運命の始まり 6

 

 

鬼頭商事に挨拶に行った帰り、優希は龍之介と伊吹の3人で夕食をとるため、レストランに入る。

「そうしてると、なかなか立派やなあ・・」

優希のスーツ姿に龍之介は目を細める。

「そうか?七五三見たいとちゃうか?」

親子で同じ事を言うので、伊吹は呆れかえる・・・

「そんなコワモテの七五三ないわ」

煙草をふかしつつ、高校を卒業して鬼頭に所属したばかりの伊吹の面影を優希に重ねる。

伊吹も、優希も、最初から変にスーツがしっくりとハマっていた。

「親父?何を甘ったるい目で息子見つめてるんや・・・気持ち悪いで・・・」

優希の言葉に、龍之介はフリーズする。

「見つめる相手間違えてるぞ・・」

と伊吹を指す優希を、伊吹は制する。

「ぼん、組長に対してそういう言い方は失礼に当たります。この方はぼんには上司に当たる方ですから。

この世界、上下関係厳しいですよ」

さすが世話役・・・と龍之介は思う。ポーカーフェイスは健在である。

「組長、失礼致しました、以後気をつけます」

優希の、頭を下げるその大げさな仕草が笑いを誘う・・・

「ぼんは鬼頭の後継者ですから、鬼頭商事では位置的にトップですが、新入りなのは事実です。

昔からおる、井上と金居女史から仕事を謙虚に学ばれる事をお勧めいたします」

「そういえば、井上も長いな」

もう井上も専務扱いになっていた。

「優希、支店長いうても、見習いやから偉そうにせんと組長の修行やと思て頑張れ。」

龍之介が煙草の火を消すと、そこに料理が運ばれてきた。

「明日、帰るんか?」

ナイフとフォークをとりつつ優希は訊く

「ああ。」

「俺んとこに泊まったらええのに・・・郁海も会いたがってたし・・・」

都内のホテルに、龍之介は一泊する事になっていた。

「組長、そうされたら?親子水入らずで。私だけホテルに泊まりますよ」

ステーキをに切りながら淡々と言う伊吹を龍之介は睨みつける・・・

「お前・・・・」

あ〜あ〜

優希は2人にあてられてため息をつく

「判った判った。組長は、ホテルで側近とまったりしてください。」

確かに所々、龍之介の子供っぽさは目に付く。それが魅力と言えば魅力ではあるが・・・・

可愛い親父・・・鬼頭の組長で、氷の刃で、そんなイメージの欠片も無い等身大の父親

伊吹の気持ちも判らなくは無い。優希の目からも龍之介は魅力的に見える。

「そうや・・・ここに郁海も呼べ」

「あいつ、今日は教授の手伝いで遅れるそうや・・きっとまだ大学やで」

息子の顔見るのも大変だ・・・とこぼしていた花園拓海の気持ちがわかる。

「卒業したら、大阪来るんでしょ?」

伊吹は苦笑する

「ああ、花園医院を手伝うらしい」

今は大きくなった花園医院・・・昔の”ボロ病院”の面影は無い。

しかし、相変わらず拓海は、いらないものを拾ってくる。時々薬草をつみに川原にも行くらしい。

そして、もうこれ以上、病院を大きくしないよう努力しているらしい・・・

「優希、側近つけようか?」

いくらしっかりしていると言っても、世話役の伊吹を取り上げてしまって、少し悪い気がしていた龍之介だった。

「いや、今くらい気楽に暮らしときたいし・・・」

「そしたら、運転手だけ付けとくわ。なんかあったら言うてこいよ」

一応心配している父親、龍之介。

「仕事関係は井上がおるから心配ありませんし、ただ、襲撃されへんよう気ぃつけて・・・」

射撃の教育も一通り受けた、万が一の時の為に拳銃も携帯している。

「堅気には迷惑かけるなよ」

そう、自分は堅気ではない、それをついつい忘れてしまう。世間一般の人と変わらなく生きているのだ。

出入りも無ければ、やくざだという事さえ忘れる。

しかし、やくざだ。

大学生時代、交際中に、彼女側の親から反対されて、別れさせられたことは何度もある。

いくら正しくても、自分はやくざなのだ。堅気ではない。

 

八神達彦は警察官だ。やくざと接触する事は出来ない。もう一度、ばったり会ったところで、何も起こらない。

叶わない想いなのだ・・・・

 

「優希?」

龍之介の声で我に帰る

「どないした?」

「いや」

伊吹はふと嫌な予感がした

「ぼん、あの警部、東京におるんでしょ?」

どきっ・・・伊吹は昔から鋭かった。

「誰?」

「ほら、ウチに詫びいれに来た。ぼんの大学の先輩で・・・東京に帰るってあの時・・」

ははははは・・・龍之介は笑う

「ああ〜おもろいサツやったな。サツやなかったら鬼頭にスカウトするところやったのに、惜しいなぁ」

(親父、笑い事と違う・・・)

優希は半泣き状態だった。

「会わはるんですか?」

伊吹は何かを感じている・・・優希はそう思った。

「それほど親しい先輩って訳やないから、青木の従兄弟の幼馴染ていうだけで・・・」

「それ・・・ほとんど他人やろ?」

龍之介の突込みは相変わらずだ。

「そうやなあ・・・」

苦笑いする優希を伊吹は見つめる。そのほとんど他人に、あの時向けられた瞳は尋常ではなかった。

そして相手も、ほとんど他人であるはずの優希の顔と名前を覚えていた。

伊吹は沸きあがる不安を隠せない。

まっすぐで一途な、内に情熱を秘めた警部・・・八神達彦。もし彼が優希を愛していたら・・・

そして優希が彼を愛していたら・・・・

いい加減ではすまない。火遊びではすまない。命がけの恋になる。

禁じられれば禁じられるほど、思いは募り、ある一点で燃え上がる。

(まさか・・・そんな事・・・)

あるはずが無い。考えすぎだ。優希は大学時代、女学生と付き合いがあった。男と恋愛などしない。

打ち消す思いと、湧き上がる不安・・・伊吹は心の奥で戦っていた。

そして・・・何処かで感じていた。八神達彦が優希の最愛であることを。

会うなと言っても、いつかまた2人は出会う。運命ならば出会う。そのときは・・・・見守るしかない。

どうか、それが杞憂であることを祈った。

「会いとうても無理とちゃうか?」

優希は諦めがちにそういった。

八神に名刺は渡してあるので、八神から連絡があれば会えるが、優希からは八神に連絡はつけられない。

八神から連絡が無い限り会う事は不可能だろう。

(だから・・・忘れよう。)

優希はそっと俯く。

 

 TOP       NEXT

 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system