運命の始まり 5

 

 

八神達彦はその日、ポニーテールの女子高生になっていた・・・

慣れないコンタクトレンズはゴロゴロして違和感大有りだが、それ以上に泣きたくなるのはセーラー服だ。

ルーズソックスの生足も情けなかったりするが、援助交際の女子高生が相次いで殺害されていて、

これ以上被害を出すわけには,いかなかった。

規則や規律に煩い達彦も、囮捜査には協力している。ただし、他の者を使わず、自分限定で・・・

 

待ち合わせの駅前の広場は、学生でにぎわっていた。

そこで携帯を手に待っている達彦・・・

営業のサラリーマンを装って、慎吾はそれを監視している。

「お待たせしました・・・」

仕事仲間を装い、同僚の中田が慎吾に駆けよる。

「まだ来ないようですね」

中田が小声でささやく

「ああ、でも大丈夫か?女子高生は無理があるんじゃないか・・・」

心配しつつも、内心、セーラー服の達彦に釘付けになっている慎吾・・・

「可愛いですけどね。」

そういわれると更に心配になる・・・・

 

ラブホテルに連れ込まれ、男とバレてしまった達彦・・・・・

ー君、男なのか!?でもいいよ〜おじさんは男の子もOKだよ〜−

 

なんていうことになったらどうしょう・・・と静かに悩む慎吾を、覗き込む中田。

「警部・・・何を考え込んでるんですか?」

「い、いや・・・」

(俺も頭の中がオヤジだなあ・・・)

反省してみる。

「八神警部て美人ですよねえ・・・男にしとくのはもったいないですよ〜」

いつも言われている事だった。

F大法学部の、モナリザの君と噂された達彦である。

慎吾は、寄ってくる男も女も蹴散らかして達彦を守ってきた。

誰にも渡さない、5歳の時からそう決めていた。達彦が親しくなった友人には、自ら近づいて親しくなり、

常に供に行動していた。

達彦は皆に平等に接していた、特別な人はいなかった。一番近いのは自分だという自信はある。

いつかは達彦の特別になる自信もある。ただ、鬼頭優希・・・彼だけが気がかりだった・・

 

「あ、ホシが来た」

中田の言葉に我に返り、慎吾は達彦を見る。

確かにマークしている人物が、達彦に話しかけている・・・

そして二人は歩き出した・・・

(達彦・・・)

心配で堪らなくなって慎吾は尾行を始める

(あいつ・・・達彦に何かしてみろ、ただじゃおかんぞ・・・・)

慎吾の殺気を感じて中田は怯える。

「三浦警部・・・・」

「達彦に怪我でもさせてみろ・・・殺す・・・」

え・・・・

滅多に感情的になる事の無い慎吾の、過激な台詞に中田は怯える。

いつも余裕たっぷりで、自信家の三浦慎吾の意外な一面だった。

 「幼馴染なんですよね・・・八神警部と三浦警部って・・・」

「ああ、腐れ縁でここまで来た」

本人は運命だと信じて疑わないが。

そんな話をしつつも、達彦と容疑者はホテル街へ向かっている事を確認・・・

「助っ人送ってください」

無線機で、近くに待機しているはずの私服の婦人警官の援護を頼む。

男同士で、しかも中田と、あんなところをうろつく気にはなれない。不自然でもあるし・・・

しばらくしてOL風につくった婦人警官が二人やってくる。

「いよいよ乗り込むんですね」

(腕のたつ者を希望したので、ルックスは望めないなあ・・・)

普段から、美人の達彦を見続けている慎吾は、ふと思う。

「中田、後から来い。見失うな」

一人の婦人警官と腕を組んで、慎吾は歩き出す。

「俺の事は山田課長と呼べ、君は・・・・山本くん」

間違っても警部とは呼ぶなよ・・・と思う慎吾。

「はい」

こういう捜査に慣れているのか、口数は少ない。

達彦達が入っていったホテルに慎吾も入り、キーを受け取ると、達彦の部屋を確認する

「盗聴器は達彦の鞄についているから、一旦近くに潜んで待機するか・・・」

携帯メールで、後から来る中田に達彦の部屋のナンバーを伝えて、その部屋のマスターキーをフロントで受け取るように

支持すると、慎吾は非常階段の踊り場に移動する。

 

ホテルの部屋。シャワー中の容疑者の所持品を達彦は探る。

(証拠なんか残してないよな・・・)

最初の被害者は、援助交際の事実を職場にバラすと脅して殺害された。

第二の被害者は、親友の仇を取るために犯人に接近して殺害された。

警察の見解はそうなっている・・・

(なら・・脅してみるか・・・)

捜査用に準備した携帯には、被害者二人の写真に、女子高生姿の達彦の写真を合成したものを画像保存してある。

「マリちゃん・・何?」

浴室から出てきた容疑者が、ベッドに腰掛けた達彦の手元を覗き込んで、顔面蒼白になる。

「友達なんです。殺されちゃったんだけど・・・」

「お前・・・何者だ?!」

 引っ掛かった・・・と内心引くほくそえむ達彦。

「二人が最後に会っていたのは・・・・」

がっー

容疑者に首を押さえられて押し倒された。

「脅迫する気か?お前まで・・・・」

強い力で首を締め付けてくる。

「そうやって・・・二人殺したんですか・・・」

達彦の静かな、悲しい声に、首もとの手が一瞬ゆるむ。

「もう、こんな事、終わりにしましょうよ・・・」

言い終わるか終わらないか、容疑者は達彦に蹴りあげられてベッドの下に倒れる。

ガチャッ

手錠のかかる音がして、気付いた時には、彼は目の前の女子高生に手錠をかけられていた。

「何者だ・・・お前」

「すみません、非合法かもしれませんが、これ以上被害者出したくなかったんで・・・脅す方も悪いですが、

相手は未成年ですから、援助交際はやめましょうよ」

スカートのポケットから警察手帳を出して、見せる達彦・・・

(警察・・・しかも男だって?)

確かに女とは思えない力で蹴リ上げられた・・・・

 「達彦!大丈夫か?」

慎吾と中田がマスターキーで部屋に入ってきた。

「連行してください」

達彦は容疑者を引き渡して、部屋を出る。ホテルの前に達彦を回収するために止められた車が止まっている。

「お疲れ様です。ご無事で何よりでしたね」

運転席の後輩刑事が会釈をする

「顔知られると、囮できなくなるから、早く出してください」

疲れる・・・

犯人を追い、捕まえ、事情徴収・・・・それが日常。

性格的に、向いていないのではないかと思うときがある。

ぐったりとしてシートに身を預けると、達彦は鬼頭優希の笑顔が恋しくなる・・・・

(こんな事じゃ思いやられる・・・もっと強くならないと・・・)

 優希は鬼頭商事の支店長・・・東京の何処かにいるはずだ。

電話番号はある、職場の住所もわかる・・・なのに・・・

会うのが怖い。

優希の顔を見ると、緊張が崩れる。頼ってしまいそうになる。後ろめたい感情・・・引き返せなくなる不安感・・・

左手を目の前に翳す。優希が治療してくれたのは人差し指。傷痕など残ってはいない。

浅い傷、一瞬の出来事、総ては遠い過去の事・・・

(なのに、忘れられない)

鬼頭優希・・・彼も忘れてはいなかった。

叶わない想いだと知っているから、なおさら忘れられない・・・

 

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