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次の日、蕎麦屋に平次は悠太を連れ出した。

「お話ってなんですか」

それが・・・

平次は苦笑する、オマケつきかい・・・

「平次、そういう目で見るな」

誠次郎はむくれる

まあいいか・・・・決意して口を開く平次。

「桔梗のことなんだが・・・」

「桔梗さんが何か?」

「身請けされる事になったんだ」

誠次郎が身を乗り出してきた

「恭介だろ?」

そういうカンは鋭い。

「問題ないんじゃないんですか、もともとあの二人は恋仲・・・」

お家再興も諦めた今、恭介は庶民の生活に入った。とすると、好きな男と暮らしても問題ないだろう。

「桔梗が・・・・断るというんだ」

「引け目とか感じて・・ですか?」

「まあ、そんなところ」

二人の会話を、蕎麦を食しつつ聞いていた誠次郎は、ため息をつく。

「平次のアホ〜。そんな事、悠太に相談してどうする」

(若旦那・・・・それ言っちゃ身も蓋もありません)

悠太は困っている

「いや、悠太も元同じ立場だったし、何か判るかと」

「桔梗はめちゃめちゃ惚れてるな。恭介に」

誠次郎の一言は鋭い。

「そして、引け目を感じてる。女なら、子供でも生んでやれそうなところ、男じゃ役立たずだと・・・」

時々クリアーで、時々オオボケな若旦那。

「でも恭介さんは、女の人、駄目なんでしょ?」

ゆっくり蕎麦を食べつつ、悠太は思い悩む。

「あいつもなんか、トラウマあるよなあ〜女子供駄目だって・・・!とかいいつつ、あいつ悠太に・・・

子供駄目は嘘だぞ!」

「・・若旦那。今は、その話は・・」

威嚇する悠太に怯える誠次郎、

はい・・・・

「誠次、お前がトラウマの何の言えた義理じゃないぞ。確かに恭介は、女装も源氏名も駄目らしいけどな。

二人っきりの時は桔梗の本名呼ぶらしいし」

「げえ・・・普通、本名じゃ興醒めだから、源氏名つけるんだよな。」

普通はな・・・平次は頷く

「恭介さんて、徹底して男にこだわるんですね。でも、問題は恭介さんじゃなくて、桔梗さんですよ、若旦那」

悠太は話のズレを矯正する。

確かに、身請けされてもすぐ飽きられて、出戻るケースは多い。

そんな事になるなら、今のままでいたい・・・そういうことなのか・・・・

「私の見解はねえ〜桔梗は恭介をめちゃめちゃ愛してる割には、恭介の愛情に自身を持てない。これだね〜」

この前のオオボケとは、うって変わった誠次郎の穿った意見に、平次はあきれる。

「職業病だね、悠太にも教えたはずだが、ウチの禁止事項には”客に惚れるな” ”客の甘い言葉を信じるな” 

”客と金銭の貸し借りをするな”と言うのがある。閨の会話は聞き流しというんだが、その場その場で上手く会話を転がして

客を喜ばせればいい。しかし、それをやっていると、今度は客の真実を見失うんだ」

「ましてや恭介は色ボケだからな〜」

(・・・若旦那・・・)

今日の誠次郎はとってもクールだった。

「ま、それはある。つきあってた男はたくさんいたしな。」

ただ・・・ほとんど、やけっぱち的なつきあいだった・・・

「でも、傍から見りゃあ判るんだけどな、なんつーか、桔梗に会いに来る恭介は、

お袋に会いに来る小さい子供みたいだったんだ。単にヤりに来る客とは違った。だから、俺はあいつが

恭介に惚れてるの知ってて、何も言わなかった。恭介は桔梗を泣かせたりしないと判ってたから」

 確かに先のことはわからない。100%の保証なんて無い。

しかし・・・・

「恭介さんに説得させるしか無いでしょう?」

悠太の結論。

「そうだな」

クリアー、クールな誠次郎の結論。

「恭介に掛け合うよ。今回は誠次のクリアーな意見が役に立ったな」

「いや、最初っからそうするべきだろうが〜だからさっきアホと言ったんだ。」

(なんか誠次、強烈だな・・・)

平次は引いてしまう

「大旦那さんは桔梗さんの事、整理したかったんでしょ?客観的な意見が聞きたかったって事ですよ」

さすが悠太、ナイスフォロー・・・・平次はうるうるしながら悠太を見た。

「すまんな、お前達しか、頼るところが無いもんで・・・」

「しっかりしろよ〜〜〜」

励まされる平次。

 

 

「しかし、桔梗って複雑な性格してるねえ・・・というか、恭介が信用無いのか?」

結城屋に向かいつつ、誠次郎は呟く。

「判るような気がします・・・」

え・・・

誠次郎は悠太を見つめる

「私も、結城屋に来る時、そんな気分でした」

「どんな?」

「同情されて引き取られたのかなあ・・・とか。」

初耳だ。

「嬉しくなかったのかい?」

「嬉しかったですよ。夢じゃないかと思うくらい。でも嬉しければ嬉しいほど、

そんなに人生、上手くいくもんじゃないだろう・・・・なんて言う自分がいて・・・・」

あああ〜〜

「苦労性だねぇ〜」

仕方ないか・・・実際苦労したんだから・・・女が行く地獄の廓に男の身で入ったんだから・・・

「じゃ。悠太も、私の愛を実感して無いんだね?」

「愛されてる自信なんて皆、無いものでしょう?」

本気ならなおさら・・・・

ふうん・・・・

「でもあの二人は、すでに夫婦みたいなもんだろう?」

確かに、3年のつきあいではある。

陰間の女装は苦手といいながらも、恭介は桔梗の簪や笄には、かなり気を使っていた。

太夫として、恥ずかしくない装いをさせてやりたいと、心血注いでいた。

「大人の世界は難しいですね」

(悠太、何 子供になってるんだ?)

誠次郎は苦笑する

「恭介さんが有名になっちゃったのも原因かも」

ああ・・・・

「つりあいとか気にしてるのかな・・・」

誠次郎はうなだれる

「そんなこと言ったら私なんか、町人の身で、若様こき使ってるんだぜ・・・」

悠太の身分が気にならないと言えば嘘だ。

「鳴沢冬馬は死んだと、何度言えば・・・」

しかし・・・しかし・・・

血は偽れない・・・

侍と町人は結婚できないこの時代で、自分が悠太を思う事は、やはり罪なのだろうか・・・

「若旦那!怒りますよ。またおかしな事考えてるでしょう!」

悠太は、誠次郎に関しては鋭い。

「あ・・・ごめんごめん〜」

「でも、恭介さん、好きな人と添い遂げる気になったんだから、よかったですね」

悠太の願いはそれだった・・・

「それでか、あいつ家、引っ越すらしいよ」

新居をもっと条件のいいところに。

そして、

内山恭介の同行を見張る追っ手から逃れる為・・・

「上手くいくといいですね・・・」

悠太は笑いながら、誠次郎と結城屋の暖簾をくぐった。

 

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