13、すれ違い
母方の祖父母の家にいるのも、あと数十日・・・・
遼は部屋で荷物をまとめる。
昼間は通訳のバイト、夜はドイツ行きの支度で忙しい。
飛行機のチケットは送られてきた・・・・・・
(誠と、こんな雰囲気になったまま別れたくないなあ)
遼はため息をつく・・・・・
確かに、誤解を受けるような行動はとったかも知れない。野々宮部長に接近しすぎた。
(父の面影を誠に見るだけでは足りずに、野々宮部長にまで・・・欲張りだったんだろうか・・・・)
隠し子疑惑をかけられて、怒ったわけでも傷ついたわけでもない・・・・・・
ただ・・・・がっかりしたのだ・・・・
とても誠が恋しくて、逢いたかった。誠もそうなのだと思った。
だから逢いたいと言ってきたと信じていたのに・・・・・・・
笑いつつ、色んな話が出来ると思っていた・・・・・のに・・・・・・・
誠の笑顔・・・優しい瞳・・・・
力強い大きな手で、頭を撫でられること。望んでいたものは無く・・・・尋問だけ・・・・・・
(でも、あんまりだよなあ。それって)
デートのあてが外れた気分の遼・・・・・・
(誠は、僕が思っているほど僕のこと思っていないのかも知れない。誠は友達も多いし。僕には誠しかいないのに。あいつは、それがわからないんだ・・・・)
遼はそこまで考えて自嘲する・・・・
(何で、こんなに弱くなったんだろう。もう誠なしでいられないくらいだ)
仲直りして、ドイツに行かなければ・・・・
そのことが一番の気がかり。
(遼・・・・)
誠は、やりかけた課題の手を止めため息をついた・・・・
(傷つけたんだろうなあ・・・俺。どうしよう・・・)
守りたい一番大切な人を、自ら傷つけた罪の重さに誠は悩む。あまりにもストレートな性格が疎ましい・・・・
なんとなく、父とも顔をあわせづらくなってしまった。
「俺て・・・何がしたいんだろうなあ」
遼のことで、ずっと何も手が付かないで悩んでいる自分にあきれる。
単純な彼は、これほど悩んだことが無いというほど悩んでいた・・・・・
右腕にはあの夜、腕枕した遼の頭の重みが蘇る・・・・
柔らかな髪、長い睫に縁取られた閉じた瞼・・・・・うっつすら赤い、やわらかそうな唇。
男にどうしてこんなに惹かれるのか・・・ときめくのか分からないまま、眠れない夜を過ごした・・・・
(遼は安心して眠っていた・・・無防備に・・・それって俺はそういう、ドキドキの対象じゃあないということか?当たり前だけど・・・・)
誠は鏡を見る・・・・・
どうみても、自分には遼をひきつけられる魅力はないと思われた。
(せめてダンディーな魅力・・・とかでもあればなあ)
スポーツ少年は悩む・・・・・・
(それより・・・仲直り。どうやってするかなあ)
遼にとって、自分はどんな存在なのか・・・誠は気になる・・・・・
遼はそれほどでもないのに、自分だけがむちゃむちゃ遼を好きみたいで虚しくなる。
こんなにも自信の無い奴だったのか・・・・・と、自分であきれるほど遼に関しては自信が無い。
嫌われるのが怖い、失くしたくない。誰にも渡したくない・・・・・
それぞれ、すれ違う二人の想いは夏の夜空に溶けていった・・・・・・
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