第2部
第1話 眩暈
長い間、見なかった夢を見た・・・・・
長い黒髪を高く結い上げた美しい青年が、手を差し伸べていて、自分もそこに行こうとするのに行けずにいる・・・・
そんな夢・・・
その朝、矢守和磨は、軽い微熱に襲われていた。
(皆は俺を土御門高彬の転生という。ならば、あの者は蘇芳か?)
水を浴びたように汗をかいている・・・
「和磨・・・」
何のためらいもノックも無く、架怜は和磨の寝室に入って来た。
「まだ寝てたの?」
ベットの端に腰掛ける。
「遠慮の無い女だな」
ふふふ・・・媚びたように笑う・・・
「私と貴方の仲で遠慮なんて・・・・」
「どういう仲だ?」
「復讐同盟」
「俺は、お前との仲を疑われるのは好まない」
「誰に気兼ねしてるの?・・・・今ここで愛人契約結んでもいいわよ」
架怜は和磨の上半身を倒してのしかかってきた・・・・
「おい!体調が悪いんだ。どけ」
無造作に押しのけられて、架怜は少しプライドが傷ついた。
「な〜んだ。政宗達が合体したから、私達もどうかと思ったのに・・・」
「え?!」
驚いて和磨は起き上がる
「知らなかったの?異常に頑丈な結界張ってたから、昨日よ。」
人事のように言う架怜に苛立ちを感じる。
「何故手を打たない!!」
「手の出しようないでしょ・・・あの二人、合体前であんなに頑丈に繋がってるのに」
少し、嫉妬の入った口調で架怜は愚痴る。
(だからか・・・自分の気が封じれれているような倦怠感を感じる・・・)
「ねえ、ショック?夢幻斎、寝盗られちゃって。結構気に入ってたよねえ和磨。でも政宗は私が貰うからね」
「勝てるか?俺達は・・・」
「何、弱気になってんのよ!そんなに夢幻斎が怖いの?」
(怖い・・・あいつに会ってから、心が弱くなってきた。あの目を見た瞬間・・・)
架怜は、和磨の右手を取り、手のひらを見詰める。
「高彬の証、薄くなっている・・・」
親指と人差し指の中間からまっすぐ横に伸びた線状の痣・・・・・・
昔、その美しさから、帝の目に留まり小姓に望まれた蘇芳が 高彬の傍にいたいが為に、自らの顔を焼こうとした火箸を
高彬が素手で掴んで止めたとされている火傷の痕・・・・
この痕を持って生まれた故に、和磨は高彬の再来と言われている。
「忘れてはダメよ。高彬の怨を。大事なものを奪われ、踏みにじられてきたその怨みを・・・・」
自分の中には、生まれつき怨念が住み着いていた。
高彬の怨念が。
和磨自身が望んだわけではない。
しかし湧き上がる権力、社会、政治、首都に対する怒り、憤りはどうする事も出来ない。
「葉羽瑠も政宗と接触してきたし、共同戦線張る気よ・・・あいつ、へらへらしたおやじの割には手強いし、
後ろに薔薇巫女がいるし・・・・政宗は夢幻斎と合体して無敵だし。やっかいよねえ」
熱が上がる・・・朦朧とする頭の中、架怜の声が耳障りだった。
「休ませろ。」
何も考えずに眠りたかった。
「薬、持ってこようか〜」
「いらん。出て行け」
ふふふ・・・
架怜は笑う。
「厄介なほど、面白いんだ〜わくわくする」
鼻歌交じりに立ち去る架怜に、心の中で極悪非道・・・・とつぶやく和磨。
夢幻斎に会い、蘇芳の夢にうなされ・・・・・・だんだん心が弱くなる和磨。
(どうしたんだ・・・一体・・・・)
眩暈に襲われ、彼は体を横たえた。
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