第7話 哀切
暗闇の雨の中、来栖忠昭は山道を急ぐ。皆が止めるのも聞かず・・・・
懐に短筒を隠し、キリシタンの処刑場へと向かった。
(守ると誓ったのだ・・・何があっても)
預言者の一族、桐生が捕らえられたのだ。転ばなければ皆殺しとなる。
桐生は来栖とともに、宣教師について日本に渡って来た一族である。
日本人の血が混ざりつつ、土地に定着してきたが、キリシタン弾圧の憂き目に晒され 隠れ住むことを余儀なくされていた。
桐生の当主、士朗とは再会を誓って、互いのロザリオを交換していた。
19歳の若き当主・・・弟のように可愛がっていた士朗・・・・
人殺しの罪を犯しても、士朗は救う・・・・25歳の若き祭司は我を忘れて走り出した・・・・
暗い森の中・・・・
ザッー
潜んでいた人影が動き忠昭は捕らえられた。
暗い牢獄の中、拷問に耐えつつ、忠昭は士朗の所に行くことだけを考えた・・・時間が無い。
焦る思いで、踏み絵を踏み 転びバテレンの焼き印を押された・・・・
そうでもしなければ出られなかった。
しかし・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・たどり着いた処刑場は、焼け焦げた死体の山と化していた。
「士朗・・・・」
遅かった・・・・・もう自分には何も残っていない。生きる意味も無い・・・・・・・・・
「遅れてすまなかった・・・・守れなくてすまなかった・・・せめて約束を果たす為に・・・お前の元に行こう」
忠昭は懐の短筒を、自らのこめかみに当てて引き金を引いた。
「お父様・・・」
マリが葉羽瑠を揺り起こした。
「うなされておいででしたよ・・・・」
「ああ・・・」
「また・・・あの夢を?」
来栖忠昭・・・・・江戸中期にキリシタン弾圧に屈して転び、自害した祭司。
文献には桐生一族の処刑場で自害している事から、桐生を救う為に転んで牢を出ただろうと推測されていた。
その事は、拳銃を所持していた事からも証明される。
最初からパードレーの地位を捨て、殺人者として手を汚すつもりであったのだ。
それほどまでにしてなお、救えなかった桐生士朗・・・・・彼は生き残り、悪魔に身を売り大門となった。
「救えなかった」
窓の外は雨・・・・・・
「今度こそは救わないと」
「大門・・・・架怜・・・をですか?」
「ああ・・・」
倒すのではなく・・・・救う。
「うちとは縁のある一族だからなあ」
忠昭の想いを感じれば感じるほど、架怜がいとおしい。
我知らず架怜が守る、唯一つのものを気付かせてやりたかった。
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