20
結城屋に戻ったのは11時を過ぎていた。
「若旦那、お疲れでしょう?」
寝室に入ると、早速悠太は床の支度をした。
「お前も疲れたろう?」
「楽しかったですよ、久しぶりに桃若さんに会えたし。」
いつも雪花楼には昼間行くために、陰間には滅多に会うことは無い。
皆 大体、個人的用事のため外出しているか、部屋で休んでいる。
「男のなりをすると本当にかっこいいのにね・・・・桃若は」
普通に何処かの番頭でもすれば女にモテるのに・・・と思う誠次郎。
「男らしい演技をすると、さらにカッコいいですね」
悠太も頷く
(どうしていつもは、なよっちいんだろうか・・・)
ため息で床に入る誠次郎
「私が雪花楼にいた時、ずっと火傷の手当てしてくれてたんですよ。背中だから手が届かないだろうって」
ふうん・・・
平次の好きだという言葉に、偽りは無いらしい
「でもまさか、あんなに変わってしまっていたとは・・・」
悠太も床に入る。
「姿が変わっても、嫌いにはならないだろう?」
「そうですね、中身は全然変わってなかったし」
「だから悠太も、どれだけ成長しても、悠太に変わりは無いんだよ」
「はい・・・・・」
何故か、変に安心したりした。
「もうすぐ悠太の誕生日だね。雪花楼でお祝いしようか」
「え・・そんなのいいですよ〜」
「剃髪式もして・・・手代に昇格して・・・」
時が経つと、姿も立場も変わって行く。
それを受け入れつつ、心は変わらないでいようと、悠太は思う。
「もう手代にしても、番頭さん達、なんにも言わないよね、つーか、若旦那付き手代というのを作ろうかなと。
次は若旦那付き番頭とか・・・」
(若旦那・・・いつまで若旦那やるつもりですか・・・)
悠太は心で突っ込む、はっきり言って、もう若旦那でなく旦那じゃないのかと・・・
いつまでも若旦那と呼ばせている誠次郎の中には、ためらいが見える。
旦那や大旦那になる事を拒否している。その先には結婚、出産が待ち構えているから
源蔵はもう諦めていると言っているが・・・・だからといって、誠次郎のプレッシャーは消えない。
「店中暗黙の了解ですから心配ありませんよ。それは。」
ー若旦那を動かせるのは悠太しかいないー
皆一目置いている。
そして、誰も腹黒誠次郎に関わろうとも思っていない。総てを悠太に押し付けて、自分の仕事に取り組んでいる。
「なあ、お町印の耳飾り、今回注文殺到だねえ」
ああ・・・・
例の菊娘達が、こぞって作ってくれといってきた。
菊娘達のファッションリーダとなったお町のマネを皆、したがる。
「何でも、あの耳飾りが菊娘のマークで、耳飾りしてたら見ず知らずでも、すぐ話が合うとかなんとか・・・」
これも結城屋専属として、商品登録してある。
「仲間意識の現われですね。白菊瓦版なんて、会報も出てて活発に活動しているらしいし・・・」
謎のリーダー"お菊様”を中心に彼女らの地下活動は進んでいる。
第2のお町を目指して、筆を執る者も多く、年2回菊市が開かれ、自作の本を持ち寄り売り買いしているらしい。
「世の中腐ってるよな・・・正しい男女交際できねえのかぃ・・・」
(若旦那が言っちゃ駄目ですよ・・・)
悠太は苦笑する。恋愛自体、無理状態の人が言う事ではない
「脳内恋愛しかできねえ奴らだよ・・・」
(他人の事は冷静に分析しますね・・・)
悠太は言葉が出ない。
「悠太、お町にゃ近づくんじゃないよ。何書かれるか判ったもんじゃないから・・・」
「はあ・・・」
ぴんと来ない悠太に、誠次郎はたたみかける
「あいつの書くものはな、その辺のオヤジが読んでるエロ本の、数倍酷いんだぞ」
その辺のオヤジのエロ本が、どんなものなのか判らない悠太は、曖昧に返事をする。
「はあ・・・あの、若旦那は・・・読まれたんですか?お町さんの本・・・」
「まだ無名の頃、私や平次に読ませちゃ感想を聞いて来るんだ。感想も何もないよ・・・
平次なんかキレちまった。ああいうのをセクハラて言うんだよなあ・・・」
あまりに個性が強すぎるお町・・・
だからこそ、なんやかんやで類友しているのかもしれない。
「あ、嘉助の件はどうした?」
「何とか切り抜けましたが・・・」
ふうん・・・・
あっちもこっちも大変だ。
なんとなく悠太は自分が、かなりぐだぐだしているように思える。
自己主張もできず、忍ぶ恋の果て、何の進展も望めない・・・
(若旦那はああいうけど・・・もしかしたらお町さん、相談に乗ってくれるかも・・・)
でも、ネタにされる可能性大である。
(駄目だ・・・やはり)
自分の恋の道は自分で辿るもの。
かっこ悪くても、ぐたぐたでも、それが真実。
「明日も早いから、おやすみ」
誠次郎はそう言って、眠りに落ちる・・・
そう、この人が大切。それだけでいい。結論はそれなのだ。
最近色々な事がありすぎて、本質を見失いそうだった。
ヒトコト感想フォーム |
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。 |