1、急接近

 

 

 

放課後の運動場、サッカー部が練習をしていた。

巻町遼は、図書室の窓からそれを見ている

人一倍動きの速いセンターフォーワードは、城北中学校3年B組 野々宮誠・・・

念願のクラスメイトになれた嬉しさに笑みが漏れる。

遠くからでもいい。彼を見ていられるなら・・・・・

背の高いがっちりした体格も、男らしい笑顔も、大らかで素直な性格も・・・総てが憧れだった。

美少年・・・・遼はそう呼ばれる自分に満足していない。

低めの背も華奢な体躯も、女のような顔つきも・・・・・声さえ少年そのものだった・・・・・

ー男らしくないーそれが彼のコンプレックス・・・・・女生徒に王子様とか貴公子とか呼ばれるのも好まない。

誠みたいになりたい・・・・遼はいつもそう思っていた。

 

 

「おい、巻町。英語教えてくれよ〜」

中間考査を目の前にあろう事か、誠が遼に泣きついてきた・・・

「え?僕?」

「そうお前。クラスで一番、英語できるお前。」

誠は人懐っこい。秀才で美少年の遼を男子達は敬遠しているにもかかわらず、誠は遼に何の感情も持たない。

「俺んち行こう。晩飯食っていっていいから・・・」

いきなり意中の誠から声がかかり、家に招かれた遼は内心パニック状態だった。

「い・・・いいけど・・・」

「よし!行くぞ。」

遼の腕を掴み、誠は家に連れて行った・・・・・・

いきなり腕までつかまれた遼は何が何だか判らないまま、ついていった・・・・・

 

 

「あら〜〜〜新しいお友達ね〜〜〜」

誠の母、真澄に挨拶すると、いきなり気に入られた

「誠みたいなごっい息子より、遼君みたいなかわいい息子がいいなあ・・・・」

「うるさい母さん、あっちいけ」

二階に上がり誠の部屋に二人 ・・・・・

遠くで見ているだけだった誠の部屋にまで一気に上がり込み、急接近を果たした遼・・・・・・・しどろもどろ・・・・・

 

「おい!何緊張してんだよ・・・・クラスメイトじゃんか水臭い・・・・」

英文法の説明も途切れ途切れの遼の肩に、誠は手をかける。

えっつー

いきなりなれなれしい誠についてゆけない遼・・・・・・・

「・・・・俺・・・なれなれしいか?」

遼を覗き込みつつ言う誠・・・・・・・

「うん・・・少し・・・女子にもそうなの?」

「まさか〜〜〜俺、硬派で通ってんだぜ。」

ほっー安心する遼・・・・・・・

「お前こそモテモテじゃん彼女いないの?」

「王子様扱いされるの嫌なんだ・・・・」

ふーん・・・・・誠は遼の顔をまじまじと見詰める・・・・・・遼は耐えられず俯く・・・・耳まで赤くなっている・・

「マジ、綺麗な顔してんなあ・・・・・」

「・・・・嬉しくないよ・・・そんなの・・・」

「かわいいとか言われんのが嫌なんだろ?」

うん・・・・遼は頷く・・・・・

「女じゃあるまいしな・・・・でも、お前モテるから、クラスの男らが目の敵にしてんだろ?」

「野々宮は・・・僕の事・・・平気なんだ・・・」

「女にあんまし興味ねえし・・・・モテたいとも思わんし」

モテる癖に・・・・・と遼は思う。いつも運動場には誠のファンの娘達がキャーキャー言っている・・・・・

「モテるからなあ・・・・野々宮も・・・・」

「誠でいい。もう友達だし・・・」

え・・・・・・遼は戸惑う・・・・夢にまで見たあの誠と友達・・・・・・

「俺んちにきたら友達なんだ。」

結構無理やりな誠。

「誰とでも・・・こうなの?」

友達が多いのはそのせいか・・・と遼は思う・・・・・

「いいや・・・・・お前だから。」

えっ・・・・・・・・・・・・・

「なんか・・・・気になってたんだ。一年の時から・・・」

どきっー 遼は次につづく言葉に緊張する・・・・・

「何でだろう・・・振返るといつもお前がいて・・・いつも目がお前を追っていて・・・男が気になるなんて変だから、友達になってくれなんていい出せなくて・・・アレと間違われるのも嫌だし・・・」

「アレ・・・?」

「いるだろう・・・・お前に言い寄る・・・・男とか・・・・」

ああー思い当たる・・・実は遼は女子に”かわいい”と言われるより男に”かわいい”と言われる方が嫌だったのだ・・・・

1年、2年のころ、先輩からよく誘われた。弟になってくれとか・・・付き合ってくれとか・・・・

 「なんで・・・そんな事まで・・・」

知っているんだろう・・・と思う遼。そういえば・・・一度断った先輩達は二度と来なかった・・・・

「まさか・・・・」

誠は頷く・・・・

「俺・・・1年の時からコワモテだったから・・・つっても誤解すんなよ、ストーカーじゃないぞ・・・・」

誰も、遼にちょっかい出さないように、誠は、にらみをきかせていたのだ。遼は複雑な気分になる。

「誠にとって・・・僕は・・・か弱い守らないといけない存在なのか?」

「守りたい存在なんだ。大事なんだ。」

 

なぜ・・・・・・・

 

2年間の沈黙を破って誠は遼に近づいてきた・・・・・・・

 

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