動き出す運命 3

 

ついつい長居をしてしまい、優希は時計を見上げる。

「送りましょうか?」

そんな優希を見て、達彦は微笑んで言う。

「それとも、泊まっていきますか?」

ギクッ。

車も、運転手も無しで来たのは、そんな下心がなかったわけではない。

が、達彦があまりにもあっさり言うので言葉をなくす。

「ここはワンルームですから、一人はソファー、一人は床になりますけど」

(本気か?)

具体的な話に優希はひいてしまう。

「そんな事・・・」

「後輩を自分の部屋に泊めても、法には引っかかりませんから」

(そりゃ、そうやろうけど・・・)

法の問題ではないだろう・・・

「でも、襲ったら暴行になりますよ」

笑い事じゃない事を、笑って言う達彦が恐ろしい。

「合意の上なら?」

しかし一応、優希は挑んでみる。

「それ、立証が難しいんですよね・・・」

はははは・・・・引きつった笑いを交わす二人・・・半泣きな優希。

「先輩〜後輩をいじめんといてくださいよ」

こんなお茶目も久しぶりだ。優希は肩の力が抜けるのを感じる。

もう、ここから立ち去りたくなくなる。

 「なんか、八神さんといると安らぐんですよ」

「私もですよ」

なんとなく、成り行きでお泊りしてしまう事になってしまった・・・・

 

 

「鬼頭君・・・いいんですか?」

ソファーとその隣の床に布団を敷いた後、シャワーを済ませて浴室から帰ってきた達彦は、床の布団に入って座っている優希を見つけた。

「俺、寝相悪いから落ちるとあかんし・・・下で寝ます」

優希が使って置いてあるドライヤーをとり、達彦は髪を乾かす。

「鬼頭君は普段ベッドでお休みですか?」

「一人で、ダブルベッドです。親父も学生時代そうやったらしいですけど」

「狭いと、落ちちゃいますよねえ・・・」

「八神さんも?」

はははは・・・・

「私は落ちません。寝相いいんで。」

優希は少しがっかりする。

「落ちてきてもええですよ。受け止めてあげますから」

こんな、中学生の修学旅行のような雰囲気が楽しい。

「子供のころは、慎吾君とひとつのベッドで寝た事もありましたよ。」

それはかなり羨ましかったりした・・・・

「三浦先輩て、八神さんの事、好きなんと違いますか?」

「まさか・・・」

かなりの自信を持って達彦は否定する。

慎吾は女性にモテる。特定の恋人はまだいないが、何が悲しくて男など好きになろうか・・・

「干渉が半端やないですよ?」

それは気づいていた。しかし、それは慎吾に兄弟がいないから、達彦を弟のように思っているのだろうと思っていた。

「慎吾君はオカンなところがあるから・・・」

いや・・・優希は否定する。オカンというより、独占しようとしているように見える・・・

「でもそういえば、慎吾君、鬼頭君のこと気にしていましたよ?私より鬼頭君の事、好きなんじゃないですか?」

 笑いつつドライヤーをしまう達彦を、心配げに優希は見つめる・・・・

 この天然なモナリザの君は、恋という感情に疎いようだ。

明かりを消し、達彦もベッド化したソファーに横たわる。

「先輩、暴露大会しませんか?」

横たわり、天井を見つめつつ、優希は冗談半分に提案する。

「何の暴露ですか?」

「恋愛の」

「ないですよ。暴露する内容、何もありませんから・・・」

「本当ですか?初恋も?」

「アニメとかに出てくる、白馬の王子様とかに憧れていましたねえ・・・」

「ああ、王子様になりたかったんですね」

「いいえ、お姫様になりたかったんです」

やはり、母に女装させられていたのがいけなかったのか・・・達彦はどうしても守られたい願望が抜けない。

その思いとは裏腹に、可愛いといって、いろんな男から狙われた・・・

「八神さん、美人ですから、お姫様も似合ってますよ」

優希の中では、達彦はすでにお姫様なのだ。

「母が、女の子が欲しかったのに息子二人なのを嘆いて、私に女装させていたんです。小さいときに。」

「そやから・・・今も髪伸ばしてはるんですか?」

「これは、囮捜査のためです。この前なんか、援助交際の女子高生に化けたんですよ・・・」

え・・・・

優希は少し不安になる。そんな危険なことをしているなんて・・・・

「あ、ひきました?」

「いいえ、あの・・・そんな危ないこと、やめてください」

「大丈夫ですよ。私は強いから」

無理しているようにしか見えない。優希はそう感じる。

「警察学校時代は、丸刈りでしたよ〜」

ネタのように笑って言う達彦、優希は長髪でない達彦を思い浮かべる。

「丸刈りの八神さんも美人やないですか?」

達彦は意外だった。女のような外見の自分を、優希は好いているとばかり思っていたから・・・

「髪、短くてもOKなんですか?」

「髪が長くても、短くても、八神さんに変わりはありませんから」

最初は女と間違えて好きになりはしたが・・・

「外見だけで惚れたんとちがいますよ」

ふっ・・・・

達彦は笑いを漏らす・・・・そして、安堵する。

「でも、男でもOKやなんて、自分でも驚きですけど」

実際そうなのだからしたない。

「親父の血なんですかねえ・・・でも、親父も、伊吹も同性愛者とか、そんなんやないんですよ。

ただ、好きになった人が男やっただけなんです」

達彦はうなづく

そんな感じだった。あの二人はお互いしか見ていない。すべてが運命だったように寄り添っていた。

「私は、自分が誰かを好きになること自体が驚きでした。誰とも距離を置いていたし・・・」

「俺が、八神さんの一番近くにおるんですね?」

それがとても嬉しい

「鬼頭君は、私の王子様ですから」

えへへへ・・・・

照れて笑う優希。

「王子様なんてガラとちゃいますけど・・・」

「鬼頭君は・・・どうでした?初恋」

優希は考える・・・・

確かに優希は学生時代モテた。申し込まれて交際した女学生は両手の数ほどいる。

が・・・・

今思えば、彼女らを好きというわけでもなかった。

皆なんとなく、感じがよくて可愛い子達だったけど、なんとなく自然消滅した。

それでも、なんとも思わなかった。失いたくないとか、大事だとか、命がけなどという思いはなかった。

「つきおうた女の子は多いんですけど、なんか・・・本気やなかったって、今になって思うんです」

そういうこともあるのか・・・・達彦はうなづく。

「信じますか?八神さんがファーストキスの相手やったって・・・」

え・・・・

「今思うと、本気やない相手とは、できんかったんやなあ・・・って。でも、そういうスキンシップ無いから、

女の子達にふられたんかもしれませんがね・・・」

「意外ですね」

「遊び人とか思てました?」

あまりにも自然な動きだったから、てっきり慣れていると思っていたのだ。

「だって、鬼頭君がモテるのは本当の事だし・・・」

達彦に暴露させるつもりが、いつの間にか優希のほうが暴露させられていた。

「正直、慎吾君抜きで誰かと会うとか、誰かを部屋に泊めるなんて、初めてなんです」

いつも友達の間に割り込んできた慎吾、どこか監視しているようだった。

「そしたら・・・これは秘密にせなあかんのですか?」

なんとなく、バレたら慎吾が怒り狂う気がした。

ベタベタはしないが、慎吾は達彦に執着している。そして、それを悟られまいと無関心を装っている

恐らく、達彦に嫌われないように・・

達彦がいろんな男に言い寄られてうんざりしているのが判るから、親友の位置を保ち、いざという時を狙っているのだ。

それを、突然現れた優希に奪われたとなると黙ってはいまい。

「無意識に隠しちゃうんですが・・・後ろめたいからかなあ・・」

「三浦先輩は八神さんを独占したいんですよ。そういうものに圧迫を感じて、避けようとするのは当然でしょう?」

「この腐れ縁も、どっちかが昇進したら、離れ離れですねえ」

「配置換えですか?」

もしかしたら、達彦が遠くに行ってしまうのでは・・・そんな不安が頭をよぎる。

「どうせ東京のどこかでしょうから・・・」

会えないことは無いが、慎吾の監視は行き届かなくなる。

「鬼頭君も、9代目襲名したら大阪に行くんですよねえ」

そうだ・・自分は大阪に行く身なのだ。

「遠距離恋愛ですか・・・」

先のことを心配していても仕方ないが、かなり前途多難である。

あまりの試練の多さに沈黙する優希を、達彦は振り返る

「鬼頭君・・・・大丈夫ですか?」

「はい・・・・」

言葉とは裏腹に大丈夫でない優希。

大阪で再会したのも奇跡なら、ここでこうして会っているのも奇跡である。

つくづく、傍にいて当然の伊吹と父、龍之介がうらやましい・・・・

龍之介が鬼頭の組長である限り、伊吹は側近としてどこでも付いてくる・・・・

東京に行った龍之介のところに、組をほったらかして行ってしまった伊吹の伝説は、

優希に、なせばなると、諦めるなと教えている。

といっても・・・

「鬼頭君、距離に負けるぐらいなら、もうアウトですよ」

どうしてそんなに冷静なのか、達彦がもどかしい優希だった。

言っていることは判るのだけど・・・・

 

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