動き出す運命 4

 

 

遠距離恋愛の可能性に、かなり萎えてしまった優希はため息をつく・・・

「鬼頭君・・・」

達彦は心配してベッドから見下ろす

「こんなに萌えるシチュエーションで、こんな萎える話が出てくるとは・・・・・」

「覚悟しておくのはいいことですよ。」

どうして、そんなににこやかなのか・・・・

「悲しゅうなってきました・・・」

「といわれても・・・私がやくざになるのは無理ですし」

「俺もいまさら警察官はちょっと・・・」

離れていても心はひとつ・・・といきたいところだが、辛いものは辛い。

乗り越えようという、先ほどの決意もふっとんだ・・・・

「運命なら、離れてもまた会えます。そう信じているから」

それが達彦の潔さなのだろう。

そして・・・そんな達彦が優希は好きでたまらない。

俺も・・・信じよう。そう思う。信じたいと思う。

そんな一途な恋ができるのなら・・・・

 

あれこれ考えながら優希はとうとう眠りについた・・・

達彦は願う。二人が外的条件で壊れる関係でないことを。初めて受け入れた最愛を逃すことの無いように・・・

月明かりは優希の寝顔を照らす。子供のように安らかな、幼い横顔。

愛することの喜びも悲しみも、試練もすべて受け入れなければ本物ではない。

大事なものを見つければ、守るために苦しむ。そんな予感はしていた。もう優希に会う前には戻れない。

4年間忘れようとして忘れられなくて、再会した。そして・・・今動き出す。

今、時を止めて優希を独占できたらどんなに良いか・・・

もう、二人だけでいい。永遠に夜が明けなければ良いのに。

そんな自己中心的な、感情的な想いをはじめて抱いた。

八神達彦は、何事にもこだわらない。理性的で客観的な人間だったはずなのに・・・

変わっていく自分・・・戸惑うけれど、嫌ではない。誰もが誰かを愛して、未知の自分に出会うのだから・・・

戻れないなら進むしかない。ただ・・・運命の渦中に優希を巻き込むことだけが気がかりだった。

それでも、突進してくる鬼頭優希を拒むことはできそうもない。

 ため息とともに達彦も目を閉じた・・・・・・

 

 

「お前どこから来たんだ?」

朝、駐車場で、真っ先に慎吾に見つかった。

優希を鬼頭商事まで送り、出勤した達彦を慎吾は鋭く指摘する。

「母の用事で、寄るところがあって・・」

慎吾は薄々勘づいている。達彦は微妙に変化しつつあることを・・・

「何かあったのか?」

慎吾の問い詰めに達彦は笑ってごまかす

「何もありません」

実際、何も無かった。

それでも、一夜を同じ空間で過ごした事に満足していた。

廊下を並んで歩きつつ、慎吾は思い出したように言う

「知ってたか?鬼頭優希な、東京にいるらしい」

そう言って、達彦の反応を見る慎吾。

「大阪じゃなくて?どうして東京に?」

ポーカーフェィスを崩さずに、達彦は微笑む。

「鬼頭商事の支店長してるらしい」

一々調べたのだろうか・・・慎吾は優希を意識しすぎる。

「お前、会うか?」

「ばったり会うことも、あるかも知れませんね・・・」

「例の俺の従兄弟が、お前のマンションの近くのカフェで鬼頭優希を見たらしい・・・」

え・・・

達彦は慎吾を見上げる。

「通りすがりだったから、見間違えたのかも知れないが。」

何が言いたい・・・・・表情を崩さず達彦は考える・・・・

探っているのか?

「お前の為だ。関わるな」

私の為?自分の為じゃなくて?

かなり不安に駆られている慎吾を見つめながら、昨夜の優希の言葉を思い出した・・・・

(慎吾君が・・・私の事を好きだって?)

「そんなに見つめるなよ」

照れて顔を背ける慎吾を見つめつつ、達彦も不安になる。

 

 

「優希さん!昨日外泊しましたね!」

仕事を終えてマンションに帰るなり、郁海が開口一番にそういった。

「すまん、成り行きで・・・」

「成り行きで・・・・?」

「変な想像するな!大学の先輩の部屋で飲んでた、らつい寝てしもうて」

ああ・・・郁海は納得する

 「心配しましたよ〜」

「今度からは連絡するから」

「いいですよ〜そろそろ僕も出て行きますから。といっても、下の階にですけど」

え・・・・

「克海がこっちの医大に通う事になって」

ああ・・・郁海の弟も同じ医大に合格したのだ・・・

「克海と、優希さんの下の階に住む事にしました。ちょうど空いたんですよ、部屋が。」

そうか・・・なんだか少し寂しかったりする。

「寂しいですか?」

郁海は何気に鋭い。

「いやあ・・・」

「近くにいるんで、これからもよろしくお願いしますね。」

そう、同じマンションなのだから、いつでも顔は見れる。

「だから、安心して彼女連れ込んでいいですよ」

(え!?連れ込む・・・)

固まっている優希を見て笑いながら、郁海は食事をテーブルに並べる。

優希と一緒にいて自炊も、ある程度できるようになり、一人立ちの自信も付いたところに弟の上京。

紀子が、マンションの管理人に、部屋の空きが出たら知らせて欲しいといっていたところに、都合よく優希の部屋の下の階が空いた。

「母も、いつまでも優希さんのお世話になっていてはいけないと、言っていましたし。いい機会ですよね」

「俺はかまへんけど・・・ここで克海も一緒に住んでも・・・」

優希は昔から克海の事を可愛いがっていたし、克海も優希に懐いていた。

「部屋が3つあるといっても、ここで3人暮らしは、ずうずうしいですよ」

そうか・・・・

シチューやサラダが並べられたテーブルに優希はつく。

「炊事、洗濯、掃除・・・優希さんに訓練してもらったから、不安もないし。」

郁海も食卓についた。

「ああ、お前のおかげで助かったわ。ありがとう」

 「また、ちょくちょく一緒に3人で食事しましょうね。週末とか」

ああ・・・・

さっき、連れ込むと聞いて、達彦の事を思い浮かべてしまった事を、ヤバイと感じる。

中学生レベルの付き合いではあるが、優希は確実に達彦に引きずられている。

昨夜は、達彦の部屋に上がりこむところまでは優希の計画だったが、まさか泊まる事になろうとは・・・

片思いだと思っていた頃と違い、ある意味、暴走してしまいそうなところが怖い。

さらに、この部屋は今後、優希の一人暮らし・・・

先が思いやられたりする・・・・

 

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