運命の始まり 3
その日の夜、東京から来た助っ人の刑事達の送別会があった。
「正義の警部殿は何処行った〜!!!」
とある料亭で、課長の山本はすでに酔っ払っていた。
「すみません、3年ぶりに偶然会った後輩と会うからと・・・早々に引き上げました」
金多はそういって酒を注ぐ
「おもろないやっちゃな〜優等生ぶりやがって・・・」
「でも、バックもさることながら、あいつ強いから何も言えませんよ、射撃もオリンピック出場を勧められているし・・・
合気道も学生時代、全国大会で一位とってますし、なよっちい振りしてコワモテですよ。なめてかかると怪我しますから」
ますますおもろない・・・山本は酒をあおる。
「それはそうと・・・お前、鬼頭の謝罪に同行したって?」
中野が聞いてくる
「ああ・・・もう〜辞めてくれって。ホント!土下座してんだぜ!見てられないよ」
あああ〜ため息の一同。キャリアのする事は理解不可能だ・・・
「で・・・あちらはどうなんだ?」
「どうもこうも・・・鬼頭に気に入られて・・・」
マジ?中野はあきれる。
「ああいう上司は辞めてもらいたいよな・・・」
「いいんですか?送別会やったんでしょ?」
鬼頭組、御用達のバーのカウンターで優希は達彦を振り返る。
「抜ける口実ができて、かえってよかったですよ。どうせ皆、私の事よく思ってないんですから」
薄暗い店の中、隣にいるモナリザの君は、まるで儚い幻だった。
口実でも何でも、優希は達彦と再会して、こうしてひと時の逢瀬をもてた事が、夢のようであり、奇跡だった。
「でも、警部なんでしょ?」
「だからですよ、親の七光り、兄も入れたら八光り・・・若造の癖に出世バンバンして、生意気な口きいて・・・嫌われますよねえ・・・」
自嘲気味に笑う達彦に、優希は微笑む。
青木から聞いた事がある、達彦は警察官の血筋に生まれたサラブレットで、彼自身も警察官の将来を約束された逸材だと。
「エリートにはエリートの悩みがあるんですね・・・俺なんか、極道の王子様やけど、人から妬まれた事はないですけど」
ははははは・・・・
達彦の笑顔に優希はホッコリする。やはり、まだ好きなんだと確信してしまう。
「でもいいですねえ、憧れますよ、龍之介さんに」
「親父を教育したんは、側近の藤島伊吹や。俺は伊吹に憧れて、伊吹目指して頑張ってきた」
「藤島さん・・・父と同じくらいの年齢です。何処か、同じ匂いがします。」
ふうん・・・優希は達彦の父を想像してみる・・・・
「八神さんのお父さんも、かっこええ人なんですね」
穏やかな外側の内に修羅を隠している・・そんなところだろうか・・・
「鬼頭君は卒業したんですね」
「鬼頭商事の東京支店勤務になりました」
うん
名刺を見て知っていた。
「じゃ、東京でまた会えるかもしれませんね」
あ・・・優希は緊張する。また会える・・・
「会うてくれるんですか・・・」
え・・・達彦も緊張する。会うとは・・・
「道で、ばったりとか〜」
ごまかし笑いをしてフォローする達彦。そんな自分がやましく思える。
「ああ・・・」
優希もごまかし笑いをする
気まずい空気に優希は酒をあおる。何か、もっと言いたい言葉が、
言わなければならない言葉があるはずなのに出てこない。何も・・・
「俺、八神さんが男ってわかってても、一目ぼれしてたと思うんです」
よった勢いで告白している優希。
「まさか・・」
笑いながらも笑い事でない達彦。なぜなら、達彦自身、女と間違われているのを知りつつもそのままにしていたのだ。
告白されて、心が動いた。キスを許してしまった・・・
「信じられませんか・・・俺の事?」
酔っている・・・・
「出ましょうか?」
勘定を済ませると、達彦は優希を抱えて店を出る。
とりあえず近くのバス停のベンチに座らせて、酔いが冷めるのを待つ。
「八神さん・・・また会えてうれしかった・・・」
達彦の肩に頭をもたせかけて優希は呟く
「忘れられんかったから・・・アレから忘れようとして、女の子とも付き合ったりしたけど・・・
でも八神さんが一番好きやったから、八神さん以上に好きになれる人おらんかったから・・・」
酔っ払いの言う事と聞き流せないような告白をし続ける優希に、達彦は苦笑する。
「本気にするといけないから、鬼頭君そういうことは・・・」
「本気なんです・・・」
え・・・ヤバくないか・・・
まさかあんなところで再会するとは・・・ここで、二人きりで再び告白されるとは・・・
「八神さんは、嫌ですよね、俺なんかにキスされて・・」
(うっ・・・ここでそんな事言うとは・・・誰かに聞かれたらどうする。)
「可愛い女の子のほうがええでしょう・・・そやのに・・・」
何時からか、愚痴っぽくなっている優希に苦笑する。
「それでもね・・・俺、生まれて初めてちゅーした相手が、八神さんでよかったとか思てるんですよ。」
え・・・ここでそんな暴露大会しなくてもいいじゃないか!達彦は焦る。ここは天下の往来だ。
「やから・・・せめて、八神さんにとって、嫌な思い出になってなかったらええなあって・・・」
「嫌な思い出じゃないですよ・・・泣けるくらい心が痛くて、苦しいですけど。」
その後、長い沈黙が続いた、行き交う車のヘッドライトを見つめつつ、肩に乗った優希の頭の重さをしみじみと感じていた。
卒業式の日に封印した思いが湧き上がる。これは始まりなのか・・・達彦は迷う。
一目ぼれしたのは自分だった。優希は女と勘違いして・・・だけど、自分は・・・男に惚れたのだ。
それは事実。避けて通れない。
再会して、こうして二人だけで時間を過ごしている。
だからって、交際しようとか、恋人になろうとかそういう思いは無い。
ただ、傍にいると、嬉しくて、安心する。
(中学生の初恋じゃあるまいし・・・)
自分でもあきれる。警察学校に国家試験に、現場実習・・・忙しく過ごしてきた。
恋愛する暇も無かった、だから世間一般の男女交際の経験が無い。
(いや、そのうち好きな女性が現れるはずだ。)
かすかな希望を抱く。
そんな達彦の葛藤も知らずに、優希は酔いを醒ました・・・
「ああ・・・飲みすぎたなあ・・・すみません」
頭を起こし笑いかける。そんな少年のような初々しさが、なんともいえない。
「醒めるの早いですね。酔いが醒める前に凍えるかな・・・と思ってた」
はああ・・・苦笑する優希。2月といえども夜はまだ肌寒い。
「ホンマに・・・すいません。なんか・・・変なこと言いませんでした?」
言った・・・言った・・・思いっきり告白〜の暴露〜の・・・達彦は苦笑する
「いいや、言ってないですよ」
にっこり笑うキャリア、八神達彦。
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