第1部

                       

         第1話 訪問   

 

 古い洋館の前に、政宗はたたずむ.。

何度か訪れた館・・・・代々家同士が深いつながりを持っている檜山一門の現在の住居。

ここを訪れる時は 非常事態が多い。その割には、彼はここに来る事が嫌ではない。

むしろ 本当は来たくて堪らないのに、口実が無くて、来れない事に辛さを覚えている。

ーここには夢幻斎がいるー    そう思うだけで安息できた。

 

 「!政宗様。いらっしゃいませ。お入りください〜お久しぶりです」

窓から 政宗の姿を見て、笑顔で、娘が出迎える。檜山茜。檜山家の分家の娘で24になる。

夢幻斎付きの世話役である。他に 料理師と秘書も 何人か檜山の家から派遣されている。

茜は夢幻斎の従姉にあたり、幼い頃から夢幻斎の世話係だった。

明るい性格で情が深いので、夢幻斎の母であるミサが、生前に世話役に選んだ。

家事、接客担当で一番 夢幻斎の近くにいる人物である。瞳の大きな幼顔がポニーテールのお蔭で更に幼く見える。 

「茜様、相変わらずお元気ですね。夢幻斎はおりますでしょうか?」

「はい。今秘書と会議中ですので、少々お待ちを・・・お茶、お入れします。お座りください。」

政宗は広いフロアーを抜けて、客室に入る。ソファーとテーブルのあるサロンのような客室・・・・ゆったりとしていて落ち着く。

「こんな広い洋館を お一人でお掃除されるのですか?大変ですね」

「業務用の大きな掃除機がありますから・・・・」

といいつつ 紅茶とタルトをテーブルに置く。

「料理師さんがとてもおいしいタルトを作ってくださいましたの!どうぞ。」

「タ・・・タルトですか・・・・」

純和風に生きてきた政宗は戸惑う・・・

「政宗様って・・・・タルト似合わないですね。スーツ着てるのに純和風だし、硬派だし」

男らしいという言葉がぴったりの政宗。背の高い、アクション俳優を思わせる力強い体型に襟足を短く刈った漆黒の黒髪。

大きめの黒い瞳は深く、彫りの深い顔立ちと、きつく結ばれた力強い唇が唯一、現代風だった。

しかし、彼は洋装より和装が似合いそうなのである。剣道をしているイメージが強い。

実際 彼は剣道、弓道の達人と言われている。

「夢幻斎様とはタイプが違いますが・・・お二人とも美男子ですね」  

 「夢幻斎は元気ですか・・・」

「こういう仕事ですから・・・・色々あります。夢幻斎様は繊細で優し過ぎるから 特に御辛い事と・・・」

「檜山も、土御門も同じ事。因果な家門だな。」

政宗はカップをとって一口飲む。

「政宗様も・・・そうですか?」

トレイを胸に抱えて 茜は政宗に身を乗り出す。

「俺も人間ですから。」 

ふふふふ・・・・茜は笑う。

「政宗様のこと、人間じゃないなんて言う人いるんですか?」

「人間離れしてるでしょう。俺も夢幻斎も」

「特別なだけですわ。かえって、優秀な人間って事になるんじゃないかしら・・・」

「ところが・・・人間で無くなる日も そう遠くなさそうなんです」 

茜は青ざめた。

(それで、政宗様はここに?・・・)

「夢幻斎にまた、きつい仕事をさせちまうかも知れない」

(きついどころじゃあないわ・・・命がけの・・・)

茜は目をつぶり唇を噛んだ。

「そんな顔しないでください。あなたは、夢幻斎を支えないといけない身なんですから」

(しかし・・・しかし・・)

茜は思う・・・

(土御門と檜山の一門が背負う荷は、あまりに重い・・・)

 場の雰囲気を変えるように政宗は笑う。陰陽師という職業に似合わない 、人懐っこい明るい笑顔で・・・

 「煙草、吸ってもいいですか?」

手持ちぶたさに 、内ポケットからシュガレットケースを取り出して、政宗は訊く。

ここには 当主をはじめとして、喫煙者がいないので気を使うのだ。

「どうぞ。」

茜が灰皿を取りに立ち上がる。

ライターで火をつけ、煙をくゆらせながらゆったり吸うその姿に、茜は灰皿を持ったまま見とれた。

「茜様?」

政宗に呼ばれて我に返る茜。慌てて灰皿を差し出す。

「すみません、つい見とれてしまいました。政宗様は仕草の一つ一が絵になって素敵です。」

「夢幻斎は・・・好まんでしょう?煙草の煙も臭いも・・・・」

「未成年ですから・・・まだ。でも、そのお姿見られたら真似してお吸いになるかも・・・・」

「18・・・ですか?」

「19です・・・もうすぐ20歳」

 政宗と夢幻斎が初めて逢ったのは夢幻斎が13の冬・・・・もう6年経つ・・・・

「ダメですよ。夢幻斎に煙草吸わせちゃあ」

「成人しても・・・・ですか?」

「成人しても。第一似合わないでしょう?あいつに煙草は」

何処か、まだ少年の面影を宿している夢幻斎を思い浮かべ、確かに・・・・と、茜は笑った。

「政宗様・・・御自分がお吸いになるのに、夢幻斎様には禁煙令ですか?」

「自分が煙草吸ってるくせに、彼女が煙草吸うのを嫌う男いるでしょう?アレですよ。」

 

彼にとって夢幻斎は聖域だった・・・・

 

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