「安心して休めるんですか?俺は緊張してますけど・・・・」

薄闇に沈黙が流れる。

「そんな事、言ったら私まで・・・」

達彦の柔らかな髪が腕に心地よい

「眼鏡、とらはったら?」

と優希は達彦から眼鏡を奪う

「え・・でも、見えないし・・・」

「もう、寝るんでしょ?」

とテーブルに置いて、元の体制に戻る

眼鏡を外すと達彦はとたんに幼くなる。本当に年上なのか疑いたくなる。

「なんか、可愛いですね」

「もう・・・」

照れて顔を背けるしぐさも可愛い

「いいんですか?鬼頭君は。私と・・・後悔しませんか?」

「八神さんこそ・・・」

再び沈黙が訪れる。

「あの、俺ら、相思相愛と思てええんですよね?」

「ええ、たぶん」

「恋人扱いしますよ?」

そういった後、優希は慌てて付け足す

「意識のことですよ・・・」

それが初々しくて達彦は笑う。

「じゃ、お互い浮気はしないと誓いましょう」

と差し出された達彦の小指に、優希は苦笑する

「指きりですか・・・・」

いい大人が・・・そう思いつつも、やはり愛しい

(この鬼頭組の後継者が指きりとは・・・・)

絡めた小指が、照れくさかったりする。

「浮気なんか、あるわけ無いでしょ?八神さん以上の美人おらへんし」

本当に、もうどうしょうもなくメロメロだった。

龍之介を想う伊吹の気持ちも、こんな感じなのかなと、ふと思う。

「でも、男だし。鬼頭君、女の子のほうがよくないですか?」

「俺は八神さんがええんです」

もう迷いは捨てよう・・そう思いつつ、達彦は瞳を閉じる。

優希を信じたい。疑いたくない。今を大事にしたい。

会いたい気持ち、大切にしたい気持ち、愛しい気持、総て本物と信じたい。

すやすやと眠りにつく達彦の顔を見つめつつ、優希は微笑む。

欲しいものを手に入れた安心感、充実感に満たされる。

腕枕だけでも幸せ、こんな中学生のような恋愛を自分がしているとは・・・・

 

達彦の額にかかった髪をかきあげて、優希は心の置き場を見つけられた幸福感に浸る。

 

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