47

 

「きっと、今年は誰も来ないねえ・・・」

壁にもたれて庭を眺めつつ、誠次郎はつぶやく

恭介にも宗吾がいるし、平次は今年は、年始のイベントのために大忙しだ。

お瑠依は・・・破談にしたから来るはずも無く・・・

「寂しいですか?」

どこか、だらけたようになっている誠次郎の隣に座りつつ、悠太は笑う。

「いや。誰も来ないんなら、思い切って悠太といちゃつこうかと・・・」

ごろんと横になると、悠太のひざに頭を乗せる

「一日くらいぼーとしてもいいよねえ・・・」

はい・・・悠太はうなづく

こう見えても、誠次郎はマメに営業をしている。

雪花楼のイベントで、招待されて来た、よその郭の店主とも顔見知りになり注文を取り付けている。

お客で来た大店の奥方、娘にも挨拶がてら、さりげなく新作をほのめかし、数日後、御用聞きに回る

皆、誠次郎の見せかけの笑顔と、しなやかな体躯に騙されて心を許してしまう。

お得意様を取ったの取らないのと、クレームも多いが、客の心をつかんだものが勝ち。

マメに営業しているものが、利を得るのが商人の世界なので、これもしょうがない。

何も考えていないようで、頭の中は結構忙しく動いている。

欲は無く、ただゲームを楽しむかのように・・・・

「若旦那は働きすぎですよ」

「悠太も、他の丁稚や手代みたいに、ハメ外して遊んだりできなくて、すまないねえ・・・」

そういわれても・・・・ハメの外し方も判らないのだ。

「遊びたくもありませんし。仕事していれば、若旦那の傍にいれてうれしい、それだけですよ」

まだ16という若さで、店に縛り付けている事に罪悪感を感じる。

「ねえ、悠太はいつから私の事好きになった?きっかけとかあるの?」

「いえ、一目惚れです。同じ匂いがして」

ふうん・・・

「似たもの同士って、魅かれあうのかねえ・・・」

「ところで、伊勢屋さん、すんなり破談にしてくれましたねえ・・・」

お瑠依は納得がいかなかったようだが、伊勢屋自体はすんなり諦めてくれたようだ。

「内の事情知ってるから・・・それに、もともとこの縁談は、誠太郎兄さんとお瑠依ちゃんの縁談だったんだ」

お互い、生まれた息子、娘を結婚させる・・・誠太郎が生まれる前に決めた事。

結城屋に男の子が生まれ、伊勢屋に女の子が生まれたので現実化した。

しかし、誠太郎は亡くなり、誠次郎がその後がまに座る。

不安でないはずが無い。

政略結婚の果ての、結城屋の惨劇を見たものとしては・・・・

さらに、誠次郎が継母の実家の萩野屋をシメたあたりから、不安は最大級に膨れ上がる。

誠次郎の黒歴史の最たるものが、この萩野屋事件だった。

表向きは、自分に嫌がらせをし続けた継母に、結城屋を引き継いで得た力で復讐した・・・という事になっている。

結城屋誠次郎は腹黒い、そして執念深い・・・・

追われた敗者をさらに追い込んで、叩き落す。そうささやかれている。

中の事情を知るものは源蔵と悠太しかいない。

「それに、私は腹黒だから断られて内心喜んでいるかもよ〜。自分から破談にしたら、私にいちゃもんつけられて

シメられるかもって、断れなかったんじゃないかな〜」

確かにあの事件以降は、誠次郎を恐れる商人は多い。さわらぬ神にた祟りなし・・・そう思われている。

「萩野屋さんの事、まだ誤解されたままなんですね」

悠太は源蔵から事情を聞いていた。

冨美は結城屋を継いだ誠次郎から、結城屋を奪おうとした。

外腹の誠次郎に結城屋を継ぐ資格無しと、自分の兄の次男に結城屋をあけ渡せといってきた。

挙句の果てに、誠次郎は東五郎の血筋ではないとまで・・・・

過ぎた事と、すべてを心にしまいこんだ誠次郎が、とうとうキレた。

父、東五郎は冨美の事を思い、離縁という形をとらなかったが、実質上の離縁だったのだ。

その離縁された継母が、今になって結城屋をよこせというのだ・・・

この事を明るみに出せば、誠次郎のしたことは正当化されるだろう。なのに彼は口をつぐんだ。

そういうところが父。東五郎に似ている。

「どうせ私は腹黒だからね・・・」

「今は、どうですか?まだ、憎いですか?」

「いいや・・・」

今ならわかる、冨美は愛されたいのに愛されなかった可哀想な女なのだ。

東五郎と志乃の犠牲者なのだと・・・

「悠太がいてくれれば、なんでも許せるよ」

 「私が。貴方の憎しみを解放できるのなら、努力を惜しみません。」

そういって微笑む悠太の姿は、幼い頃に見た母の面影だった。

 「明日、初詣にでも行くかい?」

「そうですね」

今日は本当に何もする気が無いらしい。

「すまないね、いつもお前に甘えて・・・」

「甘える事を知らない私って、問題ですよね」

 「甘えていいんだよ〜私が頼りないからかい?」

慣れていないだけ・・・

でもそれが、誠次郎との距離をつくっているのかもしれない。

「今後の課題ですね」

不意に誠次郎は起き上がると正座した

「はい、膝枕してあげるから横になりなさい」

「いやですよ。そんな下克上みたいな事、いやです」

はははは・・・・・

下克上・・・誠次郎は苦笑する

「私とお前の関係で、そんなの無いよ〜そうだ。二人だけのときは誠次さんと呼んでごらん」

「・・・・かんべんしてくださいよ・・・」

大人びてしまったゆえに進展しないのだろうか

しかし、いまさらキャラを崩壊させるわけにもいかない・・・

深い悩みに落ちてゆく悠太だった。

 

 TOP     NEXT

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system