第6話 儀式

 

  茜の連絡を受けて、檜山家長老、檜山藤霞が月光館を訪れた。

「おかしいとは、どんな風におかしいのですか?」

白髪の和装の老婦人は客室で茜と向かい合う

「来栖家を政宗様と、ご訪問された夕方から、書斎におこもりで・・・・お食事もなさいませんの」

「あちらで何かあったんですか・・・」

「うちの運転手さんの話では こちらに戻られて、政宗様が帰り際に、主従関係を結ぶ覚悟があるかと

お訊きになられたそうですが・・・」

藤霞の顔色が変わった・・・

「それで・・・・」

茜はまだ事情が飲み込めない。

「うちはもともと、土御門家の眷属ではありませんか?改めて主従関係も何も・・・」

「それは・・・夢幻斎が政宗様個人のモノになるということです。政宗様の能力(ちから)を貯蔵し、

さらに自分の能力(ちから)をプラスして、必要な時に差し出す為の、完全なる僕になると言う事。」

「夢幻斎様は能力(ちから)を吸い取られるんですか?」

藤霞はうなづく・・・・

「戦いの中、時も場所も選ばず吸い取られます。しかし、今まで夢幻斎が最大限に伸ばしてきた

能力(ちから)は政宗様に捧げる為のもの・・・・仕方ない事。総て吸い尽くされて死のうとも、

夢幻斎はそれが運命。」

茜はまだ分からない。首をかしげて考える。

「まさか、今になって死にたくなくて、お悩みとか・・・」

考えられない・・・政宗のために死ぬ事だけしか頭に無い夢幻斎が・・・・

「多分・・・問題は・・そのための儀式にあると思います。」

「儀式・・・」

藤霞は頷く。

「昔から、主従関係の契りを結ぶ時は、閨の契りを結ぶのが習い。」

「えっ!」

茜は驚いて声も出ない。

「お・・・男同士で?」

「男色は日本の伝統です。大名と小姓の関係然り・・しかし・・・・この場合の契りは従えるための契りではなく、

政宗様の精を受けることによって能力(ちから)の受け渡しがなされるという事なのです・・・・」

あいた口が塞がらない茜・・・

「政宗様がそこまで決意されたとは・・・相手も大物なのね。茜さん、もちろん近代ではこのような事は

してはおりません。必要性もないし・・・今度のは必要性があるからなのよ。」

(どうしょう・・・夢幻斎様・・・・)

原因が分かったとて解決できない事に気付き、茜は途方にくれる・・・・

「まぁ・・・あの子もまだ若いから・・・戸惑うのは仕方ないけど。そこまで悩むとは思わなかったわ・・

儀式と割り切れないかしらねえ・・・・男なんだから。私が説得しましょうか?」

立ち上がろうとする藤霞を茜は引き止める。

「違うと思いますよ。」

「何が・・・」

今度は藤霞が首をかしげる。

「上手く言えないんですが・・・夢幻斎様は政宗様のこと愛しておられます。だから悩むのではないですか?」

「愛してるなら、都合がいいではないですか・・・何故悩むのですか・・・・」

ますます分からない藤霞・・・・

「忍ぶ恋をしておられる夢幻斎様が儀式であれ、そんな事になると、想いが隠し切れずに 

どわ〜〜〜っと溢れて、大変なことになっちゃう!とか・・」

あきれ返る藤霞を見てしぼむ茜・・・

「すみません・・・」

「貴方の言わんとすることは分かりました。それでは、この件は本人に任せるしかないわね。

あの子は繊細すぎて困ったものね・・・乙女でもあるまいし・・・」

立ち上がり玄関に向かう藤霞を茜は追う。

「・・・お帰りですの?」

「もしもの時は政宗様を呼びなさい。これはあの方と夢幻斎の問題です。」

「はあ・・・・」

檜山家の御長老は去っていった・・・・・・・

(夢幻斎様・・・・)

茜は祈るような気持ちで二階を見上げた。

 

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