9.つないだ手

 

夕方、クラスの担任とクラスメイト数人とともに、誠は現れた。

「遅くなってごめん・・」

「来てくれただけで嬉しいよ」

母方の祖母が、彼らの相手をしている間、誠と遼は少し外に出た。

「夏休み明けにはドイツに行くよ・・・」

「え?!」

誠は立ち止まる。

「そんなに早く?卒業してから行っちゃあ、だめなのか?」

「高校受験のこともあるし・・・早く行って慣れないと。」

「遼は平気なのか?俺と会えなくなること・・・・」

(平気なわけない。どれほど心痛い事か・・・)

「誠・・・約束して。僕の事忘れないと。そして・・・いつかきっとまた逢うと・・・・」

ガラス玉のようなブラウンの瞳が誠を捉える。

その瞳から逃れるように誠は目を伏せる・・・・・

「一日たりとも離れていたくないのに・・・・これから俺どうしたらいいんだ」

「きっと。誠の役に立つ人物になる、だからそれまで、お互い自分の道を進もう」

(もっと早く友達になっとくんだった・・・・)

後悔が誠を襲う・・・・・

「誠に守られていた僕でなく、誠を助けられる僕になる為にも・・・・」

「助けてくれなくてもいい。傍にいてくれれば・・・・・・・」

力なく誠はつぶやく・・・・・・

公園のベンチに腰掛けてしばらく二人は無言だった。

 

 

 

「誠を道しるべに進むから・・・誠も必ずいつか僕のところに来て」

そんな確信を何処から引き出したのか。誠は不安だった。

「僕は信じているよ・・・僕らはもう一度会う運命なんだ。」

遼の口からそんな言葉を聞くと誠は、それが真実のような気がしてきた・・・・・

(両思いだったしなあ・・・・運命の赤い糸で結ばれてるのかなあ)

ぼーっとそんな事を考えている誠の顔を、遼は覗き込む・・・・

「信じてないの?」

遼のアップにドキドキする・・・・・・・・・

「いい・・・・いや・・・」

「短い間でも、僕は誠との思い出で一杯だよ」

「それは・・・俺も・・そうだ・・」

いくら友達が多くても遼は特別だった・・・・遼と交わした会話・・・一言一句忘れてはいない。

「だから・・・これからドイツに行くまでの間は、今まで以上に大事にしたいなあ・・・・って。

誠もそのつもりでいて欲しいから。僕の話は終わり。」

「判った」

遼はにっこり笑うと立ち上がり、誠の手を取り駆け出した。

「先生たち待ってるよ、行こう・・・」

 

握られた手にドキドキしながら、誠は一緒に駆け出した・・・・・この道が永遠に続けばいいと思いながら・・・・・・

 

 

 

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