7.初恋の面影
昨日外泊したため、放課後、遼は即効で母の病院にむかった。
「遼・・・昨日、お友達のところに泊めてもらったんだって・・・そんなに親しいお友達できたのね」
大学病院の一室、特別室のベッドに横たわり、母、美琴は微笑んだ。
日に日にやつれてゆく・・・・・医者からも覚悟しておくように言われていた。
「うん。父さんのことで落ち込んでたら心配して・・・・泊めたくれた。いい奴だよ・・・」
「そう・・・・」
(母さんも・・・父さんに会いたかっただろうねえ・・・・)
遼は作り笑顔を向ける・・・・・
「ごめんね・・・遼・・・」
「今更だろう・・・・」
と窓を開けて換気をする遼・・・・・
「一人で・・・ドイツに行かなきゃならないかも知れない・・・・もし、いやなら・・行かなくてもいいのよ」
「行くよ。最悪一人でも。お祖父さんに、父さんが母さんを選んだ事、正しかったと認めさせてみせる。」
そのためだけに一人、猛勉強してきた遼が不憫だった・・・・・
「友達作る暇も無いほど、勉強してきたものね」
「でも、そのお蔭で意中の友達ゲットできたよ」
「お父さんに似てるとか言っていた・・・・その子?」
「うん。誠が勉強教えてくれって言ってきたんだ・・・でも、もうすぐお別れだけど」
「遼・・・」
「でも別れても、僕らはまた出会う・・・そんな気がするんだ。だから、あいつの役に立てるほどの人物に
なってみせるって決めたんだ・・・・・ドイツに行けば可能だろう?」
母子家庭で育った華奢な遼が、何時しか大人の男に成長していた・・・・美琴はそれが頼もしかった・・・・
「一人でも大丈夫?・・・」
「一人じゃあないよ。離れていても僕は誠と一緒だよ。」
点滴が終わろうとしていたので、遼は病室を出てナースセンターに向かった・・・・
(遼一さん・・・・貴方の息子は、立派に麻生を継ぐわ・・・・もし、ここで私が遼を残して死んでも、赦してくれるわね・・・・・)
美琴の瞳から涙がこぼれる・・・・・・
コンコン・・・・ノックがしてドアが開く・・・・・・涙で滲んだ美琴の瞳に夫、遼一の姿が浮かんだ。
「遼一さん・・・・」
背の高い、体格のいい男が近づいてくる・・・・・・
「誠」
戻ってきた遼の声に我にかえって涙を拭うと、美琴は目の前の中学生が遼の友達、誠である事を確認する・・・・
「来てくれたんだ・・・・ありがとう・・・」
「うん。部活終わってすぐ来た。」
遼が、父親の面影を見るほどのことはあると美琴は思った。誠は遼一に似ていた・・・・・・
「初めまして・・・野々宮誠です。」
「野々宮・・・・・」
高校時代の親友と同じ名前・・・・・・・
「遼と仲良くしてくれてありがとう・・・・これからも仲良くしてね」
野々宮という苗字のせいか、誠に何処か、健司の面影を見る美琴。野々宮健司・・・・・
クールで頭脳明晰な初恋の少年。少女時代の淡い思い出・・・・・
「あ、これ・・・お見舞いです。」
果物の籠を差し出す誠、受け取る遼・・・・・・この二人は何処かお似合いだった・・・・・・・
「いい子ねえ・・・誠君て」
誠が帰った後、美琴はそうつぶやく
「うん。」
遼が憧れるのもわかる気がした。
息子は父親に追いつき、追い越そうとするもの・・・・・無意識に遼は誠の中に映る遼一の影を追っているのだ。
「お父さんに・・・ホント、似てる・・・」
(健司にも・・・・・・)
美琴は幸せそうに瞳を閉じた・・・・・・・・
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