25

 

 

悠太の誕生日に、誠次郎は1日休暇をやり、雪花楼に連れて行った。

「お妙呼んだから、少し待ちな」

部屋で平次がそう言う。

「いよいよ剃っちゃうのぉ?悠太ちゃん・・・」

桃若が珍しくお茶を運んできた。

「姉さん、こんな事、見習いにさせたらいいじゃあ・・・」

「あら〜いいの。今日は悠太ちゃんのお誕生日だって言うから、顔見るついでに、お茶持ってきたのよ」

ため息の平次・・・

「こんなんだから、後輩にこき使われるんだぞ」

ふふふふふ・・・・

姿に似合わない乙女な笑い方をする桃若

「ここに置いてもらえるだけで、感謝ですから。でも、あの悠太ちゃんが月代剃るのね・・・」

感慨深げに言う桃若・・・

「あ、私、紅葉ちゃんとお約束があるから、失礼」

そそくさと去っていく、乙女な男。後に残るは沈黙・・・・・・

 

 

「なんか、不思議なんだよな・・・」

誠次郎がぼそりという

「いい奴なんだけど」

平次がフォローする。

 

「大旦那〜来ましたよ」

お妙が明るくやってくる。

「ああ、ウチの子達の前に、悠太やってくれる?」

「悠太ですか?」

「もう16だから、月代剃ってね〜」

誠次郎が、相変わらずのへらへらでそう言う

「ああ、もうそんな歳なの・・・早いわねえ・・・じゃ、悠太いらっしゃい」

勝手知る雪月楼・・・お妙は、さっさと髪結い用の部屋に悠太を連れて行く・・・

 

「おい、悠太、なんか、やつれてるぞ。なんかあったのか?」

平次が心配して訊いてくる

「いや、夜更かししないでちゃんと睡眠とってるはずだ。何でだろう?私はぐっすりなんだけど」

「店忙しいのか?」

「いや・・・。まだ暑苦しくないよな、初夏だし・・・つーか、真夏はくっついて寝ちゃあ暑いか」

何?

「今なんて?」

「一つの布団で寝てるから、狭くて熟睡出来ないのかな」

「おい!」

平次が大きく反応する。

「同衾してるてか?それってヤりすぎとか・・・」

「変な事いうなよ、くっついて寝ると安心するんだ。でも、もしかして、私のいびきがうるさくて

悠太、寝られないのかな?ていうか、いびきかいてたっけ?平次、知らない?」

・・・・・・・

一体いくつなんだ・・・こいつは。

悠太に甘えてどうする?

「お前が、他人にベタベタ可能になった事は喜ばしい事だか、思春期の少年を翻弄するな」

え?

「そういえば悠太も自分は、実は邪でいかがわしいんだとか言ってたが・・・」

「お前に思春期はなかったのか?」

そういって平次は、ハタと気付く。

12歳頃、首に傷跡を作り、15歳で兄を亡くし、18歳で父を亡くし

それから店を継いだ誠次郎の人生はかなり特異だった・・・

「すまん、お前は思春期に、色ボケする暇もなかったんだな。」

哀れな奴・・・・

「平次、お前の言い方だと、悠太が思春期で、色ボケしてるような言い方じゃないか!」

「ボケてはないけど。ほら、元服するとは大人になる事だ、体が大人の段階を踏もうとするのは仕方ない事さ。

乗り遅れるとお前みたいに、大人子供になるんだよ」

なんだぁ!

少しムカつく誠次郎。

しかし、嫁がいて、子供もいる平次に太刀打ちできない。

「ヤりゃあいいってもんじゃないだろうが!」

「確かに、経験だけでは、心まで大人になるのは無理だ。が、悠太に拷問かますんじゃない」

うっ・・・・・

笑う余裕もない誠次郎・・・・

「悠太が、嫌がってるとでもいうのか・・・」

「嫌がってないけど、不完全燃焼を起してるかもな。」

え・・・・・

平次はため息をつく

(あ〜あ・・・ここにも乙女な男がいるよ・・・これって、傍にいれるだけで幸せ〜とか、

手つないでりゃ満足だとか言う娘さんたちと同じだ・・・)

「平次・・・」

見捨てられた気分の誠次郎。

「とにかく、思春期に容易く触れるな。だからって悠太は死んでも、お前に襲いかかれない奴なんだから。」

「襲いかかるって・・・」

嘉助などの第三者の事はよく見えるのに、自分と悠太の事は皆目、五里霧中な誠次郎が不思議だった。

一方、悠太は逆だ。自分の状態はよく把握しているが、他人の恋路には疎い・・・・

「いいコンビだなお前ら・・・」

ボケどころが違うところが、面白すぎる。

「とにかく、悠太から離れろ。」

「悠太はそんな事ないぞ!この前も、ちゅーしようと言ったら断られたんだ。」

だぁ!!!!

なんてことを言うんだこいつ!

「そりゃ断るわ、女の子に言っても断られるぞ。」

「悠太もそう言った。」

なにやっとんじゃ・・・・・・とても疲れた。

「そうなんだ・・なんか、平次の事、尊敬したな〜大人だなお前」

いつものへらへらに戻っている。

「いや、お前、それで25歳はあんまりだと思うぞ。それで年上の恭介を呼び捨てして、あんまりだぞ?」

お前も呼び捨てじゃんか・・・と思いつつも、かえす言葉がない。

「とにかく悠太から離れろ」

 「何が、離れろなんですか?」

そこに悠太がやって来た・・・

「終わったか〜よしよし、似合うじゃないか〜」

そうですか・・・首をかしげる悠太

「なんか・・・見慣れなくて・・変です」

「そうかい?変にイロっぽいな・・お前」

「大旦那さん〜やですよ〜」

本当に、すがしい美しさだと誠次郎は思った。

はらりと垂れたおくれ髪も儚げで愛しい。

「誠次がみとれてるぞ〜〜〜」

平次が茶化す

「若旦那・・・変ですか?」

コメントがないので不安になる。

「いや・・・惚れ直した〜」

ははははは・・・

いつものように笑って動揺を隠す。

「え〜本当に?」

「どうしょう〜こりゃまた、娘さんたち騒ぐぞ」

「そんな事ないですよ〜」

「あるよ〜」

 

「おい!いい加減にいちゃつくの辞めろつーの!」

 

 

昼食に二階の広間で寿司を取って、ささやかな宴会をした。

「私もおこぼれに預かりますよ〜」

仕事を終えたお妙が入ってくる。

「ご苦労さん、食っていけ〜酒はないけど」

平次は茶を入れた湯の身を差し出す。

「誠次も悠太も酒飲まないから、酒抜きなんだ〜」

「あら、悠太ちゃんはまだ16だからアレでも・・・若旦那、下戸ですか?」

「ああ、飲まなくは無いけど、あんまりねえ・・・・・」

「お子ちゃまだからさ〜」

平次がさっきの話を蒸し返す

「でも、商人組合の寄り合いとか・・・どうしてます?」

「ああ、ひたすら食って元を取るさ〜」

ふうん・・・お妙は変に納得する。

きっと飲まなくても、皆何も言わないんだろう。いや、むしろ、触らぬ神に崇りなしと、見て見ぬふりかも知れない。

「お誕生会してもらえる丁稚も、そうそういないわよ〜」

箸をとりつつ、お妙は悠太に話しかける

「ああ、お妙さん、悠太は、今日付けで手代だよ。」

さっさと、問題の嘉助から遠ざけないといけない、という誠次郎の策略である。

「これから悠太、思いっきり連れて歩くからね〜荷物持ちで・・」

ああ・・・そう・・・あきれるお妙

昨日今日、始まった事ではない・・・

「でさ悠太、元気なくない?」

「そんな事ないですよ、お妙さん」

いや・・・クマできてるし・・・

「誠次!判ったな?」

平次に凄まれて苦笑する誠次郎。

「何ですか?大旦那さん」

さっきから二人の会話が気になっていた悠太。

「安眠妨害するなって事さ」

え〜!!!!

「若旦那!何を話したんですか!」

「聞いての通りさ、思春期と、大人の段階を踏む事の意義と価値をだな・・・」

平次の言葉に、悠太の表情がとたんに変わる。

「・・・若旦那・・後でちょっといいですか?」

ぎょっ・・・・・こええぇ〜〜〜〜

和やかな宴会は一瞬にして修羅場と化した・・・・・

 

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