動き出す運命 5

 

 

 優希の下の階に克海が引っ越して来、郁海は優希の部屋から克海の部屋に荷物を運んだ。

ちょうどこちらに用があり、上京した拓海と紀子も手伝い、引越しは意外と早くすんだ。

「馬鹿力の父さんがいてくれたおかげで 助かった〜」

見かけによらず、拓海は馬鹿力だった事に優希は驚いた。

「拓海先生て、力強いんですね・・・」

「優ちゃん 、拓海さんはねえ昔、襲撃されて気を失った、うちのお兄ちゃんを土手から担いで 

病院まで運んできた事があるのよ」

紀子の言葉に優希はうなづく。

例の淀川の内部闘争の時の話だ

「伊吹は、先生より背ぇ高いんとちゃいますか?」

明らかに身長差は大有りだった。

「でしょう? それを思いっきり担いで帰ってきたのよ〜」

父、龍之介も馬鹿力と名高いが、この外科医も半端ではないらしい。

しかも、拓海には龍之介の昔のへタレ時代の姿を髣髴させると、鬼頭の古株は口を揃えて言う。

今でも信じがたいが、 その時の記憶をなくした藤島伊吹は天然100%で、龍之介を翻弄していたらしい・・・

優希は伊吹の満面の笑顔など想像もできない。 それは龍之介も同じ事だが・・・

「とにかく、引越しは済んだから、夕飯食べに行こうか。優希君も。奢るから〜」

笑顔でそういう拓海。郁海と克海が愛想のいいのは父親譲りなのだ。

「じゃあ、ご馳走になります」

龍之介の古くからの友人で、伊吹の義理の弟で、伊吹の命の恩人・・・・(イコール龍之介の恩人でもある)

変なものばかり拾ってくると評判の、この外科医の人生最高の拾いものは、藤島伊吹だったらしい。

伊吹つながりで鬼頭に借しをつくり、ボロ病院を新築した。

その後も龍之介に気に入られて、金銭的援助を受けている。

それより何より、妻、紀子と生き別れの兄を再会させたという功績を持つ。

優希が見ても、拓海は人がよすぎて、鬼頭くらいの後ろ立てが無いと、世渡りが難しいような気がした。

金儲けそっちのけで人助けに走るような、浮世離れした医者だと龍之介はいつも言っていた。

そして、龍之介は、そんな拓海が気に入っているらしい。

 

 

レストランで夕食をとり、拓海は優希に誘われて、優希の部屋で飲むことになった。

「何か訊きたい事あるんでしょ?」

郁海、克海、紀子抜きで拓海を誘った意図に、なんとなく気づいている。

「親父と伊吹の事、知っている範囲で教えて欲しいんです」

「優希君にそんな事話したら、鬼頭さんに怒られちゃうよ」

「そこを何とか、話せる範囲で・・」

優希が、龍之介と伊吹が辿ったところと同じところで悩んでいる事が判る。

何とか力になってやりたいが・・・

「鬼頭さんより、お義兄さんのほうがより相手を愛していると僕は思う」

ダイニングで向かい合って優希は拓海を見つめる

「どういうことですか?」

「聞いたいろんなエピソードから察して、昔の鬼頭さんは突進型で、愛情ぶつけてくるタイプだったけど、

お義兄さんはそれを上手くコントロールしてこられたんですよ。恋の成就も簡単じゃなかったそうですよ・・・」

「コントロール・・・て親父を・・・ですか」

「それもそうだけど、自分のことも・・・」

と拓海はグラスをあおる

「先代が二人を認めるしかなかったのも、そういうところかもね」

いきなり哲三に踏み込まれて関係がばれたという話は、今は亡き島津から聞いたことがある。

ー逃げたり、言い訳したり、隠すくらいなら 初めからしません。覚悟の上でしたからー

後に伊吹は、優希にあの時の事をそう語った。

自分はそうなれるのか・・・

今はまだ、達彦の事を父に打ち明ける勇気もない。

「あの二人は、好きだからとくっついて、心変わりしたと別れるような軽い恋愛とは違う、

命がけの一生ものの仲なんだよ」

グラスで氷がカランと音をたてた。

「きっと鬼頭さんも、お義兄さんも、君がどんな形であれ、最愛を見つけたなら反対はしないと思う。

でも、いい加減な愛はNGだと思う」

本当にそうだろうか・・・

達彦との事が運命なら、許されるのだろうか・・

「かなり、苦しい設定の恋をしているようだね。」

説教くさくない、気さくな拓海が、優希は好きだった。

「でも、恋の相談は、僕はのれないよ。なんせ、奥さんにプロポーズする時もうだうだして

鬼頭さんに渇入れられた過去があるくらいだから」

それぞれのドラマがあり、人生がある。

(俺は・・・これからどうなるのかな・・・)

愛するものを守り抜く覚悟が無ければ、踏み込むべきではない。

「君は鬼頭龍之介の息子なんだから、乗り越えられるよね」

 いつも拓海の笑顔に癒されてきた。

否定せずになんでも受け止めてくれる。父や伊吹に話せない事は彼に打ち明けてきた・・・

本当に不思議な魅力を持った外科医だ。

「優希君は鬼頭さんに似ているよ。まっすぐで、ひたむきで・・・」

皆、優希の外見に騙されて似ていないと思うだけで、優希自身もへタレ時代の父に、自分は似ていると思う。

しかし素直にへタレられないのだ。

鬼頭の一人息子を意識して、肩肘張って無理してきた。それを開放してくれたのが八神達彦・・・・

「打ち明けるときが来たら素直に打ち明けたらいいよ。鬼頭さんか、お義兄さんかに。それまでは僕が話、聞いてあげるから」

「ありがとうございます。頼りにしています」

ははははは・・・・

拓海は大笑いする

「本当?奥さんにはいつも頼りないって言われてるよ〜」

しかし、伊吹でさえ時々、拓海に何かを打ち明けている事を、優希は知っている。

「元気ですか、親父とか・・・組の皆は・・」

「相変わらず、鬼頭はほのぼのしていていいねえ」

不意に鬼頭が懐かしくなる。

父がいて、伊吹がいて、母がいて、南原や、高坂や、岩崎や・・・皆がいて・・・

「ここにいる期間も、優希君が襲名するまでなんだから、大事に過ごすんだよ」

「はい」

 

無駄にはしたくない、達彦との日々を・・・・

この先の事はまだ判らないけれど

そう思った。

 

 TOP        NEXT 

 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system