第5話 会合

  

    来栖家の客室で、夢幻斎と政宗は祭司、来栖葉羽瑠を待つ・・・急な用で不在らしい。

すぐ帰るから待つように言われた。

「忙しそうだな・・・」

政宗は何故か落ち着かない。

「はい・・・こちらでも数日前から教団の聖地が荒らされたり、色々あるようなのです・・・」

「例の・・黒魔術師の集団か?」

「はい。大門は悪魔崇拝の一族。大門の語源は悪魔、デーモンと言われています」

「あっちに、もこっちにもいるんだなあ・・胡散臭い奴が・・・」

 

 

夢幻斎は笑って言った・・・

「政宗様、御一服なさりませ・・・さっきから落ち着かれないようですから・・・」

「未成年の前でか?」

「もうすぐ二十歳になりますから、大丈夫です。学生でもありませんし」

その言葉に甘えて煙草を取り出す・・・と、すかさず 夢幻斎が彼のライターを取り出した。

政宗がライターを取り出すより早く、夢幻斎は煙草に火をつける・・・・

お茶を持って入ってきた紅薔薇の巫女、来栖マリはあまりの麗しさに見惚れていた・・・・・

美青年の煙草に火をつける美少年・・・映画のワンシーンのような光景に目がくらむ

「お忘れになりましたよ」

と、ライターを差し出す夢幻斎に、政宗は自分のライターを見せる。

「スペアーはある。それはもってろ。お前にやる」

「でも・・・私は煙草は吸いませんよ?」

「煙草の火、つけるしか用は無いのか?ライターてのは?」

夢幻斎は笑った。

政宗はお茶を持ってきた娘を見る・・・茜といいこの娘といい・・・我を忘れて見惚れ、手が止まっている。

「あ、失礼致しました・・・」

「従兄妹のマリです。紅薔薇の巫女の・・・・」

夢幻斎の言葉と同時に彼女は頭を下げる。

機転の利きそうな利発そうな娘だが、ミサのイメージとはまた違っていた・・・

「ごゆっくり・・・」

そういって出てゆく後姿に、夢幻斎は苦笑する・・・

「偵察に来たんですよ。土御門の御当主がどんな方か・・・・」

「そんなにスターか?俺は?」

今頃、妹達と政宗の噂でもちきりだろう。夢幻斎は再び苦笑する・・・

しかし、そうなっても仕方ないくらい、政宗の仕草は絵になる・・・・・

 

 

 

「遅れて申し訳ございません」

40代の眼鏡をかけた、痩せた男が静かに入ってきた。

グレーの背広を着て、やさしそうな笑顔で席に着いた。

「叔父の来栖葉羽瑠です。こちらは土御門政宗さま・・・」

「はうる・・・様とおっしゃるんですか・・」

はははは・・・

葉羽瑠は笑った。

「変な名前でしょう?パウロからきてまして・・・」

大教団の祭司とは思えない、気さくさに政宗は驚く。さっきまでのあの緊張感は何処へ行ってしまったのか・・・

「お食事から致しましょう、こちらへどうぞ」

とキッチンに案内された。カウンターのついた広いキッチンだった・・・

「お箸も準備しましたので・・・」

と二人に席を勧める。テーブルにはすでに料理が準備されていた。

「政宗様、私がステーキをお切りいたします。」

夢幻斎は政宗の皿を引き寄せナイフとフォークで切ると再び差し出した。

「ああ・・すまんな・・」

コレで箸を使って食事ができる・・・と思う政宗だった・・・

「夢幻斎は、御主人にはよく仕えますね・・・それとも、政宗様だからですか?」

「叔父上、お食事中はお静かに・・・」

甥にたしなめられる叔父、葉羽瑠・・・・・頼りなさげで不安になる政宗。

今までの緊張感が一気に崩れる・・・

祭司様というからには、ローマ法王のような衣装で威厳に満ちた現れ方をすると思っていたのに、

来たのはひょろっとした背広の眼鏡男・・・・更に落ち着きが無い・・・・

あのクールビューティーな来栖ミサの弟とも思えない。不思議な雰囲気を醸し出しつつ食事は進む・・・・・

 

 

食後、会議室で話は進められた・・・

 

「まず、今回 黒魔術師の一門と陰陽師の一門が手を組んで、私達のつくった結界を壊しにかかっているという件について、ご意見をお聞かせ願いたいのですが・・・」

いきなり葉羽瑠が、クールバージョンに切り替わって政宗は戸惑う・・・

「檜山家の調べでは、結界を取り除き、地の脈、水の脈、気の脈を断ち切り、この帝都を破壊することが

目的であろう と言う事ですが・・・・・」

と夢幻斎は葉羽瑠と政宗に持ってきた書類を渡す。

「帝都を破壊・・確かに矢守は昔、罪を犯し、朝廷を追われた一族だが・・その復讐か・・・」

 政宗は夢幻斎を見つめる。

「大門一族も、もとは江戸時代に宣教師について、私達と共に渡ってきた預言者の一族なのですが・・・

キリシタン弾圧によって絶滅を余儀なくされました。そのただ一人の生き残りが、憎しみのあまり魔道に落ちたのが

大門の始まり・・・共に復讐に身を焦がしていると言えましょう・・・」

 葉羽瑠の言葉に夢幻斎は首をかしげる

「でも・・・何故・・今になって・・・」

「夢幻斎・・・大門も、矢守も今、突然恨みが湧いてきたのではありませんよ。長い間、時間をかけて

この時を待っていたのです。貴方が100年に一度現れる、聖痕の持ち主であるように。

政宗様が歴代当主の中で1.2を争う陰陽師であるように・・・大門にも一族の救世主が現れた・・・・

大門架怜 黒いジャンヌダルクと呼ばれている女性がいるのです・・」

さっきの頼りなさとは裏腹の葉羽瑠に戸惑いつつ、政宗も口を開く。

「矢守和磨も、土御門高彬の転生と言われている。詳しくはこの書類に・・・夢幻斎は知っているよな・・・」

「はい。朝廷を追われ怨霊となったと聞いております・・・」

「一旦、互いの資料をよく読み、再検討いたしましょう。度々会合を開いた方がよろしいかと・・・」

皆うなづいた・・・まず相手の事を知らなければならない・・・

「ということで・・・政宗様、お渡しするものがございます。大門一族の資料と、大理石で作らせた聖母像です。

マリア像はお好きと伺いましたので・・・」

全長12センチの机の上に飾れるほどの大きさのものである。小さいが物凄いエネルギーを感じる。

「携帯用結界と申しましょうか・・・」

・・・・いつの間にか・・・・もとの気さくな”おじさん”に戻ってしまっている

(携帯用結界・・・・叔父上・・・そんな表現したら・・・威厳も何もないではないですか・・・)

夢幻斎は一人苦笑する・・・・しかし、モノの凄さは政宗は実感済みだった・・・・

「葉羽瑠様が・・・念をお入れになったのですか?」

「はい・・・ふつつかながら・・・」

嫁入りのような事を言いつつ、重さにかける葉羽瑠の言葉。しかし・・・かなりの気力を使った事は確かだ。

「ありがたく頂戴いたします。こちらからも、準備したものがございます」

と桐箱を4つ差し出した。

「土御門家の霊山から掘り出しました、極上の水晶で作った数珠と念誦でございます。108個繋げた数珠は

葉羽瑠様に、念誦は薔薇巫女様方に・・とお持ちいたしました。念誦はブレスレット仕様に致しましたので

アクセサリーにもなりますゆえ・・・」

 これは奥方、清香様のアイディアだろうと夢幻斎は思う・・・

「うちの巫女にまで・・・ありがとうございます。」

土御門家のものだ・・・こちらも何か術が施されてあるのだろう・・・と、ぼんやり夢幻斎は考えていた・・・・

 

 

 

「叔父上はいつもあんな感じなのか・・」

帰りの車の中で政宗は訊く。

「少し変わっていますが・・・力は確かです。」

「だろうな。お前とこうして何処かに行くのは悪くないな・・・初めてだろうか・・・」

「そうですね。」

「土御門の桜の宴の行事は、今年は中止だ・・・非常事態だし・・・」

桜の宴・・・・7歳の夢幻斎が、初めて政宗を垣間見たのが桜の宴であった・・・

ただの花見ではなく、土御門家の御神木である1000年桜の鎮魂際も兼ねていた・・・

あの時から思うと今、政宗の隣に座り、ドライブとは夢のような話だ・・・

「夢幻斎、人形師になりたくないと思ったことあるか?」

「ありますよ。でも7歳以降の私の夢は人形師でした・・・・」

「珍しい奴だなあ・・・」

「政宗様は・・・陰陽師になりたくなかったのですか?」

「陰陽師というより・・・土御門の当主にな・・・めんどくせーだろ?いろいろ・・・当主の就任、かなーり渋ったよなあ」

でも・・・・と夢幻斎は思う・・・

(貴方が御当主になられるから、私はひたすら人形師の修行に励んできたのですよ・・・・・貴方のお役に立ちたくて・・・)

そっと盗み見る政宗の横顔に、声無き想いを告げる・・・

 

 

別れ際、土御門家の車に乗り込む前、政宗は夢幻斎の肩に手を置いて言った。

「お前・・・俺と本当の主従関係、結ぶ覚悟はあるか?」

真剣な眼差しに夢幻斎はたじろぐ・・・・

「意味・・・判るよなあ・・・」

見据えられた眼差しも、肩に置かれた手も、衝撃的発言も・・・・総てが夢幻斎を凍りつかせた。

「今、答えなくてもいい。考えておけ。無理にとはいわん。使命や運命に囚われずに正直な結論を出せ。」

去ってゆく土御門家の車をぼんやり見詰めつつ、夢幻斎は身動き一つ出来ずにいた・・・

 

 

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