無意識の幸福 3
出張執刀から帰った拓海と、病院の台所で昼食を摂る紀子
どう見ても恋とは程遠い・・・・
ため息をつく・・・・
「何?人の顔見て、ため息なんて失礼でしょう?」
患者さんの差し入れのコロッケと、刻んだだけのサラダ、伊吹直伝のコンソメスープが今日のメニュー。
「あ・・・ドレッシングはゴマダレ?しょうゆ?」
「紀ちゃん?何かあったの?」
「拓海先生と何時、結婚するのかって・・・患者さんが・・」
ふ〜
ため息をつく拓海
「先生だって、ため息ついてるじゃないですか・・・・」
「実は、僕も服部教授から、紀ちゃんとどういう関係か訊かれた。何でもないって言うと、教授の高校生の末娘を勧められた・・・」
「え?高校生の娘と結婚しろと?」
頷く拓海・・・・
「もちろん、卒業後だよ」
「先生、結婚しないんですか?」
「さあ・・・」
自信が無い拓海・・・
「この環境を理解して、何も言わずに、ついて来てくれる人なんているかどうか・・・」
「結婚は条件じゃなくて、愛でしょう?」
「恋愛と結婚は別でしょう」
2人の意見は対立した・・・・
「愛していたら、どんな環境も受け入れられますよ」
それは理想論・・・・・
医学生時代、交際していた女性は、拓海が父親のボロ病院を継ぐと言うと去っていった・・・
彼女は 服部教授の愛弟子で、将来有望な外科医である拓海と付き合っていたのだ。
ボロ病院の医者の拓海は必要なかった・・・
以降、若干の女性不信に陥っていた・・・・
「そんな人がいたら、すぐプロポーズするよ」
皮肉った拓海の言葉に、紀子は何故かドキッとする。
そんな自分に焦る・・・・
「お金持ちと結婚したい願望、女性にはあるでしょ?」
「収入がどうこうじゃなくて、仕事バリバリやってる姿に、男性らしさを感じますよね・・・私は」
ふ〜ん
頷く拓海
「紀ちゃんは、価値観が僕と似てるから、こんな所で楽しく仕事できるんだね・・・」
(ああ・・・そうか、だから拓海先生といると心が楽なんだ・・・)
「まあ・・・求人募集の ”薄給冷遇”は一種の踏み絵。それでもいいって言う人しか、ここで働けないんだ。
それにクリアーしたんだから、紀ちゃんは僕と同類項だろうなあ・・・」
「私なら・・・この環境平気なんだけどな・・」
そうつぶやく紀子の様子が、いつもと違う。
「紀ちゃん・・・」
穴が開くほど拓海を見つめる
顔立ちは悪くない、端正な面に、絹糸のような黒髪を垂らして、黙っていればかなりの美形である。
問題は・・・性格。完全コメディーである。
紀子はトレンディードラマを望んでいるのに、拓海は吉本新喜劇・・・・・
「やっぱりダメだわ・・・・・」
(????)
拓海は途方に暮れる・・・
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