初恋の思い出 3

 

 

「とまあ・・・卒業式 言うと、そんな思い出があるんや・・・」

卒業を間近に控えた優希が、一年生の学園祭から始まった、少しお笑いな悲恋の思い出を語り終える。

「優希さん、それは、なかなか出来ない経験でしたね〜」

父親譲りの明るい笑顔で、花園郁海は頷く。

東京の医大に通うため、優希と同居中の幼馴染。

くわしい間柄は・・・鬼頭組、組長である優希の父、龍之介の右腕、藤島伊吹の実妹の長男で、

父親は、花園医院という個人病院を経営している。さらに父、拓海は藤島伊吹の命の恩人とも言われている。

優希にとっても、藤島伊吹は親同然の存在で、組関係の教育は総て、彼から学んだ。

へタレな父、龍之介を教育し襲名させ、立派な鬼頭組の8代目に仕立て上げた功績を持っている。

実質上、自分には親が3人いるようなものだと、優希は思っていた。

父、母、伊吹・・・それぞれが、それぞれのパートをカバーしていた。

よって、郁海は2歳年下の従兄弟のようなものだった。

「でも、そんなに綺麗な男がいたんですか?」

夕食後のコーヒータイム・・・卒業が3日後と言う話から、初恋の暴露話に発展した。

「ああ、萌え系の眼鏡娘やった・・」

はああ・・・・・郁海は苦笑する。想像もつかない。

「優希さん、そっちですか?」

「まさか・・・」

苦しい笑いをする優希だった。

と言うのも藤島伊吹は父、龍之介の情夫(いろ)と言う事実を、誰から教わることなく理解している。

中学生の頃、母にも聞けず、若頭の南原に確かめてみた。

父と伊吹の関係、母と父の関係、母と伊吹の関係・・・総て聞かされて、やはり自分には3人の親があることを確信した。

つらい事もあっただろうに、父も母も伊吹も、お互いをいたわって暮らしてきた。

だから自分は、何も言う権利は無い。

伊吹が傍にいるお蔭で、父は強くなれたという事、人生の総てを父に捧げた伊吹の存在。

その二人を見守りたいと鬼頭に嫁いだ母・・・・

その3人に見守られて、ここまで来た自分が、どんなに幸せかを実感した。

しかし・・・

父は、最愛の人が男だったため、母と伊吹の間で罪悪感に苦しんできた。だから、父と同じ道を行く事は父に対して罪になる。

「俺、彼女おったぞ、別れたけど。」

な〜んだ  郁海は笑う

「よかった、同居してる僕としては、そこんとこ問題なんで〜」

「お前は無いぞ、2億円積まれても無い」

え・・・郁海は静かにショックを受ける。

「イケて無いですかねえ・・・僕?」

どっちやねん・・・ため息をつく優希

「いや、つーか、お前とはなんか、近親相姦な気がするやんか」

ああ・・・確かに、弟はいても、兄はいない郁海にとっては、優希は兄のような存在だった。

が、一人っ子の優希とは違い、郁海は 実の弟と優希とは、我知らず区別してしまう処があったのだ。

おそらく優希は、実の弟のように郁海の事を思っているのだろう。

「卒業したら大阪帰るんですか?」

「いや、鬼頭商事の東京支店任されてるし。」

伝説のスーパー会計士、安田女史の後を継ぐ、金居久美子女史が、大勢の事務員を引き連れて頑張っている鬼頭商事・・・

やはり、支店長不在なので、優希は一旦、そこに就くことになった。

「じゃあ、僕が卒業するまでは、ここで一緒ですね、と言うか・・・追い出さないでくださいね」

「ここにおれと言うても、お前がそのうち、女見つけて出ていくんとちゃうか?」

優希はあきれる、そもそも郁海と同居を申し出たのは優希だった。

3年の頃、郁海の母であり、伊吹の妹である花園紀子が、郁海の部屋探しに上京してきた。

それを案内したのは優希だった。

ーなるべく優ちゃんの近所で住めたら、安心なんだけど・・・−

そういう紀子の言葉に口をついたのは

ーじゃあ・・ウチで同居はどうですか?−

だった。

一人暮らしには部屋が多く、郁海なら気が知れていて、一緒でもストレスは無かった。

とりあえず東京に慣れるまで・・・と、すまなさそうに紀子は、その申し出を受けた。

優希君が一緒なら心強い・・・・そう言って・・・

 

昔、父、龍之介が大学生の頃、ここで一人暮らしをする事になった時、伊吹が心配して、

組の仕事を皆捨てて、龍之介の世話をする為同居した事は伝説になっている。

一方、優希は・・・100%安心されて送り出された。

ーぼんなら、心配ありませんー

伊吹は笑っていた。何でも、龍之介を世話していた時、あまりにも甘やかしてしまった事を後悔したので、

優希の時は一人で生活する能力を叩き込んだらしい。優希自信もそれに順応していた。

内心、龍之介の傍を離れるわけに行かないから、優希にはひとり立ちする力を身に付けさせたかったのだろう。

未だに龍之介は、何気に伊吹無しでは駄目駄目なところがある。

聞けば、昔、伊吹が親組の内部闘争に巻き込まれて襲撃され、行方不明になったことがあったらしい。

何ヶ月も、伊吹の生死もわからぬまま、龍之介は伊吹を探していたとか。

どうやって一人、伊吹無しで乗り越えられたのか、優希は不思議でならない。

しかし、その出来事は、鬼頭の黒歴史中の黒歴史で、誰も語ろうとはしない。

高坂がその時の事を ”あの時の組長は生きる屍やった” と一言こぼしただけだった。

それなので、優希も父親から伊吹を取り上げる訳にいかなかった。

 優希はしかし、伊吹を実は、父親以上に慕っている。

その伊吹が父、龍之介のものだったと知った時は、どれだけ嫉妬したかわからない。

幹部会議と称する、伊吹宅お泊まりツアーに、自分は参加出来ない事が納得いかずに母、聡子に談判した事もある。

ー組の重要会議なのよ、優希が行くと邪魔になるから、駄目なの・・・−

何故、会議は組長の書斎で出来ないのか?当時の優希は謎だった。

次の朝、出勤してくる父と伊吹の間には、自分は立ち入れない何か、壁の様な物があった。

ー伊吹は俺より、親父が大事なんやろう?−

そんな憎まれ口を叩いた事もある。

ー私が命掛けるのは、組長だけにですから・・・ー

あっさり、そう言われて玉砕した。

ーいつか見つかりますよ、ぼんにも。自分自身よりも大事な人が。自分自身よりも、ぼんを大事にしてくれる誰かがー

オンリーワン、伊吹には龍之介がそうなのだ。龍之介にとっても伊吹が・・・

 

 

「そうか・・・女連れ込めないんだ〜ここじゃ・・・」

郁海は冗談まじりにそう言う

「不純異性交遊は、早々に親に通報するぞ」

はははははは・・・・・

大笑いする郁海。本当に色気の欠片も無い。さすがに花園拓海の息子だと思った。

「でも、お前も見つけろよ、最愛の人を」

拓海が紀子と出会ったように・・・・

魂の帰る場所、安らぐ場所・・・それがあるから、父、龍之介は どんな事も乗り越えてきたのだ。

(俺は・・・見つけられるのかなあ・・・・)

未だに、運命の人に出会えない自分に焦りを感じる。

(親父は19歳で、すでに情夫(いろ)持ちやて・・・へタレの癖に、ポイントはちゃっかり掴んでるよな・・・)

あなどれない・・・と思う優希。

少し焦りも覚えていた・・・

 

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