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それから暫くして、お町もお紺も無事に男の子を産み、平次のところにも、永井藩から礼状とお礼の品々が届けられた。

「殿様も御家老も大喜びだねえ、お前さんとこもおめでとう」

誠次郎が雪花楼にお祝いを届けに来たところに、お城からの品がやってきた。

「今年は男の子が生まれる年なのかい?将軍家もお世継ぎがお生まれになったらしい」

その話は既に誠次郎のところに知らせが来ていた。これでお藤様は安泰だ。

「名前つけたのかい?末っ子の?」

「荘介がいいって八卦見が言うんだ」

なるほど・・・茶を飲みながら誠次郎は頷く。

「末っ子だけが頼りだな〜喜八は後継がねえし、ばかりか嫁に行っちまうし」

あ、もうバレたのか・・・誠次郎と悠太はギクリとした。

「生まれた赤子を見にお城に来いとお町が言うから言ってさ、そんとき、お紺jから聞いたさ。まあ、反対はしないけど、心配で

その帰りに流水御殿にお邪魔したらな、なんかこう・・・幸せそうなんだ、喜八が。だからこれはよしとしてな・・・」

そうかい、と笑って誠次郎は頷く。喜八も早川桜花という名を貰いデビューしたばかりだ。

全てはうまくいっていると言っていいのではないか。

十郎太も、色々話し合った上で、綾姫からOKを貰い挙式の準備をしている。

「お前、また新しいもん流行らせたな?ほら、指抜き」

西洋の姫や王女がする装飾品である、指にはめる輪を恭介に作らせ、誠次郎は十郎太に勧めたのだが、このエピソードが広まり

男が妻問いの際に女に指の輪を贈るのが今やトレンディーとなっている。

「指抜きじゃないよ、それはお貼り道具で、こちらは指の輪と言って、装飾品だ。ちゃんと真珠や珊瑚、翡翠などという宝玉がついているんだ

値段もお高いよ?」

つくづく商売上手だと悠太は思う。どこからそんな知識を仕入れてくるのかはわからないが、誠次郎は時代を先取りするのだ。

「良かったですね、綾姫様と十郎太さん、お似合いですよ」

「めでたい事が続いて、順風満帆といきたいところなんだが、夕華が流水と喜八の事知って落ち込んでるんだ。恋の病というところかね

仕事も手につかない有様だ」

しかし、こればかりは、どうしょうもないではないか・・・今までにも、モデルになって流水に一目ぼれして、失恋した美人たちは多いと思われる。

「売れっ子があれじゃあ、困るんだよなあ。流水先生の目に止まってよかったのか、悪かったのか・・・それに・・・新入りの凪な」

以前、誠次郎が気にしていた、少年の名が出て悠太は、はっとする。

「あの子がどうかしたのかい?」

「いつまでも慣れなくてな、介添えさせたら異常に怯えるんだ、客に。訊いたらさ、父親が病で倒れた後は家賃も払えない状態で、家主が

お稚児趣味の大店の主に売って、家賃取ってたらしいんだ。勿論体が小さいから突っ込むとこまではいかなかったが、トラウマがひどくて

ああ、期待してたんだけどな〜上玉なのに、悠太といい、うちはなんだかケチ付いてるよな〜」

こういう話を聞くと、平次にはなんの感情もないが、つくづく廓は鬼畜だと悠太は思う。

「かわいそうにな、お前さんはあの子どうするつもりだい?」

誠次郎の言葉に平次は途方にくれる。

「今うちは”仕込み”を雇っていない。だからいわゆる治療は無理だ。このままじゃ店には出せねえ、困ったねえ」

こんな鬼畜な世界でも、平次のような店主がいてくれるだけで、悠太はほっとする。

「私は大旦那様、大好きですよ」

いきなりの悠太の告白に平次は固まり、誠次郎は激怒する。

「悠太?何言ってんだい!浮気する気かい?」

「そういう意味じゃないです、いい人だなあ、って」

「廓の主人がいい奴なわけないじゃないか!もう帰るよ」

本当に怒ってしまっている誠次郎は悠太の腕を掴んで部屋を出ると、掃除を終えて箒を手にした凪にばったり出くわす。

「おまえさん・・」

平次の悩みの張本人である。凪は誠次郎を見ると会釈をして眼を伏せた。

その仕草が妙に艶かしいので、家主に売られた事も、なんとなくわかる気がした。何処か被虐性を煽る少年だった。そしてどことなく卑屈な感じが

昔の自分に似ていて誠次郎は心を痛める。

「私は結城屋の店主で、ここの主人のダチだよ。客とかじゃないから気を使わなくていい、これおたべなさい。他の子に見つからないように

こっそり食べるんだよ」

袂から金平糖を出して、誠次郎は凪に渡す。その光景が悠太には懐かしく、胸の隅っこにザワザワと波紋が起こる。

「あ、の・・・」

貰っていいものか迷う凪の前に屈んで、にっこり笑うと誠次郎は凪の頭を撫でた、その仕草が父親の面影を呼び起こし、凪は懐かしさに

涙をポロポロと零した。

「いけないねえ、泣かせちまった」

そう言うやいなや、部屋から出てきた平次に見咎められる。

「おい、怯えてる新入りを泣かすんじゃない」

「いえ、大旦那様、結城屋様がこれを私に・・・」

と差し出された金平糖を見て平次は再び怒鳴った。

「なにナンパしてんだよ!悠太ん時と同じ手を使いやがって、この人たらしが」

人聞きの悪い・・・苦笑しながら誠次郎は悠太を見る、が悠太は知らんぷりでそっぽを向いた。

「ええ?悠太まで?」

「金平糖は私限定じゃなかったんですね?若旦那の浮気者」

さらりと言った言葉ではあるが、半分は本気だった。あれ以来、誠次郎が雪花楼の陰間に金平糖をあげるのを見た事がない、自分だけにだと

ばかり思っていたのに・・・少し、この凪が誠治郎にとってどんな存在なのか不安になってきた。

「おいおい、いい加減におし、この子が怯えるよ?」

と凪を見ると、今はクスクスと笑っていた。この3人漫才に、雪花楼に来てから、笑う事のなかった凪は初めて笑ったのだ。

この凪の笑顔に、平次も釣られて笑い、誠次郎はそのまま店を出た。

「若旦那、浮気しないでくださいね」

結城屋に帰る道すがら、悠太の言葉に誠次郎は笑う。

「する訳無いだろう?あの子はなんだか昔の悠太みたいで可愛かっただけだよ」

「そうですか?私には、あの子が昔の若旦那に思えました」

あ、何か、心を見破られた気がして誠次郎は口を閉ざす。実際、どちらにも似ていたのだ。

「懐かしいねえ、雪花楼にいた頃の悠太は可愛かったねえ」

「今は?」

「エロいよ」

はああ?街中で何を言い出すやら・・・悠太は呆れる。

「もう、今すぐどこかに拉致っちまいたいくらい、出会い茶屋行かないかい?」

ああ・・・悠太はめまいがした。同じ布団に寝ても手出ししなかった誠次郎が、今では昼の日中、手代をラブホに誘うオヤジになってしまうとは・・・

「行きません、仕事中です」

「じゃあ、店に帰って在庫整理しなさい」

在庫整理・・・はたと悠太は誠次郎を睨む。

「土蔵でイチャつく魂胆ですね」

当たり・・・と誠次郎は悠太の肩を抱き寄せる。

「あそこなら誰も来ないし、薄暗いし、そうしよう」

ノーコメントな悠太に、誠次郎は浮かれて、道を急ぐ。

三十路のオヤジにしては思春期のガキのような性欲を持て余しているこの店主は、今までも時々この手代を土蔵に呼び出してはセクハラしている。

しかしそれを悠太が許しているのは、誠次郎よりも自分がイチャつきたいからである。一応、他の従業員の手前ベタベタできないが

悠太は誠次郎よりも若い、ヤリたい盛りの十代後半だ。

誠次郎がこんな状態なので、悠太は助かっている。手代が店主を土蔵に誘い込むのは身分上難しいからだ。

こうして誠次郎が自分を必要としてくれている事に感謝する悠太だった。

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