第8話 密かな決意
夕食後、政宗は先代当主であり、実父である幸信の書斎に報告にあがった。
「檜山の方の了解を得たのか?」
「はい。明日から正式に弟子を取り、引継ぎを始めるので一段落つけば・・ということになりますが。」
「身辺整理に忙しいだろう」
いつ死んでもいい身にするために・・・
「夢幻斎はまだ未成年だろう・・・18.9で死ぬ運命とは・・・」
父の言葉に胸が痛む・・・・
「従者に多くの情をかけるな。主人である己を犠牲にするような事はするな。」
幸信も案じていた・・・傍目から見ても政宗の夢幻斎の可愛がりようは尋常ではない。
彼は息子の手を取った。
「お前は術者には向かないほど情の深い子だ・・・・いつか、それがお前の足を引っ張る事になるのではないかと
心配なのだ・・儀式後、お前と夢幻斎は名実共に一心同体になる。離れていても繋がってお互いを認識する・・・・
夢幻斎は必ず、絶対の忠誠を誓わねばならん。しかし、お前は・・自らのために夢幻斎を犠牲にする事を
ためらうな。それがお前の道だ。その決意を儀式までにしなければならない。気をつけろ・・・設術とはいえ
肌を合わせると情が通う。ましてや夢幻斎は女と見紛う美少年・・・・のまれるな・・・」
父の息子に対する観察力は確かだった・・・政宗の自分でも気付かなかった迷いを彼は明らかにした・・・・
「設術中は情は通わせては・・・ならないと?」
「いや。困った事に情が通わねば能力(ちから)の授受は不可能だ。背信の思いを持つ従者には、
伝授不可能なのは、そういう理由から来る。与える方然り。情は・・・一夜限りで斬れ。」
(難しい事をおっしゃる・・・)
苦笑いの政宗・・・・・
「乗り越えろ・・・・」
握り締められた手の強さは父が息子に託した強い願いであった。
父の部屋を出て、庭に出ると闇の中 桜ははらはらと散っていた・・・・・・
(夢幻斎は・・・俺のために死ぬ・・・)
決められた未来、変えられぬ運命・・・・儀式はその幕開けとなる・・・・・
ー政宗様、史也は貴方に御捧げする為に産んだ子。どうか・・使命を果たさせてやってください・・・・−
夢幻斎と初めてあったあの日・・・ミサはそう言った。
自分の息子を犠牲にして殺せと・・・・・何と気丈な母なんだろうと思った。
(しかし、それが使命を持って生まれたものの運命・・・・ミサも夢幻斎もそれに殉ずる。・・・俺は?・・・・
夢幻斎を犠牲にするのが使命ならそうするべきなのか?それでいいのか・・・夢幻斎?おまえはそれで。
誰も犠牲になどしたくはない。俺の命の重さも、夢幻斎の命の重さも同じなのに。しかし・・・
今度の戦いは勝たねばならない。勝つために夢幻斎が必要だ・・・・)
「勝つ。勝ってみせる。そして夢幻斎も死なせない。」
(俺のために・・・・死なせない。ミサ様、夢幻斎の手は離しません。絶対に。)
運命を変える決意を政宗はする・・・・・ただ・・・自分の為だけに・・・
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