16.再会
あの夏から10年・・・・・・・・・・
今年、ドイツのサッカーチームに移籍した誠はある日、監督に呼ばれた。
そのまま車に乗せられ、ある巨大ビルの前で降ろされた・・・・・・・・
「マコト、オーナーがお呼びだ。」
監督と、誠そしてドイツ語の通訳は、ビルの中の広い廊下を歩く・・・・
「オーナー?どうしてオーナーが俺を?」
通訳に説明を求めるが、彼も首をかしげる・・・・
「お前はオーナーの推薦でここに来たんだ、丁重にお礼を言っておけ」
監督の言葉を通訳が訳すなり、誠は絶句する・・・
プロのサッカー選手になり、それなりに活躍はしていたが、短期間で異例の奇跡的抜擢により
ドイツの有名なチームに呼ばれ、移籍した・・・・・それが、オーナーによるものだというのだ。
「”とにかく会いに行って来い。お前に会いたいそうだ。”と言っています・・・・ご案内いたします。」
(何で・・・・オーナーが・・・・)
監督は受付に誠の来訪を告げる。案内の秘書と通訳の後をついてゆく誠・・・・
通じない言葉にも、なれない外国暮らしも、大好きなサッカーが出来るということ、そして、ドイツには遼がいるということで、
ホームシックにもならずにいれる・・・・
あれから10年・・・・
いつか逢えることを望みに頑張ってきた。
秘書が先に社長室に入り、取り次ぐと出てきて、入るよう薦めた。
「野々宮さん、それでは・・・」
通訳は立ち去ろうとする・・・・
「え?あのう・・・・」
(言葉・・・・通じないんですが・・・・)
「オーナーには通訳は要りませんよ。」
(日本語ぺらぺらとか?)
とにかく、ドアをノックして入った・・・・
デスクに座っている若い男は、顔を上げた。東洋人だった・・・・
「誠!」
グレーのスーツに身を包む男の顔は、ひと時も忘れたことの無かったあの面影・・・・・
立ち上がり、こちらに駆け寄り抱擁された。
「10年ぶり!変わってないなあ・・・あの頃と」
やはり遼だった・・・・・夢ではないかとまだ信じられない誠・・・・
「遼・・・」
大人になってはいたが、あの頃の美しさはそのままだった・・・・
「遼が・・・・オーナー?」
「もともと、父が持っていたサッカーチームだったんだ。それを僕が引き継いだ」
遼は華奢ではあるが、背が高いため弱弱しい印象はなかった・・・・
「でかくなったな・・・」
遼の肩に手をかけて誠は微笑む・・・・
「お前こそ・・・」
長い月日さえ感じさせなかった・・・・少年から大人になった違和感もなかった。
お互い、想像した通りの姿だった・・・
「出張で出かけていて、今になったよ・・・誠が着いたらすぐ会いたかったんだけど」
「ずいぶん・・・立派になったなあ・・・」
遼は優しい微笑みを送る・・・・
「僕は君の才能を、最大限に伸ばす機会を与える事が出来る。成功は君次第だ」
「今度は・・・俺が守られる番か?」
「君の役に立つ人間になると、あの時決めたんだ。これからはずっと一緒だよ。」
遼は右手を差し出す・・・・・誠はその手を握る。
ー別れてもいつか必ず君の傍に行くー
あの日の誓い・・・・・
再び、あの清らかな美しい顔を見れるとは・・・・・・
ーここから始まるんだ・・・・− 再会は第二の始まり・・・・・・
完
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