第9話 地の脈

 

 

 

 

 

 

 

帝都の中心部に、政宗は屈み手を地面にかざす・・・・

「・・・どうですか?」

同じように屈み込み、葉羽瑠は覗き込む。

「地の脈が何処かで切られているようです。陰でコツコツと地の脈を切断して回っているようですよ・・・あいつら」

中心に集結すべき地の脈が、何本か切れている。最近良く起こっている地震と関連しているらしい。

 

「叔父上!政宗様!」

頭の上から声がした。

「人が見ていますよ」

偶然通りかかった夢幻斎は、道の真ん中でしゃがみこむおじさんたちを見つけて歩み寄る。

不思議そうに眺めて去ってゆく人の波に気付いた二人は、慌てて立ち上がる。

「!お前こそ、ここで何をしている?外に出るなといったろう!」

政宗は怒鳴る。

「すみません・・・人形(ひとがた)の材料の調達に・・・」

「弟子にさせろ弟子に!何かあったらどうするんだ!」

ははははは・・・・葉羽瑠は笑う。

「まるで、妊娠中の妻を気遣う夫ですねえ」

「叔父上!なんという喩えですか!」

「ちょうどいい・・・おまえんちに行こう。ここで話もなんだし」

政宗の提案で、三人は檜山家の車に乗り込み、月光館に向かった。

 

 

「まあ、お三方おそろいで・・・」

茜は慌てて、お茶の支度に走る。三人は客室のテーブルに着いた。

 

 

「最近、お二人で行動を共にされているのですか?」

夢幻斎は少し取り残され気分になる。

「ああ。だって、架怜と和磨も一緒にいるから、私達も一緒の方がいいでしょう?」

(叔父上・・・楽しそうじゃないですか?)

心で突っ込みを入れる夢幻斎・・・

「何?妬いてるの?可愛いねえ。でも夢幻斎は、お家にいなきゃね。さらわれちゃうから」

(叔父上〜!)

ポーカーフェイスの夢幻斎は、静かに葉羽瑠を威圧する。

 「そうそう・・・夢幻斎様がさらわれた日にゃあ、政宗様がキレてどうなるかわかんないですから〜」

紅茶と洋菓子を持って茜が現れた。

「あの時も大変でしたよ〜政宗様血相変えて・・・」

夢幻斎には思い出したくも無い出来事であり、政宗にとっても悪夢だった。

「ほんとに。もし戦闘開始になったら、何時何処で倒れちゃうか分からないから、結界張ってお籠りしないとだめですよ〜」

相変わらず緊張感の無い祭司、葉羽瑠。

「それはそうと、地の脈の件ですが・・・」

 政宗は本題に入る。

「切られていましたか?」

夢幻斎は察して訊く。

「ああ・・・和磨だろう。何かで封じているらしい。探し出さないと」

「叔父上、あれから架怜は?」

「来ないな。あいつ調子悪いかもなあ。ここんとこずっと雨降ってたし・・・」

「・・・叔父上、雨の日は今でもあの夢を?」

「ああ・・・多分、架怜もだろう・・・気持ちのいいモンじゃないぞ」

 いやに明るく言う葉羽瑠に、夢幻斎は苦笑する。

「何ですか?夢って?」

政宗はタルトを突付きつつ訊く。

「キリシタン弾圧されて、桐生一族が滅亡し、当主の桐生士朗が魔道に落ちた時の・・・・」

紅茶を飲みつつ、葉羽瑠は笑って言う。

「桐生士朗を助けに行ったが間に合わず、士朗も死んだと思い、後を追ったという来栖の祭司がいて、その祭司の夢を叔父上は 雨の降る夜ごと見られるのです」

「では・・・架怜は・・・」

「おそらく・・・桐生士朗の夢を見ているはず。二人は行き違った・・・・士朗は祭司を待ち続けて、裏切られたと思い続けているでしょう。」

政宗は息を静かに吐く。

あまりにもむごい夢だ・・・そんな悪夢に葉羽瑠が付きまとわれていようとは。

「架怜は桐生士朗の転生・・・おそらくこの世を恨み、祭司、来栖忠昭を恨んでいる」

政宗は葉羽瑠を見る。

「そして、葉羽瑠様は・・・・その祭司の転生だと?」

「あいつを救えるのは私だけなんです」

いつの間にか、葉羽瑠の中から笑みが消えていた・・・

「おそらく、士朗はまだ、忠昭を待っている。心の奥底で・・・・」

夢幻斎は瞳を伏せた。再会の約束を守り続けようとしている士朗。それに気付かない架怜・・・・・

それは、あまりにも辛い、長い戦いであった。

「士朗を解放してやらなければなりません」

政宗は、数日前に見た高彬の夢を思い出していた。

(同じだ・・・自分も、高彬公を解放しなければならない。怨念を・・・そして恨を・・・・)

夢に託された使命を、正確に受け止めたかどうかは分からない。が、進むしかない。

「とにかく、帝都を守り、更に我らの困ったちゃんを救う。それが今回の任務ですなあ」

いつの間にか明るい笑顔に戻った葉羽瑠。簡単に言うが、簡単な事ではない。

言うなれば・・・宿敵と和解するようなもの。しかも、恨みで固まった怨霊と。

 

長い間、もつれにもつれた糸を今解く時が来たのだ。

 

「早く・・・・決着をつけないと」

政宗はつぶやく・・・・・

 

 

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