第10話 戦闘準備

 

 

  次の日、昨日の事件の話を聞いて来栖葉羽瑠が夢幻斎を見舞った。

「誘拐されて2時間内に脱出とはすごいですね・・・」

客室のソファーに座るなり葉羽瑠はそう切り出す。

「ライターのおかげです。」

「煙草も吸わないのに、なんでライター持ってるんですか?」

夢幻斎はゆっくり微笑む・・・・

「ライターは、煙草の火をつけるためだけの物ではないんですよ・・・・」

「なに?放火するため?」

(このおじさん面白すぎる〜〜〜〜)

横にいる茜は笑い死にしそうだった・・・・彼女にはこのおじさんがミサの弟とは到底思えなかった。

どうして、シリアス・サスペンスな来栖一門に吉本新喜劇がまじっているのか・・・・

しかもこんなに強烈なボケに眉一つ動かさない夢幻斎・・・崩れぬポーカーフェイス・・・・

 「まさか、ご主人の煙草に火をつけてあげるために ライター携帯してるんじゃあないよねえ?」

(マリ!!ばらしたな・・・・)

心中とはうらはらに表情は変わらない夢幻斎・・・・

「なになに??そんないいことしてんですか〜?」

瞳をキラキラさせる茜・・・・笑顔のまま固まる夢幻斎・・・・・

 「なんにせよ・・・怪我も無く無事でよかった・・・・」

「政宗様のお蔭です・・・地下室に倒れていた夢幻斎様を見つけて寝室まで運んで・・・気まで分け与えてくださったんですから・・・」

一緒に座って茜は話しに加わる・・・・

「気を・・・・」

昨日から熱っぽい夢幻斎は、ようやくそのわけを知る・・・

「土御門家の御当主の気を貰ったんですか・・・・道理で・・元気そうだと思った。強すぎて鼻血ものでしょう?」

(当たらずとも遠からず・・・)

茜は思う・・・夢幻斎は何か感づいたのか俯いてしまった・・・・耳の辺りまで赤くして・・・・

(!!政宗様に口止めされてたこと・・・間接的にバラしちゃったかなあ・・・・・)

あせって話を変える茜・・・・

「大門架怜とは・・・対決された事おありなんですか?」

「3、4回・・・・性格が極悪で・・・私なんか、二重人格の分裂症だの、来栖一門の突然変異だの・・・色々いじめられました・・・・」

「そのまんまですね。」

感心する茜。

「政宗様は彼女の好みらしいので・・・かな〜〜りいじめられるかと・・・・」

はははは・・・笑いつつ言う事でもなかろうに・・・・無責任に笑う葉羽瑠・・・・・

「屈折してますね・・・」

茜も苦笑する・・・・・・

「超ドSと思ってください。本人女王様のつもりですから・・・」

そんな女に捕まっていたとは・・・・夢幻斎の災難を改めて確信する茜。

なんにせよ、あの一件で夢幻斎は儀式への決意を固くした。かなりの危機感を感じたに違いない・・・・

「でも・・・・迷いは吹っ切れたみたいですね。貴方は、姉の忘れ形見・・・大事な甥です。その貴方に犠牲を強いる私達を許してください。」

夢幻斎の手を取り葉羽瑠は懇願する。100の冗談に埋もれた1つの真実・・・・彼はその事だけを言いに来たのではないか・・

「叔父上」

夢幻斎は顔を上げる・・・・

「私は幸せです。あの方のお役に立てる我が身を、誇りに思います。」

「ありがとう・・・」

これから土御門にも顔を出す といいつつ葉羽瑠は席を立った・・・・

なんだかんだ言いながらも祭司らしい事も言うおじさんを見送り、茜は夢幻斎を振返る。

「聖児は・・・夕方来るよう言いましたが、よろしいでしょうか・・・少し休まれた方がよろしいかと・・・」

「ありがとう。書斎にいます。」

夢幻斎は二階に上がる。昨日政宗が帰ってから、心なしかだるそうだった。それが変に艶っぽいので茜は少し気になる。

ポーカーフェイスの奥の繊細な心が壊れないよう守りたかった・・・・

 

 

 

 

「お待たせいたしました。」

土御門の客室で待つ葉羽瑠の前に、政宗は現れた・・・・

「お忙しいのですね・・・・」

気さくに笑う眼鏡の奥の瞳・・・

「面倒な事ばかりさせられて・・・・当主は本当に使いっ走りと変わらないですよ・・・」

「この度のことで・・・こちらも、本格的に共同戦線張らないといけないと思いまして・・・」

政宗も頷く・・・・大門架怜が夢幻斎をいじめたのは許せないでいる。

「まず、夢幻斎の警護に家から数人送ります。向こうも、儀式を妨害しないと安心できない様子ですし・・・」

「こちらも矢守関係以外の仕事は他のものに引き継ぎました。24時間体制で挑みます。」

「ありがとうございます」

と出された茶をすすった・・・なぜか和風も似合うおじさん葉羽瑠・・・・

「うちの薔薇巫女さん達が、夢幻斎の警護を直々にしたいと申し出ているのですが・・・・・」

「従兄妹思いのお嬢さんたちですなあ・・・」

はあ・・・・ため息の葉羽瑠・・・・

「いえ・・・・・政宗様と夢幻斎が一緒のお姿を一目見たい というズレた目的が見え見えなのです・・・」

話が見えない政宗・・・・首をかしげる・・・・

「なぜ・・・・」

「お二人のお姿が麗しいと。その・・ファンになったらしくて・・・なんにせよまだ憧れやすい女学生、困ったものです。」

突然変異は娘にまで及んだらしい・・・・

「政宗様は美男子なので女人が憧れてもしかたありませんが・・・巫女さん達には困ったものです。」

「で・・・どうなさるのですか?」

「かえって、お邪魔になるような気がするので・・・薔薇十字軍を派遣しようかと・・・・」

政宗は頷く・・・

「ひいては・・・こちらにも大門対策に薔薇十字を派遣したいのですが・・・」

「ありがとうございます。ではうちからも、精鋭を数人選んで待機させましょう。」

にっこり笑う葉羽瑠・・・どう見てもミサの面影は見当たらない・・・

「政宗様・・・夢幻斎を宜しくお願いします。使命を果たせるよう・・・能力(ちから)を充分に使ってやってください・・・

そして、あまり・・・お心を向けられますな・・・」

葉羽瑠の目からもそう見えるのか・・・政宗は苦笑する。

「あの子を庇って、貴方にもしもの事があれば、あの子が傷つきます。」

まるで夢幻斎を見殺しにしろと言わんばかりの言葉である。しかし・・・真実でもある。

「御心配をおかけいたします・・・」

彼は知っている・・・政宗の迷い・・・夢幻斎の想い・・そして・・案じている・・・・・

「儀式は・・いつ頃・・」

「出来れば・・・皆既月蝕の日に。」

「2週間後ですか・・・お心を整えてお臨みください。」

戦いの幕開けとなるその日・・・・そこから運命は回りだす。

 

 

 

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