3、守りたいもの

 

 

大雨でサッカー部の練習が無かったある日・・・誠は図書室で遼を探した。

朝から元気が無かった遼のことが心配だった・・・・・

しかし・・・いない・・・・

中庭を通りかかった時、中庭の木に寄りかかって雨に打たれている遼を見つけた・・・・

「遼・・・帰ろう・・・」

誠は傘を差し掛ける。

「誠?!」

見上げた彼の瞳は涙に滲んでいた・・・・

 

 

 

誠は遼を家につれて帰り、シャワーさせた後、タオルで髪の水分をふき取ってやっていた・・・・

「あんなところでずぶぬれになって、何してたんだ?」

バスローブを纏い、ソファーに座っている遼は黙って俯いていた・・・・

「言いたくなかったら言わなくてもいいけど・・・ココアとか入れてやろうか?コーンスープとかもあるけど・・・」

「ううん・・・誠・・・傍にいて・・・」

誠は遼の隣に座った。遼は誠の肩に自分の頭を持たせかけて目を瞑った・・・

「父が・・・昨日・・・亡くなった・・・・間に合わなかったよ・・・」

「ドイツにいるというオヤジさんか・・・・」

「母さんと行くつもりだったんだ。もう・・・僕は・・・父に会えない・・・」

事情があって遼は父親と離れて暮らしていた事、遼は父親の顔も知らないということを誠は聞かされていた・・・・

「お袋さん・・・回復しそうか?」

「いいや・・・」

15歳で父親を亡くし、母親は病の床。遼も心細いだろう・・・・

「今は俺が傍にいてやるからな。」

肩にまわされた誠の腕が心地よく、遼は眠りの世界へ引き込まれていった。

 

眠る遼の顔を見つつ、誠はそんな遼の憂いを秘めた表情に魅かれていたことを確信する。

入学して間もない頃・・・・図書委員の友達を手伝って本の整理をしていた時、図書室で勉強している遼を見かけた・・・・

消えてしまいそうな、儚げな姿に目が放せなかった・・・・

 

守りたい・・・・守ってやりたい・・・・そんな衝動に駆られる・・・・・

 

運動場の端で、かなきり声をあげて応援している誠の周りの女子達には、そんな感情は感じた事がなかった・・・・・

物陰からそっと見守っている・・・・そんな物静かな少女はいないものか・・・と思っていた。

 

遼が本から目を離し振返った・・・・・・・・ふと・・・目が合った。

あの時の、何ともいえない感情は今も鮮明だ。

一瞬、遼は頬を赤らめて俯いた・・・女の子であったなら、誠のツボど真ん中だったろう・・・・・

むさくるしいサッカー部の友達とは違う雰囲気に、誠は酔っていた・・・・・

 

「誠、どうした?」

図書委員の中島が後ろから声をかける・・・・

「あそこの・・・」

「ああ・・・一年C組の巻町か・・・秀才で美少年、もてもてのパーフェクトなラッキーな奴さ・・・」

「巻町・・・何ていうんだ?」

「遼。名前までかっこいいだろう?」

 

・・・・巻町遼・・・・・・

本を読む、俯いた遼のうなじの白さが誠の目を射る。

 

「誠・・・まさか・・・一目ぼれ?お前・・・あっちだったのか?」

「何だよ・・・あっちって・・・」

中島は誠を本棚の影に連れ込み、辺りを見回す・・・・・

「うちのサッカー部の先輩の中で、巻町狙ってる先輩何人かいるらしいぞ・・・・」

訳のわからない誠は首をかしげる・・・・・

「何を・・・狙うんだ?」

「恋人にしようと・・・」

え!!!!

「男だろ?あいつ・・・」

「女みたいに綺麗じゃないか」

思い当たる・・・・誠自身、遼と目が合ったとき不思議な気持ちになった。男のうなじに見惚れてるなんてのも変なことだった・・・・・・・

ほかの男どもが欲情してもおかしくない・・・・・ますます遼を守らなければと思った・・・・・・

 

しかし・・・・・・・

 

俺も・・・・・・・・

 

 

遼に・・・・惚れてるのか・・・・・・

 

誠は中島を見詰める・・・・・・

(コイツと目を合わせていても、なんとも無いのに・・・・)

「誠?・・・何見詰めてるんだ? 気持ち悪いぞ・・・お前、マジあっちだったのか!友達やめるわ・・・・」

逃げる中島の腕を掴む誠・・・・・

「違うって・・・」

「離せ!」

焦る中島・・・・・・

「バカ。俺は違う。もしそうでも、絶対お前みたいなガテン系は好みじゃないから安心しろ。何が哀しくてお前なんかと・・・・・・・」

安心半分・・・・悔しさ半分の中島。

「悪かったな・・・美少年でなくて・・・・」

 

もう一度、遼の座っていた席を見ると、もう遼はいなかった。

巻町遼・・・・・・・・

 

あれから誠は、自分が遼を物陰からそっと見守る少年になってしまった・・・・・・

遠くから見守っていた遼が・・・・自分のすぐ傍にいる。

 

遼の哀しみにつけこんで・・・という罪悪感はあったが、誠はしかし幸せだった・・・・・・

遼がもっと自分を頼ってくれることを望んでいた・・・・・・

 

        

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