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「と言う事だから、当分は、引っ越した俺んちに近寄るな」

突然、恭介と桔梗が結城屋に身請けの報告の挨拶に来て、誠次郎にそう言った。

「よかったですね、桔梗さんも。あ、宗吾さんだった。」

お茶を持ってきた悠太が、そういいつつ、湯のみを差し出す。

「すまなかったね、悠太にも心配かけて・・・」

湯のみを受け取りつつ、桔梗改め、宗吾が微笑む

もとはと言えば、平次が大騒ぎしたのが悪いと言えば悪い・・・

「恭介もこれで落ち着いたし・・・」

誠次郎は茶をすすりつつ頷く。

「もう色ボケとかいうなよ」

はははははは・・・・大笑いする若旦那・・

「奥方できたから、色ボケは卒業か・・・」

「奥方言うな!こいつが女装してないだけでも、かなりほっとするのは俺だけか?」

しかし、宗吾自信はまだ慣れないみたいである。

「私は変な感じですけど・・・」

「新婚さんのところには近づくな、と言いに来たのか?しかし、菊娘の間じゃお前ら大騒動だぞ・・・」

ああ・・・・

誠次郎の言葉に恭介は頷く。

「ばったり会っちまってな、あの夜、お町に」

「災難だな・・・」

「何処行ってもいるな、あいつ。」

「そう、湧いて出てくるよなあ・・・」

はははははは・・・・・

恭介と誠次郎の、あんまりな言い草に苦笑する悠太と宗吾・・・

「で、お菊様って誰だろう・・・」

誠次郎の素朴な疑問

「幹部にも素顔見せないらしいぜ。頭巾被ってさ・・・お町は正体知ってるみたいだけど」

究極の菊娘、正体不明の菊の総裁。菊産業の源・・・・

「雪花楼に一度、見学に来られましたよ。紫尽くめでした・・・」

宗吾が思い出したように言う。

「若そうだったかい?」

誠次郎が興味津々で聞いてくる

「声を聞くと、20代前半でしょうか・・でも、あの声、何処かで聞いた声なんだけど・・・」

首を傾げつつ、思い出せない宗吾。

「案外身近にいたりしてな。」

恭介はそう言って脅す

「それでも、菊産業のお蔭で、雪花楼の定期公演や、様々な行事に人が集まって来るんですから、

ありがたいと言えばありがたいんですよ。二次創作のお蔭で、雪花楼はかなり名が知れましたし、

昔の悪いイメージもなくなりましたし」

ふうん・・・・・

役には立っているようだ・・・

と言うか、ここ最近、菊産業には、かなりの大金が動いているらしい。

それほど、町娘は暇なのだ。妄想に明け暮れ、日々過ごす・・・・

「私の引退大売出しでも、菊娘が幅利かせてましたよ。」

町内カップルランキング2位の、受けの着物や装飾品はさぞかし高値で売れたことだろう・・・

「雪花楼も、菊娘あっての賑わいなんですよ。」

「世も末だねえ・・・・」

誠次郎はため息をつく。

しかし、その装飾品は恭介が作り、結城屋が売ったもの・・・

結城屋と恭介と雪花楼は三位一体で菊娘に世話になっている。

「それはそうと、それは祝い」

と、袱紗に包んだ祝い金を誠次郎は差し出す。

「ありがとうございます・・・」

宗吾は丁重に押し頂く

「桔梗改め、宗吾も、これで晴れて結城屋ファミリーの仲間入りだから〜」

それは、かなりありがたい事かもしれない・・・・

もう、怖いものは無いだろう。

しかし、爆弾を内包しているような感は否めなかった。

 

 

 

「恭さん、本当に悠太は若旦那の傍で幸せそうですね」

夕食の片づけをしながら、宗吾は微笑む

「ああ、あんな姿見ると、本当にお家再興なんて諦めざるを得ないだろう?」

そういいつつ恭介は布団を敷く・・・

「そうですね・・・」

 「ああ見えても、誠次は悠太の言いなりなんだぞ」

え?!

宗吾は驚いて振り返る。

「結城屋の皆が、悠太を認めてる理由はそこだ。」

そう言われれば誠次郎は、だんだ柔和になっていく気がする。

依然として笑顔で  ーシメますよ・・・−  という黒さは残っているものの・・・

「変わっていくんですね・・・皆、少しずつ・・」

茶碗を洗い終えて、宗吾は手を拭きながら笑う。

「でも、お前への愛情は変わらないからな」

恭介に後ろから抱きしめられて、宗吾は大笑いする

「その口の上手さは、死ぬまで変わらないでしょうね」

「ほんとだってば・・・」

四六時中、恭介の傍で恭介を見つめつつ、小さな発見を繰り返し、さらに身近に感じて行く・・・

こんな日々が永遠に、変わらずに続く事を宗吾は切実に願っていた。

「恭さん」

「え?」

「私はやはり、誰よりも恭さんが一番好きですよ」

廓でも、清純派で通っていた宗吾の口から聞く愛の言葉は、かなり貴重だ。

あちこちに、貴方だけを愛してます〜 を振りまく陰間の愛想など比べ物にならない。

「お前から、そんな言葉が聞けるようになるとはなあ」

「あ、今ままで言いませんでしたか?一度も?」

どうだったか・・・恭介は考える

「つきあってた男が多すぎて、誰に何を言われたか、あやふやなんじゃないですか?」

ははははは・・・・

「そんなこと・・・」

無いと言いたいが・・・図星だった。

「これからは浮気したら、怒りますよ?」

「しない、しない。探していたものは見つかったから。でも、俺の相手するのは大変だぞ、覚悟しろ」

バカ・・・・宗吾は笑う

真面目で、一途で、弱虫な癖に、強がって、悪ぶって、ふざけてる。

(みえみえですよ・・・)

恭介の弱さを、見て見ぬ振りしてきた彼は、そっと心でそう呟く。

 

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