第13話 夢の終わり
朝、夢幻斎が目覚めると、脇のテーブルに頬杖をついてる政宗の横顔があった。
夢幻斎は起き上がる・・・気の大量増量の為 眩暈がした・・・・
「目が覚めたか?横になってろ・・・しばらくだるいぞ・・・」
と政宗は昨夜の着物を夢幻斎の肩に掛ける。
「いえ・・・」
政宗は、すでにいつもの服装に戻っている。
「俺でさえ、力が出なくてぼーっとしてんだぜ」
気を与えて気不足なのと、気を受けて消化しきれないのと、どちらが大変かは分からない・・・・が・・・政宗も動けずにいる。
「夢幻斎、頼んだぞ。」
もう・・・夢は終わったのだ・・・・
「御武運をお祈りいたします」
政宗は、左手の小指にはめたオニキスの石のついたリングを外して、夢幻斎の左手の薬指にはめた。
「お前は指が細いから・・・」
サイズはぴったりだった。
「契約のしるしにやる。エンゲージリングだ。」
夢幻斎の瞳から涙が零れ落ち、それを政宗は指でそっと拭う。
「泣くな。笑って送り出してくれ・・・・」
夢幻斎は、手首に掛けたロザリオを外し政宗に託す。
「母の形見です。近いうちに、私の形見になるでしょう・・託す者がおりませんので、持っていていただけませんか・・・
ずっとでなくていいです・・・忘れて捨ててもいいから・・・」
「預かっておく。いずれは返す。必ず。」
上着の内ポケットにしまうと、政宗は立ち上がる。
「俺の人形(ひとがた)は、お前が預かってくれ。そのうち持ってくるから。」
「お守りいたします」
「また来る。見送らなくていいから、そこにいろ。」
情を斬るのは無理な気がした・・・・明らかに今までとは違う、強い繋がりを感じる。
その気になれば夢幻斎から気を引き出せるという立場に立った今は。一人ではない・・・そんな安堵感が政宗を包む。
「でも・・・」
「下に土御門の連中がたくさんいる。じろじろ見られるから」
夢幻斎の、いつもの仮面の下にかすかに羞恥の色が現れた・・・夢幻斎は確かに変わった。政宗に対して心を開いた・・・・・
それが従者の証であるかのように。
「またな」
明るい笑顔を残して政宗は出ていった。
階段を降りて行くと、下に土御門の一門の者と、茜が待っていた。
「夢幻斎はそのまま休ませなさい。気が同調するまで、少しかかります。」
茜にそう言い、一門を引き連れて玄関口へ・・・・・
「お食事を、なさっていってください」
茜が引きとめようとした・・・
「うちで、こいつらに振舞う馳走は準備されてますのでお構いなく。慰労宴会あるそうです」
「はあ・・・」
「ご苦労。引き上げるぞ。」
一門を引き連れて、あわただしく去る政宗・・・・
寝室に近づく事さえためらわれて、茜はひたすら夢幻斎の出現を待つしかないと思われた。
政宗は帰宅後、すぐに先代に報告にあがった。
「大儀であった。休め。」
幸信は微笑んだ。
「慰労会は、参席いたしませんので・・・」
出て行こうとする政宗に、幸信はつぶやく。
「繋がっているのに情を斬れ・・・とは、私も無理な事を言ったものだ」
「先代・・・」
ただの繋がりではない、運命的なものを幸信も感じていた。外見は変わっているように見えないが、政宗は明らかに変わっていた。
(これが夢幻斎の能力(ちから)なのか・・・)
「負けるな」
それが吉と出るか凶と出るかは、幸信にも分からなかった。
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