14.仲直りの機会

 

 現場の通訳を終えて、マシーンの取り扱い説明書のドイツ語の訳をコンピューターに入力する遼・・・・・・

人事部の片隅で、せわしなくキーを打つ遼に、紙コップのお茶が差し出された。
「少し休め」
休憩時間だった
「野々宮さん・・・」
やはり誠に何処か似ていた。
隣の椅子に腰掛けて、自分の紙コップのコーヒーを飲む野々宮部長・・・
「誠が、失礼なこと言ったらしいが・・・」
「いえ、誤解させた僕が悪いのかもしれません」
「や、あいつ、単純バカだから。」
「誠は、お父さんの事、ホントに好きなんですね」
紙コップを両手で包み込み、遼はうつむいた。
「知ってて・・・誠と友達になったのか?」
「いいえ、母の遺品に野々宮さんの名刺があって、真理子おばさんが母の同級生だと教えてくれました。

母が一番信頼してた親友だと。告別式に来られた野々宮さんを見て、誠のお父さんだと知りました。

誠の家にあった家族写真で顔は知ってましたから。」
「君は、お母さんを侮辱されたみたいで気分が悪いだろうが、許してやってくれ。もともとは美人のお母さんに憧れて

片思いしていた俺の責任だから。」

 

遼は決意したように潔く笑った・・・・・

「ここのバイトに入ったのは、野々宮さんに近づく為でした。」
クールだが・・・慈愛に満ちた眼差しが遼を見詰める・・・・・
「ご迷惑かもしれませんが...ドイツに行くまでの間、父親の代わりをしていただけませんか?」
野々宮に求めていたものは・・・・父親像・・・・・・
「俺でよければ。」
安心した遼の顔から笑顔がもれる・・・・・
「始めからそうお願いするべきでした。僕のなかで野々宮さんをお父さんと見立ててて行動するから、 誠が誤解したんです」
「今週末、家に泊りに来なさい。一日息子体験コースてのをやろう。というか、誠とも仲直りした方がいいし。」
「はい」

「誠もあれから落ち込んで、どうしょうもないんだ・・・構ってやってくれんか?」

 

ーそう・・・和解するのだ・・・・ドイツ行きの前に。後悔の無いようー

(相手から与えられる事ばかり思うと、すれ違う。どうすれば与える事が出来るのか・・・・それだけを考えよう)

誠に守られ保護されてきた自分の、最後の恩返しだと思った・・・・・・・・・

 

 

「え?!遼泊まりに来るの?!」

夕食のテーブルで告げられた父の言葉に、わが耳を疑う誠・・・・・

「一日親子する事にしたんだ。いいだろ〜〜〜」

(・・・やきもちなんか妬かないつーの・・・・)

誠はふくれる・・・・・・

「仲直りりしなさいね」

真澄も笑って言った・・・・

「そうだねえ」

 

 

ー笑顔でドイツに送り出してやるのだ・・・・・・ー

 

 

失うのではない。別れではない。きっといつか逢おうと、そう誓ったのだから・・・・・・・・・・

 

(!え!!!!じゃあ・・・・また・・・・一緒に寝るのかー!!!!)

顔が赤くなっている気がして誠は俯いた・・・・・

 

(それでも・・・最後の夜だ。少しでも近くなりたい・・・俺があいつの一番でありたい)

 

不安半分・・・・・期待半分な野々宮誠・・・・・・

 

 

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